『東京伝説 溺れる街の怖い話』
判型:文庫判 レーベル:竹書房文庫 版元:竹書房 発行:2007年5月3日 isbn:978481243095X 本体価格:552円 |
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日本推理作家協会賞受賞に『このミステリーがすごい!』一位獲得という栄誉を経ても相変わらず生死の境を彷徨うスケジュールで執筆しているらしい著者の血反吐で書き記しているかのような、生身の人間が齎す恐怖を綴るシリーズ、約1年振りとなる最新巻。
著者自身語っている通り、近頃はパターンが減っているのだろう。だいぶ内容のヴァリエーションが乏しくなってきた印象だ。狂気からの自傷や裏の世界に生きる人々の壮絶な制裁、といったネタはやはり初心者にとっては衝撃であろうものの、従来からの読者にしてみればもう驚くには当たらない。 むしろ埋め草のように採用された、警官の体験を語る『ひったくられ』、考え過ぎも含まれているだろうが人智を超えた恐怖と人の業とが綯い混ざった異色篇『ゴヒャクエンチョーダイ』、珍しく一人称で語られる『風呂ぶた』など、従来の『東京伝説』シリーズでは括りきれないエピソードの印象が強い。ただ、このあたりは全般に『「超」怖い話』との線引きが難しくなっているきらいが強く、特に話としてはインパクトのある『ベタ』など、どちらかと言えば本来の“怪談”に近いものであり、それ故に浮いてしまい印象を強めているのが気に掛かる。エピソード単体の存在感を強める技、という意味では成功しているものの、きちんと系統を分けて発表している著者の場合、ファンであるほどにそこにあざとさを感じてしまう。 ただまあ、これほど世評が高まった今でも、苦しい思いをしてきちんと定期的に新刊を上梓してくれるその姿勢は頼もしい。またしても、『東京伝説』系に属する新シリーズ『いま、殺りにゆきます』を刊行していた英知出版が突如倒産する*1という悲運に見舞われたりしているようだが、これに懲りず今後も新しいエピソードの蒐集・発表を続けていただけると嬉しい。……毎度言っていることですが、死なない範囲で。 |
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