武装錬金//

武装錬金// 武装錬金//』

黒崎薫・和月伸宏

判型:新書判

レーベル:JUMP j BOOKS

版元:集英社

発行:2006年10月31日

isbn:4087031713

本体価格:648円

商品ページ:[bk1amazon]

 2003年から2006年初頭にかけて発表され、熱くスピード感のある作風とかなり変態的な登場人物の個性とで人気を博した、和月伸宏氏による漫画作品を、2006年10月からTVアニメとして放送されるのに合わせて、原作にてストーリー設定に協力した黒崎薫氏が執筆した小説版である。

 死闘を終え、ようやくもとの平穏な暮らしに戻ったカズキと、そんな彼らの暮らしに少しずつ溶け込みつつある斗貴子。だが、パピヨンの所有する核鉄に対して、練金戦団が回収命令を発し、火渡赤馬が派遣されたためににわかに緊張が走る。パピヨン核鉄を返すための交換条件として、火渡がホムンクルスを蛇蝎のごとく忌み嫌うに至った経緯を話すように提案する――それは、火渡のみならず、キャプテン・ブラボーこと防人衛に潜入捜査を得手とする楯山千歳、そして他ならぬ津村斗貴子、彼らにとって重くのしかかるひとつの事件がきっかけであった……

 原作を単純に文章化したわけではなく、完結巻に収録されたエピソードを受けて、本編では語られなかった練金戦団の先輩たちの過去について綴った作品である。故に、漫画最終巻が10巻であったことに添って、“11”に似た“//”をタイトルに付したものだという。そうしたお遊びは面白い。

 ただ、アニメの存在を知ってからいきなりこの小説版に触れた者は戸惑うだろう。既にカズキたちの大きな戦いは終わっており、アニメ版ではまだ登場していない*1火渡や千歳の過去について語り、メインであるはずのカズキや斗貴子にはほとんどスポットが当たっていない。いちおうは斗貴子が戦団に迎え入れられる直前の出来事を扱っているものの、あくまで傍流として描かれており、幼い日の斗貴子に触れつつもあまり詳細とは言い難い。タイトルのお遊びが示す通りに、漫画版をきちんと10巻まで読み通してから手に取るのが無難だろう。

 そうした観点からすれば、主題である火渡がホムンクルスを憎悪する理由、ブラボーが本名を名乗らない訳などに細かく触れていく本書は隅々まで楽しめる。その背景の作り方が少々わざとらしく取って付けたような感があるのが勿体ないが、もともとそうした作り物っぽい面白さも原作の持ち味であるので、これはこれで正しい。

 惜しむらくは文章があまりこなれていない点だ。展開のスピード感も原作通りなのだが、文章の流れが悪く、説明が全般にぎこちないのでいまいち乗りきれない。台詞だけで匂わせておくだけでいい感情をわざわざ説明してしまったり、絵があってこそ活きる決め台詞や擬音を無造作に文中に投げ込んでしまっている箇所がどうも不格好で、リズムを阻害しているのだ。勢いのついた終盤などはあまり気にならないものの、全般に文章の組み立ては未熟である。

 とは言え読むのが苦痛ということではないし、ストーリー協力という形で原作にも関わっていた著者だけあってキャラクターをきっちりと把握した作りは好感が持てる。原作のファンならば読んでも損はない1冊だろう。評判次第では続刊もあるそうだが、もし刊行されるなら次も読んでみたいと思う。

*1:2006年11月23日現在、放映されているのは第8話まで。

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