原案・監修:清水崇 / 監督・脚本:三宅隆太 / プロデューサー:一瀬隆重 / 製作:福原英行、原知行 / エグゼクティヴ・プロデューサー:加藤和夫 / コ・プロデューサー:西前俊典 / 撮影監督:金谷宏二,J.S.C. / 照明:藤川達也 / 美術:井上心平 / 編集:深沢佳文 / 録音:竹中泰 / 音響効果:志田博英 / 音楽:ゲイリー芦屋 / 出演:南明奈、鈴木裕樹、みひろ、中村愛美、福永マリカ、星野晶子、鈴木卓爾、ムロツヨシ、宮川一朗太 / 東映ビデオ CELL製作 / 製作プロダクション:オズ / 配給:東映ビデオ
2009年日本作品 / 上映時間:約1時間 / R-15
2009年6月27日日本公開 ※『呪怨 黒い少女』と同時上映
公式サイト : http://www.juon2009.jp/
UDXシアターにて初見(2009/05/12) ※試写会
[粗筋]
――クリスマス・イヴの日。文哉(鈴木裕樹)はクリスマス・ケーキの配達のために磯部家を訪れた。インターフォンを押しても返事がなく、いったん去ろうとした文哉だが、玄関が開いているのに気づき、恐る恐る中に入って声をかける。すると……
――タクシードライバーの柏木(宮川一郎太)は夜勤明け、ひとり娘のあかねを学校に送ったあと、一休みしてから営業所に戻るつもりだった。だが、どうやら早朝に乗せた客がシートを汚したことに気づき、道端で清拭していると、営業所からその客が何らかの事件に関わっているらしく、警察が話を聞きたがっている、という連絡が入る。不気味に思いながら後部座席を見ると、そこには……
――7年後、高校生になったあかね(南明奈)は、“幽霊が視える”少女として周辺では知られる存在となっていた。その日も、噂を聞きつけた他のクラスの生徒に請われ、こっくりさんを手伝うが、そこで彼女は、過去の記憶を呼び起こすものを目撃する……
[感想]
1999年に清水崇監督がオリジナルビデオとして『呪怨』第1作を発表して、今年が10周年となる。それを記念して、清水崇監修のもとNintendo Wii対応のゲームと、別の監督ふたりによる新作映画が制作された。本篇は後者の1本である。
これまで清水監督自らがメガフォンを取ったシリーズ作品はすべて伽椰子とその息子・俊雄の呪いが物語の軸となっていたが、2009年の新作2本はいずれもこの母子から切り離し、新たな呪い・怨みを軸に物語を構成している。
但し、恐怖表現の雰囲気や、視点人物が変わるごとに黒画面に白文字で人物名を表示し、時間軸を入れ替えて謎や違和感を演出する手法は踏襲している。また『呪怨』シリーズのトレードマークであった、あの薄気味悪い呻き声なども健在だ。
こと本篇は、映像の色合いや間の取り方に至るまで、オリジナルビデオ版『呪怨』の雰囲気を見事に再現している。劇場版に移行してからは、伽椰子らの個性が際立ちモンスター映画の新種のような方向性にシフトしていったが、主役は怨みそのものであり、その呪いが関わりの僅かな人間に対しても蔓延していく“恐怖”、という本来の狙いへと立ち戻っている。特に冒頭、“文哉”と題されたシークエンスのちりちりと産毛が逆立つような無音の間、派手に際立たせるのではなく、じっとりと染みこんでくるような恐怖の表現は、原点の備えていた怖さを思い出せてくれる。
ただ、全体を見渡して出来を論じると、やはり原典には及んでいない、というのが正直なところだ。
『呪怨』シリーズを支配していた佐伯伽椰子という女性の悲劇を切り離すことで新しい呪いを盛り込み、異なる悲劇を演出しているのだが、人間関係が妙に込み入りすぎて、意外な繋がりが齎す怖さ、というものが薄れている。入り組んだ人間関係を推測したり理解するのに精一杯で、そこから滲んでくる怖さを観客が意識しにくいのである。
新しい発端でもって呪いを伝播させていくのはいいのだが、その出所がいまいち不透明であることも全体の締まりを悪くしている。謎を謎のまま残して薄ら寒い印象を留めることもホラー映画の技術のひとつではあるが、この作品の場合は考えれば考えるほど出所が解らないので、気持ち悪さよりも苛立ちを感じさせる。伽椰子・俊雄に代わる恐怖の象徴“白い老女”が、その立ち位置故に恐怖を齎すのではなく、単なる虚仮威しにしか見えないのは問題だろう。そもそもこの“白い老女”は、本篇の監督・三宅隆太が『怪談新耳袋[劇場版]』のなかで登場させたキャラクターの流用と思われるのだが、あちらでも虚仮威しというイメージが強かっただけに、背景を示したり別の意義を提示していないのはあまりよろしくない。
最大の問題点は、主な事件が起こってから7年後にあたる出来事が、物語の中であまり存在意義を持ち得ていないことだ。話を辿っても、何故7年後にああした影響が及ぶのか解らず、全体のなかでどうしても浮いてしまっている。本篇は宣伝などで南明奈をヒロインとして正面に打ち出しているが、その彼女が登場するのがこの7年後のパートなのだからなおいけない。ヒロイン格の人間を使うパートならば、もっと工夫が必要だっただろう。
と、否定的な言葉を連ねはしたが、しかし個人的にはさほど不満は覚えていない。ホラー映画というのは一歩間違うと恐怖の演出が笑いに繋がってしまう傾向にあり、自覚的にやっているならともかく、意図せず笑われてしまっている、と感じられる表現はあまり望ましくない。その点、本篇はほぼすべてきちんと恐怖に繋がっており、終始肌の粟立つような感覚を味わうことが出来る。やや纏まりは悪くなっているが、オリジナルビデオ版『呪怨』が備えていた怖さに迫っている、という意味では劇場版4作よりも優秀だ。
劇場版やハリウッド進出以降の作品にぬるさを感じていた人なら、絶対に満足する――とまでは言えないまでも、溜飲は下がるはずだ。そして、ホラー映画ブームの時期に量産された作品群よりも、ずっと怖い仕上がりになっている。
関連作品:
『呪怨』
『呪怨2』
コメント