原題:“Almaz Black Box” / 監督:クリスティアン・ジョンストン / 脚本:スコット・アルトメア、ハンフリー・R・ガイド、クリスティアン・ジョンストン / 製作:スコット・アルトメア、ジェームズ・ヴォルク / 配給:Presidio
2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間29分 / 日本語字幕:野崎文子 / 字幕監修:(財)日本宇宙フォーラム 渡辺勝巳
2009年6月6日日本公開
公式サイト : http://www.almaz.jp/
新宿バルト9にて初見(2009/06/06)
[粗筋]
1998年11月、ロシアの宇宙ステーション“アルマズ号”が地球の軌道を外れ、大気圏に接触、地上へと墜落した。ロシアはこの事実について一切公表することはなかったが、のちにウクライナの過激派グループ“RIOT”がロシアの宇宙庁を出し抜いてブラックボックスを回収したことを公表する。
極秘裏に進行していたアルマズ号の計画だが、何故こうも徹底して葬り去られようとしていたのか? 或いは、このブラックボックスに収められていた謎のデータと、アルマズ号墜落までの最後の4日間を断片的に記録した映像とが、その答なのかも知れない。
墜落の4日前、アルマズ号はソユーズとドッキング、アメリカ人宇宙飛行士ふたりを新たに受け入れていた。そして、それから間もなく、計6人となったクルーたちはこの星における宇宙開発史に類を見ない恐怖に遭遇することとなる……
[感想]
観る際の心構えも難しいが、感想をどういう風に書き、どういう風に薦めるかも難しい代物である。絞り込むと隔靴掻痒も甚だしいことになってしまうので、この際正直になることにしよう。
ジャンルとしては、邦題があからさまに暗示しているとおり、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のようなホラーテイストのドキュメンタリーになる。だが、『ブレア〜』自体にそんな評が多かったのと同様に、本篇も決して“怖さ”を色濃く感じるものではない。宇宙空間に取り残され、何かが迫ってきている感覚に見舞われながらも逃げ出すことの出来ないクルーたちの恐怖を描いているが、観ている側がそれに容易く共鳴できるほど具体的な“恐怖”の対象を示していないのが原因だ。
一方で、ドキュメンタリー形式の長篇映画がしばしば陥りがちな欠点も本篇は抱えている。ストーリーライン、主題が明確に理解できるほどになるまでが長く、かなり後半まで退屈な印象を免れない。この作品の場合、舞台が全篇、極めて行動範囲の限られた宇宙ステーション内のみなので、極端なくらいに変化が乏しい。たとえば撮影機材がハンディカメラ1台でも、『クローバーフィールド/HAKAISHA』のように舞台が広く、恐怖の対象があれほど巨大であれば表現に幅が生じて、少なくとも“退屈”という印象を与えることはないが、本篇の場合はその桁違いの狭さがあだとなった。
しかしそのぶん、登場人物たちの感じる恐怖が、それぞれに質や方向性は違えど具体化していく終盤は、俄然目が離せなくなる。普通に考えれば胡乱な理屈さえ、その時点での薄気味悪い現実の数々のために否定することが出来ず、恐懼し取り乱していく人々。ああいう疑惑を持ち出しながら、それがどうして宇宙ステーションという密閉空間にいつ、どんなタイミングで潜入したのか、という点について一切議論していないのが気になるが、フィクションであれば普通に描写して然るべきそういう部分を外してしまうあたりが却ってリアル、という捉え方も出来る。人々の恐懼する様を収めるほうを製作者たちが優先したのか、或いはそういう部分だけが、回収された時点で既にブラックボックスには存在していなかった――存在を抹消されたのか。そんな風に想像して、薄気味悪さを味わうのも一興だろう。
率直に言えば、現実として素直に受け止めるには、引っ掛かる描写が他にも幾つかある。いちおう理に適った説明が出来るものもあれば、現在の宇宙開発の状況と比較してあまりに不自然な箇所もある。だが、そういう点を約束として許容すれば、極限状況における人間の心理と行動、とりわけ恐怖の変化を巧く描き出した作品として、本篇は興味深い1本として受け止められるだろう。
如何せん映画として解り易いストーリーや、息を呑むような真相が明かされたり、人類に恐怖を齎す存在がまざまざと描かれるのを期待しているとまったく応えてくれないし、編集の仕方もいささか過剰な趣向を盛り込みすぎて効果を上げていないきらいがあり、全体に不格好な印象は免れない。だが着眼点はいいし、登場人物の心理の変遷を辿っていく手管、具体的な恐怖の対象を見せないことによる薄気味悪さ、居心地の悪さは秀逸である。怖がりたい、というよりは、表現手法とそれを活かす趣向自体を鑑賞し、検証することに楽しみを見出す人にこそお薦めしたい。
――ただ、そういう観点から評価したところで、本篇のためにわざわざ劇場まで足を運ぶ必要があるか、と問われると、首を傾げざるを得ないのだが。本篇の土台とする映像素材が基本的に解像度の低いものばかりであるため、劇場の大きなスクリーンで鑑賞すると細部がボケてしまうし、何度か見返して検証する必要性のありそうな内容を考えると、劇場で観るよりはDVDのほうが向いているように思う。
関連作品:
『地球外生命体捕獲』
『ザ・ムーン』
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