『オブジェクティブ』

オブジェクティブ [DVD]

原題:“The Objective” / 監督:ダニエル・マイリック / 原案:ダニエル・マイリック、マーク・A・パットン / 脚本:ダニエル・マイリック、マーク・A・パットン、ウェズリー・クラーク・Jr. / 製作:ジェフリー・ウォール、ゼヴ・ガバー / 製作総指揮:ゲイリー・ハミルトン、イアン・ギビンズ、ヴィクター・サーミス、クラウス・クラウセン、グレン・スチュワート、ステファン・アウミューラー、デニス・リフ / 撮影監督:ステファニー・マーティン / プロダクション・デザイナー:フランク・ボーリンガー / 編集:マイケル・J・デュシー、ロバート・フローリオ / 衣装:グレン・グレゴリー・クラー / 視覚効果スーパーヴァイザー: クリス・ウッズ/ 音楽:ケイズ・アラトラッキ / 出演:ジョナス・ボール、マット・アンダーソン、ジョン・ウエルタス、マイク・C・ウィリアムズ、サム・ハンター、ケニー・テイラー / 映像ソフト発売元:Happinet Pictures

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:?

2009年7月3日DVD日本盤レンタル開始

2009年7月17日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/07/06)



[粗筋]

 911から二ヶ月後、CIAの情報衛星がアフガニスタンの山中に核反応らしきものを確認した。ある可能性を察知したCIAは、アフガニスタンに滞在していた経験のあるベンジャミン・キーンズ(ジョナス・ボール)を派遣する。

 現地に駐留していた362部隊と合流したキーンズは、目的の詳細について説明は出来ない、としながら、モハメド・ハッサンという人物を捜し出すことを当面の目標として、ハマー隊長(マット・アンダーソン)らに協力を要請した。

 若干の疑念を抱くハマー隊長らとのあいだに微妙な緊張を孕みつつ、キーンズは目的地付近の集落に潜入する。その地の老人の言葉によれば、ハッサンは聖山にいるという。本来よそ者が踏み入っていい場所ではなかったが、重大な任務と認識している一同に退くつもりはなかった。ひとり、屋内を調査していたキーンズも、求める“手掛かり”を手にした今、確信を持って先に進む意を固める。

 キーンズが地元から雇った道案内・アブドゥルを加えた一団は、ハッサンの籠もったという聖山へと、果てしなく同じ光景の続く荒野で車を走らせた。彼らは――道案内のアブドゥルさえも知らなかったのだ、道の先に待ち受けるものが何なのか、何故そこが聖地として忌避されていたのかを。

 ただひとり、キーンズを除いて。

[感想]

 主観視点による撮影、という手法を爆発的に普及・定着させた『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』。この作品は2人の共同監督によって制作されたが、彼らは続篇でともに製作に名前を連ねたのちは袂を分かったようで、別々に活動を続けている。だが、根っこのところで嗜好は一致しているのか、片割れのエドゥアルド・サンチェスが『地球外生命体捕獲』という作品を発表して間もなく、もうひとりの監督ダニエル・マイリックが製作したのが、同じようにUFOを題材とした本篇だ。

 上の粗筋ではそこまで言及しなかったが、告知などでははっきりとUFOを扱った、と謳っているし、そのことを踏まえているか否かで本篇の評価は異なってくるので、敢えて明言しておきたい。本篇はUFOを題材にした、SFスリラーである。

 序盤の切り口は911を発端とした戦争ものの雰囲気があるが、実のところ発端から、UFOを題材にした作品ならではの謎めいた気配を醸成している。沈黙する先導者、現地の人々の謎めいた言動、そしてさり気ないところから始まる怪異、いずれもUFO絡みの怪事件の導入をうまく拾い上げていて、そういう知識があるほどにじわじわと不気味さを感じるはずだ。

 この雰囲気は、日本における現代実話怪談のお手本とも言えるシリーズ『新耳袋』のなかで稀に挿入され異彩を放った、UFO絡みと思われるエピソードにとても近い。知識のない人にとっては奇妙に感じられるかも知れないが、UFOや宇宙人、人間以外の知的生命体が絡んでいるのでは、と匂わせるようなエピソードというものには、実はギリギリまでUFOそのものは登場しないことが多い。本篇のように素性を探り得ない敵や、何者かの意思が介在しているように思えるのに、人間が現在持っているものでは絶対的に不可能な科学力を必要とする現象や事件が、大きな括りとして人間以外の知的生命体に関連づけられる。『新耳袋』ではそれらもまた現代の価値観が生み出した怪談と括って採用していたのだが、恐らくこうした怪奇事件についても下調べを行って製作された本篇は、だから結果的に“怪談”的な雰囲気を帯びていったのだろう。

 つまり本篇は、ある程度オカルト絡みの知識があって、それをフィクションのなかで活かすにはどんなストーリーが必要か、というのを考慮出来るような人ならばすぐに評価出来るかも知れないが、そうでない人がその怖さ、或いはアイディアの確かさを実感できるか、保証するのは難しい。

 しかし、本篇で語られる怪奇現象は決して突飛なものではないし、それらを下敷きにした物語の根本的なアイディアもまた、彼らの行動原理を思えば決して不自然ではない。簡単に“突拍子もない”“支離滅裂だ”と片付ける前に、想像力を巡らせて鑑賞するほうがいいだろう――やはり、オカルト絡みの知識を予め備えていないと面倒かも知れないが。

 アイディアの面を外すと、映像的には『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』よりもシンプルだが、しかし人物関係や事態の奇異さを巧みに描き出しており、なかなかの工夫が認められる。とりわけ、放射線被爆を視認できるカメラを用いた異常性の表現は、なかなか有効活用できないだけに本篇のユニークさを際立たせている。

 観る側の感性、知識に依るところが大きいだけに、傑作と呼ぶことも安易にお薦めすることも難しいが、私は極めて興味深い映画であると思う。――出来ればあと少し、怪奇現象を盛り込んでくれればより満足出来たのだが。

関連作品:

セプテンバー・テープ

地球外生命体捕獲

コメント

タイトルとURLをコピーしました