原題:“DNEVNOY DOZOR” / 英題:“Day Watch” / 原作:セルゲイ・ルキヤネンコ&ウラジミール・ワシーリエフ(バジリコ・刊) / 監督:ティムール・ベクマンベトフ / 脚本:セルゲイ・ルキヤネンコ、ティムール・ベクマンベトフ、アレキサンダー・タラル / 製作:アナトリー・マキシモフ、コンスタンチン・エルンスト / 製作総指揮:アレクセイ・クブリツキー、ヴァルヤ・アヴデュシコ / 撮影:セルゲイ・トロフィモフ / 美術:ワレーリー・ヴィクトロフ、ムクハタール・ミルザキエフ、ニコライ・リャブトセフ / 編集:ドミトリー・キセレフ / 音楽:ユーリ・ポテイェンコ / 出演:コンスタンチン・ハベンスキー、マリア・ポロシナ、ウラジミール・メニショフ、ガリーナ・チューニナ、ヴィクトル・ヴェルズビツキー、ジャンナ・フリスケ、ディマ・マルティノフ、ファレリー・ゾロツキン、アレクセイ・チャドフ、ヌルツマン・イキティムバエフ、アレクセイ・マクラコフ、アレキサンドル・サモイレンコ、ゴシャ・クツセンコ、イリーナ・ヤコヴレヴァ、イゴール・ドロノフ / 配給:20世紀フォックス
2007年ロシア作品 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:太田直子
2008年02月16日日本公開
公式サイト : http://movies.foxjapan.com/daywatch/
シネマメディアージュにて初見(2008/02/28)
[粗筋]
光の勢力と闇の勢力が調停を交わし、停戦が定められて千年。光の勢力は“ナイト・ウォッチ”として闇を監視、逆に闇の勢力は“デイ・ウォッチ”として相手を窺い、長年に亘って緊張を伴った平穏が続いていたが、ある出来事を契機に闇が動きを活発化させていた。
“ナイト・ウォッチ”の一員アントン(コンスタンチン・ハベンスキー)は先の戦いで痛手を負いながらもどうにか平静を取り戻し、新人スヴァータ(マリア・ポロシナ)の教育に力を注いでいたが、ある日、研修中に齎された報に応じて駅に赴くと、老人から生命力を吸い上げている闇の勢力側らしき異種と遭遇する。己の限界を顧みず犯人を追ったスヴァータを追ったアントンは、スヴァータが犯人の帽子を奪った瞬間、その顔を見て、衝撃を受ける。それは、先の事件で闇の勢力に奪われた我が子イゴール(ディマ・マルティノフ)だった。
それでも物証が帽子しかない以上問題はない、と高を括っていたアントンだったが、“デイ・ウォッチ”でイゴールの教育係をしているガリーナ(イリーナ・ヤコヴレヴァ)が密かに接触、このままではイゴールが審問にかけられ処刑される恐れがある、と告げられ、焦る。敵方に墜ちたとはいえ愛する息子であることに変わりはなく、やむなくアントンは警備の眼を盗んで物証の帽子を取り戻す。
だが、彼の知らぬ間に事態は更に厄介なものとなっていた。ちょうどアントンが倉庫に潜入しているとき、ガリーナが何者かによって殺害されたのである。証言から最後にガリーナと接触していたのがアントンであると判明、彼は容疑者にされてしまう。
アリバイはあっても絶対に証言できない危機的状況――事情を察知した“ナイト・ウォッチ”の王ゲッサー(ウラジミール・メニショフ)の機転で、一時的にオリガ(ガリーナ・チューニナ)と肉体を入れ替え身を潜めるが、それによって事態はいっそう複雑化していく……
[感想]
2004年に母国ロシアで公開されるや、ハリウッドから流入する作品群を上回る大ヒットとなり、その後各種映画祭を経て日本においても公開され、カルト的人気を博したダーク・ファンタジー『ナイト・ウォッチ』の、本篇は続きにあたる。
映像の傾向が『マトリックス』を彷彿とさせること、様々なエピソードが輻輳して複雑怪奇に展開し、挙句にかなり象徴的な結末を迎えたことで、賛否両論があった前作だが、本篇はその意味でかなり質を上げてきている、と言っていい。
スタイリッシュな映像は踏襲しているものの、全体にそれが洗練されている。既に異常に高いレベルにまで進化したCG技術だが、未だにハリウッド以外が手懸けたものには不自然さや過剰さが目立ち、画像処理が作品から浮いてしまう傾向にある。そういう意味では前作は既に高い水準にあったのだが、本篇は更に違和感が削られている。異世界におけるヴィジュアルはいっそう特異に、他方で現実世界での激しいアクションなどは、過剰にしながらも現実の光景と齟齬を来さぬよう丁寧に作られている。
ストーリー展開の複雑さ、周到さもいっそう顕著となっている。漫然と観ていると状況把握が難しくなるほどだが、しかしきちんと向き合っていれば決して目標を逸らさず、かつ実に企み抜いたプロットであることに気づくはずだ。こと、普通の映画であれば添え物になりがちなロマンスが、本篇では必要不可欠の伏線として完璧に機能している。
そこへ更に様々な趣向を凝らしたアクションが組み込まれることで、作品全体にスピード感が齎され、2時間を超えるやや長めの尺がほとんど気にならない。次はどう展開するか、という期待と突然巻き起こるアクションの迫力に引きこまれ、気づいたときには終わっている、という具合だ。その随所に、独特のユーモアも用いてメリハリをつけている点も出色である。とりわけ中盤、中東に渡ろうとするアントンと、それを阻止しようとするオリガの、異種ならではの駆け引きは、巻き込んでいる規模と現象の滑稽さのバランスが面白い。
ただ惜しむらくは、アクションそのものの必然性がやや乏しく、いささか呆気ない顛末を迎えるものが多い点である。中盤における闇の王ザヴロンの暴発はそれ自体大事件になりそうだし、終盤のアクションは迫力こそあれいささか展開が雑、というきらいは否めない。
とは言い条、だからこそ結末でのカタルシスが極めて強くなっている、というのも事実なのだ。あの状況だからこそ、選択と決着が際立つ。更にもう少し喪失感が演出できるような趣向があれば、という嫌味もあるが、しかし前作を引き継ぐ形での決着としては理想的だろう。
壊滅的状況にあったロシア映画界再生の端緒としての意義のほうが大きかった前作に対し、本篇はハリウッド流のエンタテインメント映画の手法を採り入れ、それをロシアの風土にあった形で進歩させ、遂に独自のスタイルへと昇華させようとする気概を感じさせる、良質の作品と言えよう。
それだけに、完結編となるはずの『Twilight Watch』にも期待を寄せたいところだが――噂によるとこちらはハリウッド資本が大幅に加わるそうなので、そこに一抹の不安を感じなくもない。どうかハリウッドのスタジオが振りかざす理論に、その精神性が損なわれませぬよう。製作は2009年に開始される、という話である。
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