『サンシャイン2057』

サンシャイン2057 [Blu-ray]

原題:“Sunshine” / 監督:ダニー・ボイル / 脚本:アレックス・ガーランド / 製作:アンドリュー・マクドナルド / 撮影監督:アルウィン・カックラー,B.S.C. / プロダクション・デザイナー:マーク・ティルデスリー / 編集:クリス・ギル / 衣装:スティラット・アン・ラーラーブ / 視覚効果スーパーヴァイザー:トム・ウッド / 音楽:ジョン・マーフィ、UNDERWORLD / 出演:キリアン・マーフィ真田広之ミシェル・ヨークリス・エヴァンスローズ・バーン、トロイ・ギャリティ、ベネディクト・ウォンクリフ・カーティスマーク・ストロング / 配給:20世紀フォックス

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2007年4月14日日本公開

2008年10月16日映像ソフト日本最新盤発売 [Blu-ray Discbk1amazon|DVD Video:bk1amazon]

公式サイト : http://movies.foxjapan.com/sunshine2057/

Blu-ray Discにて初見(2009/06/29)



[粗筋]

 時は2057年。太陽の急速な活動低下によって、地球の気候は一気に冷え込んだ。人類は総力を結集し、太陽に巨大な核爆弾を打ち込んで活動を活発化させる計画を立てたが、この重要な任務を帯びて飛び立ったイカロス1号は忽然と消息を断ってしまう。なおも萎んでいく太陽を前に、人類はふたたび計画の遂行を試みた。

 1号が消息を断って7年後に出発したイカロス2号の旅路は当初、極めて快調だった。キャプテンのカネダ(真田広之)以下、様々な分野の若き権威が格別な軋轢もなく協力し、無事に地球へ帰還することを疑っていなかった――水星を通過するあたりまでは。

 状況が一変したきっかけは、通信士のハーヴィー(トロイ・ギャリティ)が“救難信号”を受信したことにあった。発信元は、イカロス1号。そして座標は、太陽に極めて近い位置。あと一歩で任務の遂行も夢ではない地点であった。

 トロイ(ベネディクト・ウォン)は軌道を修正し救出に向かうべきだと発言したが、メイス(クリス・エヴァンス)がこれに反発する。自分たちの至上命題は、太陽に核爆弾を投下することだ。この使命の達成は、人命よりも優先される。

 その言葉に、更にサール(クリフ・カーティス)がこう反論した。まさにその使命達成のために、1号のもとを目指すべきではないか、と。人類はこの二度にわたるイカロス計画のために、地球に存在する核をありったけ放出していた。本来、イカロス2号に許されたチャンスは1回限りだったのだ。だが、1号から核を回収すれば、成功確率は2倍になるかも知れない。

 サールの提案を受けたカネダは、結論を物理学者であり核爆弾の扱いを熟知したキャパ(キリアン・マーフィ)に委ねる。突然の重責に困惑したキャパだったが、最終的に針路の変更を促す。不確定要素の多い今回の計画では正確な予測を立てることは不可能だった。どうせ賭けならば、成功確率が高いほうを選ぶべきだろう。

 クルーたちが悩みに悩み、出した結論は、だが彼らの予想を超える形で、事態を急変させていった……

[感想]

 インドを舞台にした、空想性とリアリティの共存した傑作『スラムドッグ$ミリオネア』に先行してダニー・ボイル監督が手懸けたSF作品である。

 古くは『トレインスポッティング』で映画界に鮮烈な衝撃を齎し、最近にも『28日後…』でゾンビものにおける新機軸を定着させるなど、手を換え品を換え観客を驚かせているダニー・ボイル監督だが、このあとに大傑作『スラムドッグ$ミリオネア』があることを前提に眺めると、彼にしては少々ストレートな印象を受けるかも知れない。

 序盤はスティーヴン・ソダーバーグ監督による『ソラリス』を彷彿とする思索的なムードで物語が進んでいくが、ある出来事を機にトラブルが頻発、次から次へとクルーを喪っていく事態に見舞われる。やがて真相が明白になったあたりからは、すっかりパニック・サスペンスの趣を呈していく。

 もともと本篇のアイディアは、行き先こそ太陽系の中心だが、地軸の回転を促進するために地球の中心を目指す『ザ・コア』をひっくり返しただけとも取れるし、天文学級の災厄から地球を救う、という大枠で捉えれば、『アルマゲドン』を筆頭に無数の前例がある。それ故に“ありきたり”というイメージを齎しがちなところへ、終盤で示されるのは生々しい狂気、あるいは暴力との対決がメインなので、人によっては“凡庸”という評価を下したくなるのも致し方ないところだろう。

 だが、きちんと検証すると、終盤の展開は決して唐突ではない。太陽に接近する上で生じる危険を、出来る限りリアルに感じられるよう細かく描写しながら、その中に終盤の展開に必要な伏線も鏤めている。安易なように見えるが、設定はきめ細かに練り込んであるのだ。

 こと個人的に評価したいのは、こうした英雄的な行為に及ぶ人々を描いた大作にありがちな、“お涙頂戴”に傾きすぎた言動や、やたらと命の尊さを訴える場面がないことだ。そうした切り口自体は否定しないが、命に対する執着がないかのような描き方をするよりも、本篇のように諦念や悲愴感を打ち出したほうが、よほどその心情が理解できる。そもそも重要な計画を任されているのだから、みな聡明なのだろうし、出発の時点で覚悟を決めているはずだから、生きて地球に還れる可能性が喪われたところで著しく取り乱す者はいないが、その表情には苦々しさや諦めが滲む。この匙加減は、定番の題材を扱っても決して従来通りにはしないダニー・ボイル監督ならではだろう。

 登場人物が自らの価値観を披瀝したり、人生を窺わせる言動をしていないぶん、動的な駆け引きがギリギリまで続いた挙句の結末には、あまり重い余韻はない。序盤のイメージや、思いの外作り込まれた設定ゆえに、この妙にスッキリとした締め括りもまた人によっては不満を覚えるところだろうが、主題とは裏腹な清々しさもまた本篇を、似たようなアイディアを備えた作品と一線を画した作品にしている。

 精度の高いVFXに、サブリミナル的な映像の使い方を盛り込むなど、ポリシーのある映像表現や演出にも見応えがある。『28日後…』や続く『スラムドッグ$ミリオネア』があるだけに大傑作とは言いづらいが、実に噛み応えのある、上質の1本であると思う。

 日本人としては、真田広之の活躍ぶりが期待された本篇だが、生憎と“イカロス2号”のクルーのなかで最初に命を落とす役回りだった。

 ただ、それでもキャプテンという要職で貫禄を発揮しているし、陸続と人が死んでいくなかで、決して贔屓目ではなく、その死にざまにインパクトがあった。決して知名度は高くない、しかし国際的に活躍する俳優が揃った本篇において、充分に存在感を示したのだから、満足すべきだろう。

 ……だいたい本気で“日本人俳優の真田広之”としての活躍を期待するなら、いっそもう一度“サムライ”としてスクリーンに登場して欲しい、と私は思うのだが。無理かなー。

関連作品:

28日後…

ミリオンズ

麦の穂をゆらす風

スラムドッグ$ミリオネア

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