『ローグ アサシン』

原題:“War” / 監督:フィリップ・G・アトウェル / 脚本:リー・アンソニー・スミス、グレゴリー・J・ブラッドリー / 製作:スティーヴン・チャスマン、クリストファー・ペツェル、ジム・トンプソン / 撮影監督:ピエール・モレル / プロダクション・デザイナー:クリス・オーガスト / 編集:スコット・リクター / 衣装:シンシア・アン・サマーズ / アクション演出:コーリー・ユエン / スタント・コーディネーター:スコット・ニコルソン / 特殊効果コーディネーター:クレイトン・セヘイラー / 音楽:ブライアン・タイラー / 出演:ジェット・リージェイソン・ステイサムジョン・ローン石橋凌デヴォン青木ルイス・ガスマン、マシュー・セント・パトリック、サン・カン、ナディーヌ・ヴェラスケスアンドレア・ロス、マーク・チェン、ケイン・コスギケネディ・ローレン・モンタノ、テリー・チェン / ライオンズゲート+モザイク・メディア・グループ+フィアーズ・エンタテインメント製作 / 配給:Asmik Ace=松竹

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:林完治

2007年10月06日日本公開

公式サイト : http://www.rogue-assassin.com/

品川プリンスシネマにて初見(2007/10/06)



[粗筋]

 ふたりのFBI捜査官が2年がかりで積み重ねてきた調査は、一夜にして崩壊した。どこかから情報が漏れ、ひとりの暗殺者=ローグの侵入によって、日本のヤクザとチャイニーズ・マフィアは深刻な抗争状態に陥ってしまったのである。捜査官のひとりジョン・クロフォード(ジェイソン・ステイサム)は銃弾を浴び負傷するが、その相棒トム・ローン(テリー・チェン)はすんでのところで反逆、顔面に銃弾を喰らったローグは海に没する。

 それからしばらくのち。怪我を癒すべく休暇を取っていたクロフォードは、トムの家族とともにキャンプに赴くべく、妻のジェニー(アンドレア・ロス)とともにトムの家に向かったが、そこで彼が見たのは、焼け焦げた住宅と蝟集する警官に消防隊、そしていましも搬出されようとしていた3つの屍体であった。現場に転がっていたのは、ローグが愛用しているチタニウムの薬莢――クロフォードは、相棒とその家族をローグが殺害したのだと確信する。

 ――更に3年が経過した。FBIアジア犯罪特別捜査班を指揮するまでに至ったクロフォードの前に、ふたたびローグの影が揺曳した。日本人ヤクザのシロー・ヤナガワ(石橋凌)の配下が経営するクラブをひとりの暗殺者が襲撃、その華麗な手口から、クロフォードはローグの帰還を確信する。

 ヤナガワ組と対立するチャイニーズ・マフィア、通称トライアッドの首領リー・チャン(ジョン・ローン)が求めるのは、かつてヤナガワたちがチャンの前代を抹殺したとき、一緒に奪っていった財宝のひとつである純金製の馬2匹。特殊な代物ゆえに欧米では捌くことが出来ず、日本に運び出されようとしていたその機先を制する形で、ローグはチャンの部下たちと結託して襲撃、首尾良く馬を略奪した。

 処刑も同然に殺害されたヤクザたちの姿と現場の状況から、犯行に警官が絡んでいる可能性が高いと踏んだクロフォードは、間もなく市警のアンドリュース(ジョン・ノバーク)が犯行に絡んでいることを探り当てる。レストランで捕捉した彼を自供させ、連行しようとしたとき、正確無比の銃弾がアンドリュースを貫いた。

 歯噛みするクロフォードたちを嘲笑うかのように、ローグは自ら彼らの前に姿を見せる。周知されていたのとは異なる風貌で現れた男(ジェット・リー)を、だがクロフォードは一目でローグだと断定する。証拠のない現状ではただ引き下がるほかなかったが、クロフォードは改めて、相棒の復讐を果たす決意を固める。

 だが、事態はそんな彼の思惑を超えて、次第に紛糾していくのだった……

[感想]

 かたや『少林寺』で世界にその名を轟かせた東のアクション・ヒーロー、かたや『トランスポーター』シリーズにてその存在感を示した西のアクション・ヒーロー。実は『THE ONE』にていちど共演しているが、当時まだジェイソン・ステイサムが『トランスポーター』でアクション・スターとしての地歩を築く前だったため、ジェット・リーの補佐的な位置づけだった。本格的に“対決”という構図で共演するのは初めて、と言っていい。

 ふたりに対して思い入れの強い私としては期待せざるを得ない組み合わせであったが、率直に言ってあまり芳しい印象は受けなかった。

 最大の要因は、観ているこちらが日本人であるからこそだが、日本に関するモチーフが例によってハリウッド流のやり方で盛り込まれているので、それが気になって仕方ない。日本人が経営するクラブに用いられているのは、多分にアメリカナイズされた日本文化だと許容するにしても、随所に張り出された標語・格言の類や、日本人として登場する人物たちの微妙な言葉づかいの微妙さはどうにかならなかったものか。特に、石橋凌演じる組長の娘として登場するデヴォン青木の台詞が、どうも別の日本人による吹替らしく聴こえるのが気になった。実際、彼女は日本人の血は入っているものの日本語に触れる環境に育っていなかったそうで、会話には苦労した旨がパンフレットには記してあった。だがそれにしても、アフレコののち違和感のない程度に調整するぐらいの努力は欲しかったところである。

 ただまあ、そもそも本編の軸は必ずしもヤクザとチャイニーズ・マフィアの抗争そのものにはないのも事実だ。あくまで本編が中心として描いているのは、裏社会での抗争の背後で暗躍する暗殺者の真意と、そんな彼を必死に追う捜査官の姿と、両者が交錯していくまでのドラマであり、戦いなのである。ゆえに作中のヤクザ、チャイニーズ・マフィアの像がいわばハリウッドのなかで形作られたファンタジーに立脚しているとしても、責めるには値しないだろう。

 だがそれでも、サスペンスとして眺めた場合に、かなり明々白々な筋書きしか提示していない点は気になる。最も中心となる趣向にしても終盤で繰り出されるどんでん返しにしても、ちゃんと伏線を張っている点は好感に値するのだが、それが見え見えなので全体がサスペンスとしての緊張感に欠いている。もし謎解きとして魅せたかったのなら、更に慎重な筆捌きが必要だろう。

 しかし、基本的に“アクション映画”におけるストーリー、プロットなどは、戦いに動機付けを施し、迫力や深みを加えるためのエッセンスに過ぎない、という捉え方もある。その意味ではさすがにこだわりを持ってアクション映画に臨んできたジェット・リーが携わっているだけあって揺らぎがないし、そのジェットの演技、アクションには芯が通っている。従来の彼には見られなかったタイプの役柄を、アクションの裏打ちとして活かす技は既に貫禄の域に達している。

 対するジェイソン・ステイサムも、『THE ONE』での共演ののちに築きあげたアクション俳優としての存在感を遺憾なく発揮して力強い。彼はどちらかというと裏世界のヒーローか表の捜査官といった役柄が多くいささか幅の狭さが気に掛かっているのだが、本編ではその狭さが逆に幸いしている。作品そのものに安心感をもたらすと共に、観る側がジェット・リーの役柄に掴みにくい一貫性を構築もしている。このふたりの主人公の肉付け、配役は見事なものだ。

 惜しむらくはこのふたりを真っ向からぶつけておきながら実際に拳を交える時間が短いこと、終わり方があまりすっきりしていないことである。見え透いているとはいえ、アクションの裏打ちとして捉えれば充分に魅力的な主題であるし、アクションも切れ味はいい。だが、いまいち日本像・中国像を半端にしている美術や脚本、モンゴリアンを一括りにしたキャスティング、そうした設定を安易に捉えがちなスタッフのせいもあって、全体に踏み込みの浅い作品のような印象を与えてしまっている。

 ジェイソン・ステイサムのあまりに怪しく、率直に言って聞き取れない日本語も含めて、楽しもうと思えば楽しめるし事実私はけっこう楽しんだのだが、成功作とはお世辞にも言いがたい。あちらよりはまともだが、『イントゥ・ザ・サン』にも似た香ばしさのある作品である。よほど細かな描写について深く考えないか、その奇妙さ自体を楽しめる度量のある方でないと辛いかも知れない。

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