原題:“鬼域 Re-Cycle” / 監督・脚本・製作・編集:オキサイド&ダニー・パン / 撮影監督:デーチャー・スィーマントラ / 配給:UIP Japan
2006年香港・タイ合作 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:太田直子 / 字幕監修:周家
2007年06月23日日本公開
公式サイト : http://recycle.uipjapan.com/
シネマート六本木にて初見(2007/06/26)
[粗筋]
実体験をモチーフにした恋愛小説三部作が高い評価を得、一躍人気作家となったディンイン(アンジェリカ・リー)は、だがマネージャーの先走りで告知されてしまった新作『鬼域』の執筆に苦しんでいた。登場人物の設定や怪奇現象のアイディアを練っては反故にし、を繰り返す毎日。
そのうちに、ディンインの周囲で奇妙な出来事が起こり始める。ひとり暮らしの部屋に他人の気配を感じ、キッチンや浴槽には自分のものではない異様に長い髪が落ちている。夜中に不意に鳴り出す電話を取ると、聞こえてくるのはノイズだけ。
友人は神経が張り詰めているせいだ、と諭すが、ディンインには何故かこれらの現象が気に掛かって仕方なかった。ある晩、屑籠に捨てていた反故がかさかさと動いているのに気づき、何気なく拾ってみて――ようやく、その戦慄すべき事実を悟る。一連の出来事はすべて、彼女が考え、しかし捨ててしまったアイディアに酷似しているのである。
混乱に陥るディンイン。だが怪事は、ここから本格化していくのだった……
[感想]
『the EYE』によって国際的に評価を高めたパン兄弟が、同作と同じアンジェリカ・リーを主演に招いて製作したホラー……なのだが、こういう説明を先入観として観に行ってしまうとかなり肩透かしを食うだろう。
序盤こそごく王道のシチュエーションと雰囲気を備えた怪奇描写が続き、それこそ『the EYE』や『呪怨』のようなごく正統派、本格派のホラー映画を期待してしまうのだが、途中から妙な感じになり、ある地点を過ぎると文字通り“異界”へと踏み込んでしまう。意外性がある、という意味では出色だし、個々のモチーフは実のところ正統派怪奇映画のそれをきちんと押さえているのだが、序盤で提示した方向性とは明らかに食い違っていて、期待を高めていた者ほど困惑させられるはずだ。いちおうネタではあるので詳述はしないが、とりあえず、序盤の描写からおかしな期待はしない方がいい、とは言っておく。
ただ、映像のセンスは悪くない。『the EYE』のヒットのためにホラーを多く手懸けることになったが、どちらかと言えばパン兄弟はスタイリッシュな映像作り、スピーディな編集にこそ眼目があった。その点では、ほぼすべてCGではあるが凝りに凝りまくった映像は見応えがあり、こと終盤の悪夢的なヴィジュアルはおよそ他で観た経験のない独創的なもので、冷静に眺めるほどに衝撃を受ける。CGでなければ実現不能であり、そうであると納得できるからこそこの映像空間が納得でき、素直に感心させられる。話の内容自体に不満を抱いたとしても、虚心に映像を眺めるとかなり楽しめるはずだ。日本人、それも江戸川乱歩や夢野久作の愛好家であれば、感銘を受けるのではないかと思う。
物語自体は終盤になってもあまり腑に落ちないまま進行する。情に訴えるような趣旨は、純真な人であればそれなりに感動するかも知れないが、伏線がきちんと提示されていないので唐突の感が強く、ちょっとでもすれた人は冷めた気分にさせられる。ただまあ、パン兄弟らしくちょっとした仕掛けはあるし、ヴィジュアル的には期待した以上に逸脱したものを感じさせるので、まあいいか――と自分を納得させかかったとき、まったく思いがけない結末が訪れる。さすがにあれには度胆を抜かれた。
確かに、言われてみればこの点については随所に仕込みがなされていたのである。すれた人間ならば見抜いてもいいところだが、様々な点に攪乱されて注意から外してしまったらしい。私はそこで膝を打ち、少々悔しささえ感じた。
ただ、そうした着想の巧さは肯定しても、物語の根本的な歪さ、構成のぎこちなさ、そもそも冒頭で期待させるのとはかなり違った方向へ転がっていく展開などなど、問題点が多いために迂闊に人には薦めづらい出来になっている。あのオチを考えると、そうした歪ささえ狙ってやっていた可能性も否めないのだが、だがそれはそれでまだ不自然さを感じさせない工夫は出来たはずで、やはり得点を上げる理由にはならない。
とは言い条、正直に言って私は本編をかなり気に入っている。観終わった直後はいまいち、という印象でも、ネタを検証し直せばし直すほどに、評価したくなってしまったのだ。同意を得ようとは思わない――だから、やはり無理には薦めない。
ちなみにこの夏はもう1本パン兄弟の作品が日本で公開となる。サム・ライミ率いるゴーストハウス・ピクチャーズ製作によって作りあげたハリウッド進出第1弾作品は、その名も『ゴースト・ハウス』。世界の映画文化の中心で、彼らがどんな作品を完成させたのか、個人的には非常に楽しみなのだが――はてさて。
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