『ハロウィン』

『ハロウィン』
写真提供:シネトレ

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原題:“Halloween” / 監督・脚本:ロブ・ゾンビ / オリジナル脚本:ジョン・カーペンター、デブラ・ヒル / 製作:マレク・アッカド、アンディ・グールド、ロブ・ゾンビ / 製作総指揮:ボブ・ワインスタインハーヴェイ・ワインスタイン / 撮影監督:フィル・パーメット / プロダクション・デザイナー:アンソニー・トレンブレイ / 編集:グレン・ガーランド / 衣装:メアリー・マクロード / 音楽:タイラー・ベイツ / 出演:マルコム・マクダウェルブラッド・ドゥーリフシェリ・ムーン・ゾンビ、タイラー・メイン、スカウト・テイラー・コンプトン、ダニエル・ハリス、ウィリアム・フォーサイスウド・キアダニー・トレホ、ビル・モーズリイ、デーグ・フェア、クリスティーナ・クリーブ、ハンナ・ホール / 配給:XANADEUX

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:?

2008年10月25日(土)、お台場シネマメディアージュシアターN渋谷、池袋シネマサンシャイン新宿オスカーほか全国ロードショー

公式サイト : http://www.hallo-ween.jp/

映画美学校第一試写室にて初見(2008/09/26) ※ブロガー試写会



[粗筋]

 アメリカ、イリノイ州、ハドソンフィールド。マイケル・マイヤーズ少年(デーグ・フェア)を取り巻く境遇は最悪としか言いようがなかった。母親のデボラ(シェリ・ムーン・ゾンビ)はマイケルを愛しているが、家計を支えるために毎日ストリップの舞台に立ち、年がら年中恋人のロニー(ウィリアム・フォーサイス)と口論をしている。マイケルの姉ジュディス(ハンナ・ホール)は尻軽女呼ばわりされ、学校でマイケルがいじめられる原因の一端を担っている。ある日、マイケルの荷物に動物の死体や虐殺した姿を撮した写真が入っているのを知った学校はデボラを呼び、マイケルを精神科医のサミュエル・ルーミス(マルコム・マクダウェル)の鑑定にかけることを提案した。そのことを察したマイケルは帰途、彼を虐めていた生徒を暴行し――それを境に、マイケルのなかにかかっていた箍が外れた。

 楽しみにしていたハロウィンの夜、母は仕事に赴き、代わりにマイケルの面倒を見るよう命じられていたジュディスは恋人を家に連れこんで情事に耽る。外に出たものの、すぐに戻ってきたマイケルは、とうとう行動に及んだ。泥酔し眠りこけたロニーを椅子に縛りつけ、その喉を切り裂くと、行為を終えて台所に下りてきた姉の恋人を撲殺、そして彼が持っていた不気味なマスクを着けてジュディスに襲いかかり、包丁でめった刺しにする。やがて仕事から戻ってきたデボラが見つけたのは、血飛沫に汚れ、腕の中に幼い妹を抱きかかえて玄関先で項垂れるマイケルの姿であった……。

 裁判の結果、厳重警戒の精神病院に収容されたマイケルは、だが自らが凶行を犯した際の記憶を失っており、外の世界への憧憬に支配されるようになっていった。ルーミス医師は親身になってカウンセリングを行い、治療を試みるが、時を追うにつれマイケルは表情を失い、自らの顔を手製の覆面で隠すようになり、あるとき、面会に訪れた母とルーミス医師が離れている隙に、監視していた女性看護師を殺害してしまう。

 母のデボラは、そうでなくても我が子が殺戮を犯したことで周囲から迫害されていたところへ、マイケルの凶行を目の当たりにして、とうとう自ら死を選ぶ。以来、マイケルは言葉を完全に失い、外出の際には手枷足枷を打たれるようになり――15年が経過した。

 あれ以来心を開くことのないマイケル(タイラー・メイン)に業を煮やしたルーミス医師は、彼について綴った著作の成功を契機に、袂を分かつことを決意した。それがきっかけであったかのように、マイケルはより厳重な監房に移送されるその途中、手首に嵌められていた鎖を自力で引きちぎり、看守をすべて殺害し、収容所から逃走する。

 折しも街はハロウィン。マイケルが向かった先は、自分の生まれ育ったハドソンフィールド。彼のもたらした惨劇の舞台であるマイヤーズ邸が廃墟として残されたこの土地にふたたび、そして15年前よりも更に凄惨な流血の嵐が吹き荒れようとしていた……

[感想]

 あまり信じてもらえないかも知れないが、もともと血飛沫の舞い散るような映画は好きではなかった。むしろ避けて通っていたほどであり、そのせいで未だにホラー映画の古典的名作などにはほとんど触れていない。スプラッタ映画、スラッシャー物の原点と呼ばれる本篇のオリジナルについても、だから大まかな内容を知識として知っていただけで、実物に触れていない。観る前に予習ぐらいはしたい気もしたが、けっきょくぶっつけ本番も同様で試写会に足を運ぶことになった。

 そんなわけで、オリジナルとの比較で語ることは出来ないのだが、しかしそれでも、或いはだからこそかも知れないが、本篇は極めてハイレベルのゴア・ムービーであると感じた。

 こうした、強力なモンスターをひとり配置している作品は、その破壊的な急襲をひたすらに描いて観客を恐怖に陥れる、というのが常套のようになっているが、本篇は彼がモンスターとして覚醒する寸前の生活を描き、狂気を宿すのも宜なるかな、という背景をきっちりと打ち出している。

 出色なのは、すべてを生活環境で説明するのではなく、ところどころ狂気を生来のもののように疑わせたり、理に適わない凶行に及ばせたりしている点だ。ハリウッド産のホラーはしばしば行動にやたら説明をつけて興醒めにしたり、不自然さを強調してしまいがちだが、本篇は不明なものを不明なままに見せることで、却ってリアリティを感じさせている。

 ここで注目すべきは、狂気に目醒めるマイケル・マイヤーズを演じたデーグ・フェア少年である。冒頭、仲違いする姉に向かって喚き立てる姿、母や妹と対するときの優しく無邪気な表情、そして狂気を目醒めさせる過程で次第に表情を失っていくさまを、見事に演じきっている。本篇出演ののちオファーが殺到しているというのも非常に納得がいく話だ。『ハンコック』では短い出番ながら、ハンコックに翻弄される少年を演じて存在感を示しており、今後も注目すべき人材だろう。

 沈鬱だが強烈なインパクトを備えた前半が終了すると、時間は15年後に移り、2度目の惨劇が始まる。ここからは前半以上に、廃墟で戯れる恋人であるとか、モンスターと化したマイケルを追う人々のやり取りなど、スラッシャー物の定番と呼べる要素がちりばめられ、お約束のような順序で殺戮が繰り広げられるが、ここに至っても本篇はリアリティに重点を置いている。最初の犠牲者は、この街の状況なら不自然でない場所を選んでいちゃついていたために殺戮の対象に選ばれており、そこからマイケルが辿る道筋にも頷けるものがある。

 一点惜しむらくは、凶行のパターンがあまり多くないことだ。折角あれほどの肉体を備えているのだから、もっと別の趣向を凝らしてもいいのでは、と惜しまれるのだが、他方でその限られた趣向を様々な切り口で描き、決してワンパターンに感じさせない演出の膂力が素晴らしい。マイケルや周囲の人物の背景描写からしてそうだが、定番ながらそこに骨があり、うまく絡めあうことで展開の緊迫感をいっそう高めている。

 しかも、そうした背後事情を観客が察しているからこそ、通常のゴア映画にはあり得ない情緒的な表現が活きている点にも注目したい。そのうえ、クライマックスの流れ故に、一瞬感じられた真相がどの程度まで正しいものか、意図的にぼかされているのも巧い。細部を眺めると或いは、と感じられる一方で、やはりあれは化物だったのだ、と結論せざるを得ない心境にもさせられるあたり、前半の描き方とも一貫している。

 絶叫で幕を下ろす本篇は終始緊迫感に満ち、直接描写は決して多くないのにそれでも眼を背けたくなる場面ばかりで、やはりホラー初心者には極めて優しくない作品である。かつ、ホラーやスプラッタであっても何らかの仕掛けや明確なカタルシスがあるべきだ、という主義をお持ちの方にはあまり納得のいかない締め括りだろう。だが逆に、そうした夾雑物は不要、ゴア映画はひたすら殺戮のおぞましさを徹底的に描いてくれればいい、と考えているような人にとっては、ほぼ理想的な作品である。かつてのホラー嫌いはどこへやら、そういう映画も今では愛している私でさえ、観終わったあとに激しい疲れを覚える本篇、観るのは決して楽ではないが、間違いなく近年製作されたスラッシャー物の傑作と呼んで差し支えあるまい。だからこそ、みんな観ろとは絶対に言えないが。

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