『犬神家の一族』オリジナル版を観た。

 吃驚するほど、同じでした。

 脚本の大半と、セット・デザインの雰囲気もほとんど同じ。金田一が仕事をしてきてくれたハルに「食べなさい食べなさい」と言いながら蕎麦を振る舞ったり、取り乱した竹子に突き飛ばされた小夜子が襖を巻き込んで転倒したり、商人宿の主人がいきなり現れた奥方に驚いたり、と細かな遊びまで踏襲している。

 それ故に、2006年版の感想で私が指摘した作劇上の疑問点も実はオリジナル版から引き継いでいたようです。そのくらい直せば良かったのになあ、と思いつつも、少なくとも旧版ではそのあたりの安易さが話に馴染んでいて、また独特の雰囲気にも繋がっていたりするので、あながち悪いわけでもない。リニューアルはややテンポが悪い、という指摘もしていますが、尺は同じなので、もうこれは作り方の感覚が変わっているせいなのでしょう。オリジナル版ではスローモーションやコマを抜いて数枚の止め絵と台詞だけで表現するような手法が意外に小気味良いテンポを形作り、それが当時の石坂浩二の備えた躍動感とマッチして弛んだところがないのですが、リニューアルではやはり監督と主演の“老い”がリズム感の面で露呈したらしい。遺言公開の席での目まぐるしい視点切り替えとか、現代的な工夫も随所にあるにも拘わらず。難しいなあ。

 他方、徹底的にリマスターされた1976年版のDVDは、確かに映像はクリーンになって独特の美学に満ちた画面も生気を取り戻しているのですが、色彩の豊かさ、画面の洗練ぶりという意味ではやはりリニューアルに軍配が上がります。金田一と一部の固定キャラ以外は俳優を一新し、特に三姉妹など絶好の配役がなされた箇所もあるぶん、人物の魅力も増している。思い入れがあるぶん旧版の評価が高まるのはやむを得ないところですが、比較してみるとリニューアルもかなり出来はいいです。少なくともいま改めて観るなら、リニューアルのほうがいいと思う。オリジナルも忘れるべきではないでしょうけれど。

 ……ただ、やっぱり松嶋菜々子は旧版の珠世役・島田陽子と比べて存在感にも説得力にも欠きます。原作にあるほど絶世の美女というわけではないのは一緒でも、佇まいの可憐さと画面に現れたときに目を惹く力がかなり違う。まあ、誰がやっても何かしら文句の出そうな役なので、あげつらいすぎるのは酷なのも確かながら、でもやっぱり気になるのでした。

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