原題:“Max Payne” / 監督:ジョン・ムーア / 脚本:ボー・ソーン / 製作:ジョン・ムーア、ジュリー・ヨーン、スコット・フェイ / 製作総指揮:リック・ヨーン、カレン・ローダー、トム・カーノウスキー / 撮影監督:ジョナサン・セラ / プロダクション・デザイナー:ダニエル・T・ドランス / 編集:ダン・ジマーマン / 衣装デザイン:ジョージ・L・リトル / 音楽:マルコ・ベルトラミ、バック・サンダース / 出演:マーク・ウォルバーグ、ミラ・クニス、ボー・ブリッジス、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、アマウリー・ノラスコ、クリス・オドネル、オルガ・キュリレンコ / 配給:20世紀フォックス
2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:伊原奈津子 / PG-12
2009年4月18日日本公開
公式サイト : http://www.maxpayne.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/04/23)
[粗筋]
マックス・ペイン(マーク・ウォルバーグ)――ニューヨーク市警の刑事。日中は未解決事件課の資料室に詰め、夜になると街を徘徊して、ある人物を追っている。最愛の妻ミシェルと、生まれて間もない子供を殺した男たち。大半は、僅か10分遅れで犯行現場である家に帰ったマックス自身が射殺したが、ひとりだけ取り逃がしていた。
その夜も、情報を求めてさまよっていたマックスは、かつて使っていた情報屋が経営するナイトクラブを訪れる。場の成り行きで彼を頼ったナターシャ(オルガ・キュリレンコ)というロシア系の女がマックスにつきまとい、家にまで上がり込んで彼を誘惑しようとしたが、依然として家族の記憶を背負うマックスは、きつい口調で追い払った。
翌る日、出勤した矢先に、かつての相棒アレックスに呼び止められたマックスは、ナターシャが路地裏で惨殺され、自分が犯人と疑われていることを知る。マックスは、自分があの事件を追っている過程で巡りあった女が殺されたのだから、きっと何か関係がある、と訴えるが、けっきょくその場では言い争いとなって、喧嘩別れに終わってしまう。
だがその夜、マックスは留守番電話に「共通点を発見した」と吹きこんであるのに気づいた。急ぎアレックスの家を訪ねると、ドアの鍵が壊されており、中には元相棒が息絶えて転がっている――そして、マックスは何者かに襲われ、昏倒した……
[感想]
本篇のジョン・ムーア監督は、スローモーションや細かなカット割りを用いた戦争アクション映画『エネミー・ライン』でデビューして以来、コンスタントにヒットを放ってきた人物である。同作に魅せられ、続く作品も鑑賞してきた私には待望の1本なのだが、率直に言って、期待外れの感は否めなかった。
本篇でも派手なアクション描写が売りとなっているが、序盤はアクションよりも、相次ぐ凄惨な事件の背景を追うことが中心となっている。マーク・ウォルバーグの影を纏った立ち居振る舞いに、街の光と影とを怪しげに切り取った映像とあいまって、ハードボイルド・タッチを感じさせる魅力的な雰囲気で話は進むのだが、話が進むほどに辻褄の合わない箇所が増え、終わってから描写を顧みると不自然なところが無数に目につく。序盤で起きたある事件はどんな意味があったのか、とか、もっと早い段階でマックスは殺されていたんじゃなかったのか、とかいった具合に、現実の謎解き部分でも奇妙な点は多いが、途中の犯行や終盤のマックスの目にする光景と絡む、幻想的な要素についても説明が足りず、効果を充分に上げていなかった。
本篇はゲームを原作にしており、総プレイ時間が10時間を超えるスケールを圧縮すると同時に、映画ならではの要素を盛り込むことに苦心した旨がプログラムには記されている。原作自体がサム・ペキンパーやジョン・ウー、そして『マトリックス』の様式を土台にしているものであり、映画化に当たって何らかの独自性を付け加えないと、前述の作品群にただ倣っただけの仕上がりになりかねない、という事情もあったようだが、それならそれでもっと慎重にエピソードの整理整頓、融合を行うべきだったろう。
ストーリーの整理が行き届いていないために、手の込んだアクション・シーンも充分に活きていない。マックスにしても敵方にしてもその戦闘能力、特技などが不明瞭なまま戦闘に入っているので、スローモーションや一風変わったカメラアングルでの表現が、ただ唐突なものに見えてしまう。ストーリー後半では、ある理由からマックスの戦闘能力に変化が起きているような成り行きになっているのだが、何処が変わったのかはっきりしないので、ただ映像の特異さだけが目立ち、物語に馴染んでいない。いきなり海老反りになって背後にいる敵と撃ち合う場面など、事前にもう少し伏線を用意しておけば格好いい見せ場になったはずが、むしろ失笑を誘いかねない状態なのだ。
しかし、それぞれのシーンのみに限って言えば、映像の美しさ、印象の強さは出色だ。夜や路地裏、明かりの乏しい屋内など陰影の濃いロケーションを主に選択することで築きあげたダークな雰囲気のなか、表情乏しく佇むマックスの鬼気迫る姿。段階的に鏤めてきた異質な映像が現実に重なってくる終盤の迫力はかなりのものだ。
アクションに持ち込む話運びはぎこちないものの、アクション・シーン自体の映像は完成度は高い。背後から狙ってくる敵とのアクロバティックな駆け引き、廊下を疾走するマックスを追うように次々と割れていくガラスなど、スローモーションを用いて観る側に明瞭な緊迫感を伝えてくる手管はさすがに堂に入っている。
はっきり言ってジョン・ムーア監督の長篇作品のなかではいちばん不出来だったが、ダークな雰囲気の横溢する映像に、インパクトのくっきりとしたアクションは見応えがあり、従来のジョン・ムーア監督作品を好む人、理屈よりもヴィジュアル・センスに優れたアクションを待望する向きならばそれなりの充実感を味わうことが出来るだろう。――それでも、もっと脚本の段階で練って欲しかった、という嫌味は否めないが。
関連作品:
『エネミー・ライン』
『オーメン』
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