『ミラーズ』

『ミラーズ』

原題:“Mirrors” / 監督:アレクサンドル・アジャ / オリジナル脚本:キム・ソンホ / 脚本:アレクサンドル・アジャ、グレゴリー・ルヴァスール / 製作:グレゴリー・ルヴァスール、アレクサンドラ・ミルチャン、マーク・スターンバーグ / 製作総指揮:アーノン・ミルチャンキーファー・サザーランド、マーク・S・フィッシャー、アンドリュー・ホン / 共同製作:キム・ウニョン / 撮影監督:マキシム・アレクサンドル,AIC / プロダクション・デザイナー:ジョセフ・ネメック三世 / 編集:バクスター / 衣裳:エレン・マイロニック、マイケル・デニソン / 特殊メイクアップ:グレゴリー・ニコテロ、ハワード・バーガー / 音楽:ハビエル・ナバレテ / 出演:キーファー・サザーランドポーラ・パットンエイミー・スマート、メアリー・ベス・ペイル、ジョン・シュラプネル、ジェイソン・フレミング、キャメロン・ボイス、エリカ・グラック / ニュー・リージェンシー製作 / 配給:20世紀フォックス

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間51分 / 日本語字幕:栗原とみ子 / R-15

2008年12月26日日本公開

公式サイト : http://www.mirrors-movie.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/01/22)



[粗筋]

 潜入捜査中の手違いで同僚を射殺、休職中のベン・カーソン(キーファー・サザーランド)は、年金では足りない収入を補うために夜警の仕事を得た。

 彼が配備されたのは、数年前に火災を起こし、再建を企図する経営者と遺族の裁判が終わらないために廃墟のまま放置されているデパート。薄気味悪い雰囲気に包まれたこの建物だが、何よりも異様なのは、大災害を経たにも拘わらず、鏡がすべて残っており、前任者が丹念に磨き上げて輝いていることだった。夜間、巡回を行っていたベンは、その鏡に無数の手のあとが残っているのを発見、思わず触れてみると、鏡が割れて手を傷つけた――しかし、直後に確認すると、鏡には亀裂の跡さえ残っていなかった。

 変事は続く。巡回の最中、悲鳴を耳にして衣料品のフロアに赴いたベンは、鏡の中にだけ黒焦げの女が映ることに気づいた。そういえば、前任者は鏡をやたら美しく磨き上げていたという――そこまで察知した矢先に、前任の警備員ルイスがハーレム駅で喉を切り裂かれた屍体となって発見された、という報を受けた。妻のエイミー(ポーラ・パットン)が検死官として勤務していることを利用してルイスの情報を得ようとしたベンだが、そこで得たのは死者からのメッセージ、“エシェカー”という人名らしき単語のみ。

 いったい、鏡はベンに対して何を求めているのか。不明なまま危機感を募らせるベンだが、そんな彼の言動は、エイミーや妹アンジェラ(エイミー・スマート)にとっては奇行でしかなかった。次第に孤立していくベンだったが、しかしやがて彼が危惧していた通り、鏡は遂に牙を剥いた。最初の犠牲者は、よりによってベンがこよなく愛していた妹アンジェラであった……

[感想]

 本篇の監督アレクサンドル・アジャは、出身地のフランスにて製作した『ハイテンション』において、フランス映画としては珍しいハードなスプラッタ描写をふんだんに盛り込んで注目され、ハリウッド進出第1作『ヒルズ・ハブ・アイズ』でその評価を確立した、スプラッタ・ホラーの俊英と言える人物である。そうした評判を聞くにつけ、いつかこの監督の作品を観てみたい、と念じていたが妙に縁がなく、今回初めて触れることが出来た。

 観てみると、なるほど評判となるのも解る表現力である。スプラッタ描写は確かに多いが、しかしそれ自体が主役となっていない点が巧いのだ。そうした描写も手を抜かない一方で、その存在が何もない場面にまで緊迫感を及ぼすような工夫がなされている。恐怖というものの演出を非常によく理解しており、その技が洗練されているのだ。

 設定の付け方も巧い。主人公ベンの、同僚を誤射したためにマスコミに追われ、ノイローゼとなって現在休職中、という設定はありがちながら、幻覚や妄想に悩まされそうな条件が揃っており、「鏡が怖い」という彼の言動を普通以上に信用しなくなる背景としてうまく機能している。

 意匠の用い方やカメラワークへのこだわりも秀逸だ。廃墟と化したデパートの内装が、なまじかつては神聖な雰囲気を強調していたと見えるだけに悪魔的なムードが強調されているし、直接怪奇現象と拘わらない部分でも鏡や鏡面映像を導入して、あとにして思えばほとんど何もなかった箇所でも緊張感を醸成している。スプラッタのインパクトが強烈ながら、こうした細かな部分の巧さが、恐怖映画としての質を上げているのである。

 鏡の特性を用いたものを中心に、怪奇現象のアイディアがふんだんに盛り込まれているのも美点だが、ただこのあたりについては難も多い。もともと現実に則したスプラッタを中心とした作品を制作していたせいか、怪奇現象のルールにいささか恣意的な印象があり、こと終盤で規則を逸脱したように感じられる描写があって、その辺に拘る人ほど引っかかりを覚えるだろう。製作者側としてはちゃんと筋の通った説明を用意しているのかも知れないが、それを納得させられるほど作中の描写は徹底されていない。

 また、一部の広告で“正解率0%”を謳っている結末にしても同様で、いちおう遡ってみれば伏線らしきものは用意されているのだが、予測できるほど丁寧なものではなかったし、どうしてあの領域に踏み込んでしまったのかいまいち納得しづらい。

 だが、決して序盤からは予測できない展開は牽引力に富み、一気に定石を踏み外していく終盤のインパクトは強烈だ。伏線の丁寧さを重視すると評価し辛いながら、あのエンディングも決して作品の方向性を歪めるものではない。そこまで含めて、王道のモチーフを扱いながらも個性的な作品を生み出す手腕を感じさせる。

 他にも細かいところで疑問や違和感はあるが、トータルでは飽きることなく恐怖感を堪能させてくれる、力強いホラー映画である。

 以下余談。

 本篇では主に主人公ベンが鏡の悪夢の謎を解くべく、廃墟となったデパートを中心として東奔西走する姿が描かれているが、もうひとつ重要な舞台となるのが、別居する妻の家である。終盤に差しかかって、ベンが鏡を取り外したり塗り潰したりしているなかでその調度がよく見えるのだが――個人的に、ポスターがやたら目について仕方なかった。

 何故なら、見えたタイトルが『ツバサ』に『ネギま』だったから。

 ……恐らく男のお子さんの趣味という設定かと思われるが、あれはどっちかというと大きなお友達の好む作品のような……解ってやっているのか、それとも日本人とあちらとでは扱いが違うのか。些末なのだが無性に気になって仕方ない点であった。

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