原題:“Smokin’ Aces” / 監督・脚本:ジョー・カーナハン / 製作:ティム・ビーヴァン、ジョー・カーナハン、ライザ・チェイシン、エリック・フェルナー / 製作総指揮:ロバート・グラフ / 撮影監督:マウロ・フィオーレ,ASC / プロダクション・デザイナー:マーティン・ホイスト / 編集:ロバート・フレイゼン / 衣装:メアリー・ゾフレス / 音楽スーパーヴァイザー:ニック・エンジェル / 音楽:クリント・マンセル / 出演:ライアン・レイノルズ、レイ・リオッタ、アリシア・キーズ、アンディ・ガルシア、ジェレミー・ピヴェン、ベン・アフレック、ピーター・バーグ、タラジ・P・ヘンソン、クリス・パイン、マーティン・ヘンダーソン、ジェイソン・ベイトマン、コモン、ネスター・カーボネル、ジョセフ・ラスキン、ジョエル・エドガートン、トミー・フラナガン、ケヴィン・デュランド、モーリー・スターリング / ワーキング・タイトル製作 / 配給:UIP Japan / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT
2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:? / R-15
2007年5月12日日本公開
2009年7月8日DVD日本最新盤発売 [bk1/amazon]
公式サイト : http://www.smokin.jp/ ※既に閉鎖
DVDにて初見(2009/09/07)
[粗筋]
――FBIは静かにマフィアを追い込んでいた。いまや最後の大物となったプリモ・スパラッザ(ジョセフ・ラスキン)を狙い、彼が尻尾を出す瞬間を待って日夜張り込みを続けている。
ある晩、事態は激しく動き出した。裏切りを画策する配下たちが電話で、スパラッザがある男を殺すために人を雇ったらしい、という会話を交わしたのだ。
そのターゲットとは、ラスヴェガスの手品師バディ・“エース”・イズラエル(ジェレミー・ピヴェン)。スパラッザの寵を受けて、ラスヴェガスで最高の栄誉を5回も与えられた男だが、スパラッザに可愛がられているあいだに、自らもマフィアの真似事を始めた。しかし結果としてファミリーは両断され、しょせん素人に過ぎない“エース”は早速と尻尾を出す。命の危険を感じた“エース”は人を介して、FBIに司法取引を申し出ていたのだ。
古いタイプのコルシカン・マフィアであるスパラッザは、裏切りを決して許さない。既にスウェーデン人がアメリカに渡り、その時を虎視眈々と待っているという。彼に与えられる報酬は、100万ドル――
この情報に、裏社会は沸騰した。ある者は報酬を掠め取ろうと暗躍し、ある者は彼に粛々と裁きを受けさせるべく保護に乗り出す。FBIもまた、マフィアを一掃できる可能性を秘めた情報を確保するために、保釈保証人に先んじて“エース”を捕らえることを目論む。
保釈金を積んで拘置所を出たのち、彼が逃げこんだのはネヴァダ州のリゾート地、タホ湖の畔にあるホテル最上階のペントハウス。恐らく“エース”は一両日中に拠点を移す。
かくしてリゾート地を舞台に、裏表入り乱れて、たったひとりの“獲物”をめぐる熾烈な争奪戦が繰り広げられる――!
[感想]
DVDリリース以降は省かれてしまったようだが、ご覧のように劇場公開時の副題は“暗殺者がいっぱい”だった。まさにその通りで、これほど大量の暗殺者が登場する映画もちょっと珍しい。多すぎて、それぞれに役名+俳優名と並べるだけで粗筋が非常に長くなってしまうため、意識して省略したほどである。
映画本篇も冒頭20分ほどは、ほとんど登場人物の紹介に費やされていると言っていい。下手をすれば倦んでしまいそうな場面だが、複数の視点で状況を語り、テンポよく描いていくことで観る側を引っ張っていく。物語が進むと、異なるルートから“エース”を狩ろうとする人々がアプローチしていく様が描かれるが、ここでも絶妙の呼吸で視点を切り替えていくので、話が混乱することもないし、終始関心を惹き続けるのだ。
しかし、テンポの良さ以上に際立っているのは、事件に絡む人々、特に暗殺者たちのユニークな肉付けだ。2人ひと組で“エース”の拉致を目論む女性ふたりは無線を介して恋愛談義に耽り、かつて1人を殺害するために30人近くを巻き添えにした3人兄弟は今回も派手に立ち回る。また別の暗殺者など、行く先々で殺した人間の容姿や喋り方をその場その場で複製していくのだから凄い。いささか常識離れしているのだが、そこが面白いし、複数の突飛な暗殺者たちが絡むことで、異様な展開を受け入れる素地を観客の意識に作りだしてしまう。
映画を観るとき、多少慣れてくると、演じている俳優のネームバリューから展開を想像してしまうことがある。これだけの大物を起用しているのだからそう簡単には死なないだろう、きっとあとあとこの人物がいい目を見るのだろう、といった具合に予測してしまうものだが、本篇は随所で、それを明後日の方向から破ってみせる。たぶんあとあとまで登場して観客に近い立場から物語を眺めるのだろう、と思っていた人物がいきなり殺され、そこからあとはもう転がっていく方向を予測するのは不可能だ。ある暗殺者の行動を別の暗殺者が結果的に遮り、FBI捜査官は本来追っていたのとは別の暗殺者と一触即発状態に陥る。感情移入する対象がいないのに、恐ろしいほどサスペンスに満ちている。
果たしてこの事態をどうやって収拾するのか、と目を瞠るほど複雑に状況が絡みあったのち、最後にはちょっとしたどんでん返しが待ち受けている。実のところこの“衝撃の事実”、冷静に考えるとかなり乱暴な話なのだが、既に常識を超えてこんがらがった事態と、破天荒極まる暴力の数々を目にしているだけに、「あってもおかしくないのでは」という心境になっており、自然と受け入れてしまうのだ。
但し、そこまでのあまりに激しいアクションと暴力、突拍子もない展開に辟易するような人だと、最後の“衝撃の展開”も恐らくは受け入れづらいだろう。そのあたりは自分の適性を判断した上で鑑賞する必要があるかも知れない。
最後の成り行きもまたインパクト充分だが、素晴らしいのはそのあとに設けた結末である。ここまで強烈な泥仕合を経ているからこそ、まさに胸の空く思いを味わえる秀逸な締め括りだ。
暴力の入り乱れ、犠牲者も無数に出る、その側面だけを眺めると陰惨な話だが、その壮絶な有様を緻密に構成してストーリーとしての驚きを演出すると共に爽快感へと繋げる、非常に尖ったエンタテインメントである。クエンティン・タランティーノの作品群やガイ・リッチー監督の『スナッチ』あたりを好む方にお薦めしたい。
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