『ドラゴン・キングダム』

『ドラゴン・キングダム』

原題:“The Forbidden Kingdom” / 監督:ロブ・ミンコフ / アクション監督、製作総指揮:ユエン・ウーピン / 脚本:ジョン・フスコ / 製作:ケイシー・シルヴァー / 製作総指揮:ライアン・カヴァーノ、ジョン・フェルトハイマー、ラファエラ・デ・ラウレンティス / 撮影監督:ピーター・ポウ / プロダクション・デザイナー:ビル・ブルゼスキー / 編集:エリック・ストランド / 衣装:シャーリー・チャン / 視覚効果監修:ロン・シモンソン / 音楽:デヴィッド・バックリー / 出演:ジャッキー・チェンジェット・リー、マイケル・アンガラーノ、リュウ・イーフェイ、リー・ビンビンコリン・チョウ / 配給:松竹

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:林完治

2008年07月26日日本公開

公式サイト : http://dragon-kingdom.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2008/07/26)



[粗筋]

 ボストンに暮らすジェイソン(マイケル・アンガラーノ)はカンフー映画を愛する少年である。しかし腕前はからっきし、ストリート・ギャングを気取る同級生にいじめられる彼は、行きつけの質屋への強盗の手引きをさせられてしまう。だが、争っているうちに一人が店主に発砲してしまった。息も絶え絶えの店主からジェイソンは棍を託され、「本来の持ち主に返して欲しい」と頼まれる。棍を手にストリート・ギャングたちから逃げ惑うジェイソンだったが、追い詰められ、店の屋上から転落し――気づいたときには、別の場所にいた。

 中国によく似た風景を持つその農村は、だがジェイソンが目醒めて間もなく、軍隊によって襲撃される。ふたたび逃げ惑う彼を救ったのは、酔拳を駆使する学者であった。ルー・ヤン(ジャッキー・チェン)と名乗るその男は、ジェイソンから経緯を聞くなり、彼がその棍――如意棒を、この国に圧政を強いる不死の将軍ジェイド(コリン・チョウ)によって石に変えられてしまった仙人・孫悟空(ジェット・リー)に返し彼を元に戻すべく選ばれた人間であると指摘した。恐らく、その使命を遂げぬままでは、本当の世界に帰ることは出来ないだろう、と。

 逃げ込んだ酒場で如意棒を見咎められ、追っ手に襲撃されたジェイソンは、厭でも如意棒を本来の持ち主に返さねばならないと痛感し、ルー・ヤンにカンフーを指導して欲しいと懇願する。最初は難色を示したルー・ヤンだったが、酒場で彼らの逃走を手助けした、飛び道具使いのゴールデン・スパロウ(リュウ・イーフェイ)に諭され、渋々旅に同行しジェイソンに修行を施す。

 しかし、修行とも思えない方法に、ジェイソンは苛立ちを募らせる。そんなさなか、油断していた隙にジェイソンの手から何者かが如意棒を奪っていった。追いかけたルー・ヤンと互角の戦いを繰り広げたその黙僧(ジェット・リー)の目的は、だが彼らと同じく、如意棒を本来の持ち主に返すこと。その使命を負っているはずのジェイソンの不甲斐なさに、当初は反目していたルー・ヤンと黙僧は、同時に彼に指導を始めた。

 他方、如意棒が国内に持ち込まれたことを察したジェイド将軍は、不老不死の妙薬を餌に、白髪魔女(リー・ビンビン)を捜索のために動員する。

 孫悟空復活の鍵を握る如意棒の行方は如何に。そして、ジェイソンは無事に本当の世界に戻ることが出来るのか……?

[感想]

 ブルース・リー亡き後、カンフー・アクションにコメディの要素を持ち込んでアジアを席巻し、近年はハリウッドでも繰り返しスマッシュ・ヒットを飛ばしているジャッキー・チェン中国武術界において“至宝”と呼ばれ、『少林寺』でデビュー以降、年齢に合わせてそのスタイルを変化させながらじわじわと世界的に存在感を拡げていったジェット・リー。アジアが輩出した二代のアクション・スターが競演する、それだけでも充分に価値のある作品である。

 実際、スタッフも彼らの圧倒的な身体能力、格闘シーンを演じるセンスを何よりも観客に示したかったのであろう、作中両者の演じるキャラクターが初めて遭遇し、直後に如意棒を巡って繰り広げられる一対一の格闘シーンの見応えは、およそ近年経験したことのない迫力を備えている。だらだらと長ったらしい、などと感じることはなく、むしろいつまでもいつまでも観続けていたい、と願ってしまうほど、力強く、激しくも美しい。ジャッキーは自らの出世作で用いた酔拳を軸に、対するジェットは蟷螂拳をはじめとして、双方が多彩な武術を、ワイヤーを用いつつも並の身体能力では実現不能なクオリティで披露しているさまは、まさにカンフー・アクション映画の頂点に君臨した両雄だからこその迫力が横溢している。

 しかし、お話のほうはというと、かなり微妙な代物になっていることは否めない。冒頭、アメリカ人青年が異世界に送られる流れからして奇妙だし、最初に彼が遭遇する達人ルー・ヤンの言動がいささか支離滅裂に陥っている。頭のいい人間はわずかな言葉から多くのことを察知する、と言っても、ジェイソンが齎した情報からあれだけ多くのことを悟るのは、仙人級の人物であっても異様だ。舞台となる王国とジェイド将軍の居城がある五行山との距離感であったり、ジェイドがジェイソンたちから如意棒を奪うべく使わした白髪魔女とゴールデン・スパロウとの関係など、どこまで意図して組み込んだのか解らない、そのまんま放置された伏線があるのも気に懸かる。

 だがそのあたりは作品の随所において、中国・香港の名作カンフー映画の引用が繰り返されていることから、もともと中国の風土を作中に盛り込みながら、中国・香港流のアクションを随所に織りこんだ映画を作りたかった、という意識が垣間見えることで納得がいく。そしてメインとなるモチーフが、中国冒険ドラマの王道たる『西遊記』なのだから、これはもともとアクションを軸に冒険映画をやりたかったのだと察せられる。そう考えていけば、むしろ多少無理があっても受け入れやすい流れを構築していることは評価に値する。基本的に変化へのきっかけや成長した姿を、アクションの中で描いているために、話として眺めると唐突な感があるのも、ある意味では中国・香港のカンフー映画の影響を窺わせる。

 概ね予定調和であるし、伏線があからさまなので、おおまかな展開は予想がつく。しかしそれゆえに、幾つか盛り込まれた趣向にギリギリまで気づかなくなっている――ただ、これは意図せざる効果だったかも知れないし、むしろそういう部分をサプライズとして効果的に用いる工夫をしていないのだから、シナリオとしては決して洗練はされていない。だが、だからこその安心感が横溢し、血腥い場面も度を過ごして艶っぽい場面もないので、カンフー映画愛する人間でなくとも、純粋にアクション・アドヴェンチャーとして年齢を問わず楽しめる仕上がりになっている。意識してそういう作りを狙っていることは明瞭であるため、だから幼稚だ、などと批判するのは筋違いだろう。

 ただそれでも残念に思うのは、なるべく視覚的に意外な決着を狙った挙句のクライマックスにいまひとつカタルシスが乏しかったことと、途中で台詞として伏線を張っていたにも拘わらず、ジャッキーとジェットの「もう一勝負」を盛り込むところまで配慮が至らなかったことだ。ジャッキー映画にとってのお約束であったNG集を省いた分、エンドロールに並行する形でも、あの美しい立ち回りをもうひと幕披露して欲しかった――当人たちは再度の競演に意欲的のようだが、それでも双方共に大物になっているいま、実現する可能性を思えばもうひと幕は押さえて欲しかった、と思う。ハチャメチャなところを許容しても、そこだけは惜しまれてならなかった。

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