『スレイヤーズすぺしゃる(28) ポーション・スクランブル』
判型:文庫判 レーベル : 富士見ファンタジア文庫 版元:富士見書房 発行:平成19年01月25日 isbn:4829118938 本体価格:520円 |
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長い歴史を誇るライトノベル・シリーズ、2006年7月発売の『スタンプ・トゥ・キル』以来となる第28巻。魔術用薬品の管理と運搬に携わるふたりのガードを引き受けて、そのラリった世界観にさしものリナ・インバースも当惑気味となる表題作、川口浩ばりのノリで幻獣探索に赴く人々を描いた『幻獣の森』、悪魔の取り憑いた道楽息子をリナが“救う”『悪魔払いは計画的に』、表題作の書き下ろし続編『薬品の守護者たち』の4エピソードを収録する。
こうもタッチが安定していると心底気楽に読めます。ファンタジーの定番という基底に、現実世界の要素を乗せてコメディに昇華していく手管はもうすっかり職人芸の域である。 パターンを踏まえながら巧みに突き崩していくのがこのスタイルの面白さだが、他方、実のところ“パターンを踏まえつつ崩す”というのも立派にパターンであるため、慣れると先が読めてしまう、という難点もある。本書の場合、『幻獣の森』においてその問題が生じてしまったのがやや残念。 だが、そこに留まらないのが著者の巧さである。ネタが解っていても、加えられるもう一捻りが最後でいいパンチを繰り出してくる。シリーズ全体を見渡せば、それもまたキャラクターの肉付けから類推することの出来るパターンでしかないのだけれど、そのパターンを多く蓄積していることが強みとなっているのだ。 しかもそのパターンは概ね、未だに突出したリナ・インバースというヒロインの造型の担う部分が大きい。表題作のクライマックスでああもお約束を否定するような行動が出来るのも、パターンを悪用した馬鹿者を華麗に“悪魔”から解放する『悪魔払いは計画的に』も、リナ・インバースあってこそのエピソードである。 ただ今回、表題作の後日談である『薬品の守護者たち』はひういうパターンを外そうとした結果、ちょっと詰まらないところに落ち着いてしまった感もあり、これを巻末に置いたのはやや失敗のように感じられたが、しかしそれもまた一興と思わせるのがこのシリーズの強みでもあろう。 それにしても、この『〜すぺしゃる』シリーズは長篇シリーズの前日譚という位置づけのはずで、それは本書に収録されたエピソードの随所にも窺われるのだが、……しかしいったいいつになったら彼女はガウリイたちに逢えるのか。ていうかあれ以前にいったいどれほど長々と旅を続けていたのか。 想像すると色々怖くなるが、まあそれもまた一興かも知れない。 |
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