死小説

死小説 『死小説』

福澤徹三

判型:四六判ハード

版元:幻冬舎

発行:2005年6月20日

isbn:4344007506

本体価格:1500円

商品ページ:[bk1amazon]

小説新潮』誌上に発表した作品をまとめた怪談小説集。病に伏せった男が垣間見る悪意『憎悪の転生』、不倫旅行で赴いた宿で遭遇する怪異『屍の宿』、介護サービス業に従事する男が取引相手の老人に見た異様な出来事『黒い子供』、不仲だった伯母の葬儀に参加するため訪れた懐かしい土地で蘇る記憶『夜伽』、仕事と家庭の不和とで疲弊しきった男が空に見た光の正体を描く『降神』の全五篇を収録する。

『幻日』での静かな、しかし鮮烈なデビューからこの時点でまだ(或いはもう)5年だが、既に独自のカラーが完成されている。人物を無闇に個性的にはしない、だが経験に裏打ちされた精緻なディテールによって日々の営みの息苦しさと、その合間に怪異をちらつかせる。そうして結末に及んで突如として噴出させカタストロフィに導く手管は絶妙だ。

 本書については並べ方も巧妙である。冒頭2篇は比較的シンプルなどんでん返しを披露するが、続く2篇は結末こそ想像通りでも、そのイメージの不気味さにより恐怖を喚起する。そうした前提があって送りこまれる『降神』の、重々しい余韻が秀逸だ。先行するエピソードによって蓄積された“印象”があってこそ、『降神』のどこか曖昧だが恐ろしくも切ない結末は活きてくる。

 但し、これは立て続けに著者の作品を読んでいる弊害かも知れないが、一部、違う話であるにも拘わらず視点人物の生活背景が似通っているために既視感を齎したり話の筋を錯覚してしまう箇所があった。特に『降神』など、この前に読んだ『ピースサイン』収録の『憑かれたひと』を一瞬思い浮かべて混乱してしまった。

 とはいえ、サイケなイメージ力で読者を幻惑するのではない、有り体なホラーのガジェットを陳列して様式美的な恐怖を演出するのでもない、著者なりの恐怖演出の完成型を披露する本書は、著者の作品に馴染んでいるなら間違いなく堪能できる。ホラーにも渋みとリアリティを、と念じる向きであれば、初見でも満喫できるだろう。

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