『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』

『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』

原題:“Hellboy II : The Golden Army” / 原作:マイク・ミニョーラ / 監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ / 原案:マイク・ミニョーラギレルモ・デル・トロ / 製作:ローレンス・ゴードン、マイク・リチャードソン、ロイド・レヴィン / 製作総指揮:クリス・シムズ、マイク・ミニョーラ / 撮影監督:ギレルモ・ナヴァロ,ASC / プロダクション・デザイナー:スティーブン・スコット / クリーチャー&特殊メイク・デザイン:マイク・エリザルド / 編集:ベルナ・ヴィラプラナ / 衣装:サミー・シェルドン / 音楽:ダニー・エルフマン / 出演:ロン・パールマンセルマ・ブレアダグ・ジョーンズ、ジェフリー・タンバー、ルーク・ゴス、アンナ・ウォルトンジョン・ハート、ジョン・アレクサンダー、ジェームズ・ドッド / 声の出演:セス・マクファーレン / 配給:東宝東和

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間59分 / 日本語字幕:林完治

2009年01月09日日本公開

公式サイト : http://www.hellboy.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/01/09)



[粗筋]

 ……遥か古、人類と熾烈な戦いを繰り広げたエルフ族のベツムーラ王国は、戦いに終止符を打つべく、ゴブリンの鍛冶師が提言した最強の軍団ゴールデン・アーミーを導入する。だが、無慈悲にして不死の軍隊の悽愴な戦いぶりに絶望したベツムーラのバロル王は人間に停戦を進言、かくて人間が街に、エルフ族が森に、という棲み分けが成立し、ゴールデン・アーミーは三つのパーツに分けられた王冠によって封印された。エルフも人類も安堵したが、ただひとり、ベツムーラ王国の王子・ヌアダ(ルーク・ゴス)だけが、この停戦に納得していなかった……

 ……そして現代。オークションの会場にヌアダ王子が現れ、“歯の妖精”と呼ばれる蜘蛛状の化物を大量に放ち、人々を喰らわせると、出品されていた封印の王冠を掠奪する。遙かな時を経て、自然を破壊し尽くす人類に絶望したヌアダ王子はいよいよ、停戦の破棄を目論んだのだ。

 蹂躙されたオークション会場にやって来たのは、超常現象捜査防衛局、略称BPRDに所属するヘルボーイ(ロン・パールマン)。彼は第二次大戦末期に、ナチスの実験により地獄から招かれた悪魔の子だが、超常現象学者であるトレヴァー・ブルーム教授(ジョン・ハート)によって引き取られ、魁偉な外見とは裏腹に繊細で人間的な心を育んでいた。ブルーム教授亡き後も、相棒の水棲人エイブ(ダグ・ジョーンズ)、念動発火能力者のリズ・シャーマン(セルマ・ブレア)と共にBPRDのエージェントとして、怪物・妖怪相手の戦いを続けている。だが最近は、恋人でもあるリズとの仲がこじれていて、そのストレスのあまり、外貌故に人目を忍ぶ立場であるにも拘わらず密かに外出しては目撃者を生んでしまい、直接の上司であるトム・マニング(ジェフリー・タンバー)を悩ませていた。

 オークション会場にはヌアダ王子が放った“歯の妖精”が留まっており、あまりの量に人間のエージェントは早々に餌食となってしまう。手を焼いた挙句、最後の手段としてリズが発火能力を使い一掃したが、その際窓の傍に佇んでいたヘルボーイは外に吹き飛ばされ、建物の周囲にたむろしていた野次馬、そしてマスコミの前に異形の姿を晒してしまう。

 都市伝説として知れ渡っていたヘルボーイがとうとうカメラの前に姿を現したことで世間は大騒ぎとなった。政府はこの不祥事に、ヘルボーイたちを監督する人間が必要だと判断、新たな人材をBPRDに送りこむ。現れたのは、事故のためにエクトプラズムのみの身体になってしまい、気密スーツで人型を保っている超常現象の専門家ヨハン・クラウス(ジョン・アレクサンダー、ジェームズ・ドッド/声:セス・マクファーレン)という人物である。クラウスはエイブと共に犯人の目星をつけ、さっそくヘルボーイたちに指揮を下して調査に乗り出すが、ヘルボーイは不快感を募らせていた。狙って自らの姿を晒したはずが、人間達の目は冷たく、クラウスの登場を契機にリズとは更に口論が絶えなくなっていたからだ……

 一方、ヌアダ王子は父・バロル王を殺害し、所持していた王冠を奪うが、最後のパーツを所持していた双子の妹・ヌアラ王女(アンナ・ウォルトン)を逃がし、そのあとを追っていた……

[感想]

 本篇は2004年に製作された『ヘルボーイ』の続篇に当たる。上記粗筋で触れたナチスの実験やブルーム教授死亡の経緯についてはそちらで語られているものだ。とはいえ、前作を見ていなければ理解できない、という作りにはなっていない。前作での謎はほとんど本篇には絡んでこないので、こちらから観るのも可能だろう。

 しかし、行動の細部に至るまで丁寧な伏線を張り巡らせていた前作と比べると、本篇は全般に緩みを感じる仕上がりだった。伏線を丁寧に組みあわせることよりも、多くの魅力的なクリーチャーや大規模な異世界のヴィジョン、そして異形の者たちの激しい戦闘を描くことに重点を置いたせいか、それぞれの出来事があまり密接に結びついていない。一方で、序盤で提示された要素から決着に至る流れがおおむね予測できてしまい、意外性に乏しい終盤となっているのも前作と比べて物足りないところだ。

 だが、監督のギレルモ・デル・トロが自身の前作『パンズ・ラビリンス』において様々な賞を獲得したことで地位を確立し、その結果として本篇の予算が増えたせいもあるのだろう、代表作となった『パンズ〜』よりもクリーチャーは増量し、VFXを駆使した異世界描写は規模を拡大した。その分、映像的な見所も増している。冒頭、ブルーム教授の語りに乗せる形で披露される人形劇風の妖精戦争、ヌアダ王子がヘルボーイに差し向ける緑の巨人、クライマックスに登場する迷宮を守護する石の巨人などは、特にそのイメージの豊かさが際立った部分であり、目を奪われる。

 前作でも秀逸な魅力を放っていたヘルボーイ人間性は更に掘り下げられ、より魅力的になっている。前作で得た恋人リズとの関係に悩み、目立ちたがり屋であるが故に意識して衆目の前に身を晒す。その結果に一喜一憂し、ヌアラ王女に想いを寄せたエイブと酒を酌み交わしてラヴソングを熱唱する姿は実にチャーミングだ。前作ではあくまでその相棒扱いであったエイブも、ヌアラ王女への恋愛感情を軸に存在感を増しているし、恋人となったリズの立ち回りもヘルボーイの人間的な肉付けに貢献している。初参加となるヨハン・クラウスに至ってはヒーロー物でも異例の個性により、登場時点からやたらと愉しませてくれる。

 キャラクター性という面から観れば、他のアメコミ原作映画とは異なった価値観もまた興味深いポイントである。終盤でしばしば口にする認識はヒーローというよりも人間的だがそれ故に同様のアメコミ原作映画とは微妙に立ち位置が異なり、また魁偉な容貌について何度か取り沙汰されるものの、それが決して大きな問題とはなっていないのも特徴的だ。これはギレルモ・デル・トロ監督が異世界やクリーチャーのヴィジュアルに重点を置いているせいもあるのだろう。いちおうヒーロー物の様式を踏まえているのだが、その本質はあくまでギレルモ・デル・トロ監督独特の美学なのである。

 デル・トロ監督がスペインを軸足に撮った『パンズ・ラビリンス』や『デビルズ・バックボーン』と較べるとかなり軽い仕上がりになっているものの、作家性を保持しながらちゃんと娯楽大作として楽しめるクオリティを備えた良作である。

 最後の成り行きからすると続篇はちょっと作りにくそうにも思うが、製作に深く携わった原作者も期待しているように、デル・トロ監督ならばまだ思いがけない物語を展開してくれるだろうと思う。恐らくは今後もスペインなどでは重い作品を作り続けるはずなので、軽快なトーンで綴ることの出来るこのシリーズも並行してくれると喜ばしいのだが……。

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