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- 榊いずみ『Family Tree』(JUST LUCK RECORDS, HIP LAND CORPORATION[発売]/バウンディ株式会社[販売]/CD) [amazon]
- 京極夏彦『
後巷説百物語 』(角川文庫/角川書店[発行]/角川グループパブリッシング[発売]) [bk1/amazon]
1は発売から遅れて買いに行ったら、店頭に品物がなかったため取り寄せて貰っていたもの。榊英雄との結婚を契機に芸名を橘いずみから榊いずみに変更、心機一転のうえリリースした、実に10年ぶりとなるオリジナル・フル・アルバム。
……とは言い条、聴いてみると案の定というか、これは“橘いずみ”当時の音楽とはかなり趣が違う。あの頃の橘いずみというアーティストには「求めても得られないものへの渇望」とでもいうべきものが詞にも曲にも漲り、踏み外せばあっさり転落してしまいそうな切迫感が一種の売りとして存在していたのですが、帰るべき場所を見つけてしまった“榊いずみ”の音楽からはそうしたものがごっそり抜け落ちている。
ただ、出来は決して悪くない。ソニーから離脱してのちに立て続けに3枚リリースしたミニ・アルバムでは、自身の方向性を見定められない迷いが強く、あまり聴いていて心地のいいものではなかったのですが、この作品には迷いがありません。足場を見つけたが故の安定感があって、ロック・バンドのスタイルで収録しながらもゆとりが漂う演奏には、もともと高かった音楽性がいい具合で溶け込んで、心地好い雰囲気を醸し出している。それに、だいぶ丸くなったとはいえ、見出しに引用した、夫の榊英雄も出演する映画『棚の隅』の主題歌でもある曲や、暮らしの様子を点綴する『LDK』、『Name』あたりの音作りにかつての毒の名残が感じられる。ちゃんとあの頃の音楽の延長上で発展していて、闇雲に“橘いずみ”を期待せず聴けば充分にいい手応えがあります。
いずれにせよ、たっぷり待たせたんですから今後はコンスタントに出していただきたいもの。で、いまは何をやってるんだろう、と調べてみたら……夫の初監督映画の音楽なんか作っていた模様。いいねえ幸せそうで。
2は直木賞を受賞したシリーズ第3作の文庫化。いちおう京極作品もなるべく押さえておく方向で。
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