『東京少年』

監督:平野俊一 / 脚本:渡邊睦月 / プロデュース:丹羽多聞アンドリウ / 共同プロデューサー:長生啓、小野寺直樹 / 製作:高西伸兒、渡辺香、仲尾雅至 / ラインプロデューサー:鈴木浩介 / 撮影:高柳知之 / 照明:鋤野雅彦 / 音声:小高康太郎 / 美術:桜井陽一 / 編集:佐野由里子 / 音楽:遠藤浩二 / 主題歌:浜田真理子『LOVE SONG』 / 挿入曲:リスト『ためいき』−ピアノ演奏 橋本智子 / 出演:堀北真希石田卓也平田満草村礼子 / 配給:エム・エフボックス

2008年日本作品 / 上映時間:1時間35分

2008年02月02日日本公開

公式サイト : http://www.bs-i.co.jp/cinemadrive/boy/

新宿トーアにて初見(2008/02/19)



[粗筋]

 藤木みなと(堀北真希)はある日、アルバイト先のコンビニでひとりの青年と出会う。店内でぶつかり、みなとが踏み潰してしまった商品のおにぎりを、わざわざ買い取ってくれた彼は、後日訪れたとき、彼女に恋心を告白した。惹かれるものを感じていたみなとは、彼を受け入れる。
 彼――唐沢シュウ(石田卓也)は、病院を経営する親の影響で医学部を受験するも、二浪しているところで、勉強に専念するためひとり暮らしをしている。やや頼りないが優しさのある彼にみなとも心惹かれていくが、そんな彼女にとって、障害がふたつ存在した。

 ひとつは、みなとが長年文通している相手・朝倉ナイトが、反対していること。医学部を目指して二浪なんて、お坊ちゃまもいいところだ、みなとを任せる訳にはいかない、と交際に対して色好い言葉を出してくれないことを、みなとは思い悩む。

 もうひとつの問題は、みなと自身にあった。彼女には幼い頃から、不意に記憶が途絶えてしまう傾向がある。そのせいで、みなとの人付き合いは長続きしなかった。シュウに交際を申し込まれたときから薄々危惧していたが、何度目かのデート、キスされそうになった瞬間、遂にそれは起きてしまう。気づけば翌朝、自室のベッドにみなとは横たわっていて、携帯電話からはシュウのデータが消去されていた。

 後日、みなとは気まずくシュウと再会するが、彼は怒っていなかった。突如キスを拒み家に帰ってしまった彼女を心配するシュウに、みなとが事情を告げると、脳神経外科が専門であるという父(平田満)に診てもらうよう薦める。

 躊躇いながらも診察を受けたみなとだったが、その途中でまたしても記憶は途切れた――改めて連絡を取ったみなとに、シュウは「受験が近いから、しばらく逢わないことにする」と告げる……

 ……みなとは、自分の身に起きていることに、まだ気づいていない。

[感想]

 率直に言って、内容よりもただ堀北真希が観たくて劇場に足を運んだのだが、その目的からすればまったく文句のない出来である。約1時間半、ほぼ全篇出ずっぱりで、泣き顔も切ない表情も最高の笑顔も、ふんだんに盛り込まれている。先頃スマッシュ・ヒットとなった主演ドラマ『花ざかりの君たちへ』でものにしたボーイッシュな演技を更に突き詰め、繊細に仕上げている点でも満足度が高い。

 だが、映画好きとして一歩引いた眼で眺めると、いささか退屈だったことには触れておかねばなるまい。

 旬の女優を中心としたアイドル映画、として捉えると、寧ろ良く工夫されている点で好感を覚える。上の粗筋で示したあたりまでは基本ヒロイン視点のみで綴られていくが、ここから視点は交際相手であるシュウに切り替わり、同じ出来事が彼の目線によって描かれていく。同じシーンでありながらカメラの位置が異なっていたり、モノローグによって丁寧に紐解かれていく話運びはミステリアスな空気を醸成している。しかも最後にもういちど別の視点からの描写を提示することで、作品全体の奥行きを更に増している。それぞれのエピソードを、林檎や写真といったモチーフで結びつけていく手管も丁寧だ。

 ただ、この手法によって本来演出されるべき意外性は、かなり早い段階で見え見えなのだ――というより、ここでは伏せて書いているものの、予告編や各種メディアでの紹介においては前提として示されてしまっているので、そもそも趣向としての意味を損なっているきらいは否めない。また、モチーフ同士の結びつきにしても咄嗟に観る側の関心を惹くようなものではなく、加えてその要素でなければならなかった成り行きや理由がいささか不透明な部分も多いので、一部は物語から浮き出してしまっている。このあたり、もう少し丁寧な考証が必要だったように思う。

 佇まいに清潔な美しさがある堀北真希を充分に画面に収め、そんな彼女を東京郊外の風景と重ねて更に引き立てようと腐心しているのはいいのだが、そのために過剰にワンシーンを長引かせている傾向にあり、全体が間延びしてしまっている。尺自体は90分と手頃であるにも拘わらず、そのせいで異様に長く感じられるのだ。

 とは言い条、基本的な理念が、女優を中心軸とする“アイドル映画”の系譜に収まるもものでありながら、脚本に工夫を凝らし随所に仕掛けを盛り込んでいく心意気は悪くない。何より、最初に記した通り、堀北真希という旬の女優の魅力と存在感とを堪能する、という意図からすれば、非常に高い満足が得られる。

 ちょっと眼の肥えた映画好きや、様々なフィクションに接してきた人に薦めるには緩さがつきまとうものの、堀北真希のファン、映像美や作品のムードを優先して楽しむ向きには安心してお薦めできる。少なくとも、はなから堀北真希目当てで観に行った私はこれ以上なく満足しました。

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