原題:“The Art of War” / 監督:クリスチャン・デュゲイ / 原案:ウェイン・ビーチ / 脚本:ウェイン・ビーチ、サイモン・デイヴィス・バリー / 製作:ロン・ユアン、ニコラ・クレモン / 製作総指揮:エリー・サマハ、ダン・ハルステッド、ドン・カーモディ、ウェズリー・スナイプス / 共同製作:リチャード・レイロンド / 撮影監督:ピエール・ギル / プロダクション・デザイナー:アン・プリチャード / 編集:マイケル・アーカンド / 衣装:オデット・ガドゥーリー / 視覚効果スーパーヴァイザー:ジョージ・ジャードン、ピエール・レイモンド / 音楽スーパーヴァイザー:デヴィッド・フランコ / 音楽:ノーマンド・コーベイル / 出演:ウェズリー・スナイプス、ドナルド・サザーランド、アン・アーチャー、マイケル・ビーン、マリエ・マチコ、モーリー・チェイキン、ケリー=ヒロユキ・タガワ、リリアナ・コモロウスカ、ロン・ユアン、ジェームズ・ホン / フィルムライン・インターナショナル製作 / 配給:日本ヘラルド
2000年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:?
2001年1月13日日本公開
2004年7月14日DVD日本盤発売 [bk1/amazon]
DVDにて初見(2009/09/09)
[粗筋]
ニール・ショー(ウェズリー・スナイプス)は国連の事務総長ダグラス・トーマス(ドナルド・サザーランド)の右腕であるエレノア・ホックス(アン・アーチャー)の指揮のもと、特殊工作員として働いている。
21世紀を迎えて、時代は新しい動きを見せていた。中国が門戸を開き、自由貿易に参入する日が近づいている。だがそんな矢先、港に不穏な荷物が届けられた。荷揚げされたコンテナの中から出て来たのは、無数のヴェトナム移民の死骸。エレノアは数日後に控えている、中国と国際社会の貿易自由化の調印を妨害しようと目論む勢力が動いているのでは、と推測し、ショーたちを調印式の会場に潜入させる。
だが、ショーたちの警戒する中、惨劇が起きる。スピーチに立ったウー大使(ジェームズ・ホン)が何者かによって狙撃されたのだ。ショーは急いで追うがすんでのところで逃げられてしまい、逆にFBIによって容疑者として拘束されてしまう。
暗殺者によって親友が重傷を負わされ、偶然に現場から走り去っていく人の姿を目撃していたジュリア(マリエ・マチコ)はショーが犯人ではない、と直感するが、FBIはひとまず彼を拘置所に送ることにした。
道中、捜査官のフランク・カペラ(モーリー・チェイキン)はショーが政府筋の人間であることを疑うようなことを訊ねてきたが、その矢先、ショーを乗せた車は襲撃を受ける。ショーが拉致された車に乗っているのはいずれも中国系。ショーはアンテナを張り巡らせ、助手席の男が何者かからの指示を受けて、ショーを暗殺者に仕立てて始末しようとしているのを悟ると、隙をついて反撃、辛うじて脱出に成功する。
果たして事件の背後に潜む陰謀とは何なのか。孤立無援の中、ショーは真相解明に奔走するが……
[感想]
恐らくはちょうど、いわゆる“2000年問題”が大騒ぎになっていた頃に脚本が作られ、本国ではそのほとぼりが冷めた頃に公開された作品である。オープニング部分で新千年紀を迎えるパーティの様子が描かれ、突如発生した停電に「Y2Kか?」という呟きが聞こえてくるのが時代を感じさせる。
とはいえまだほんの10年足らず前の話なのだが、妙に古めかしさを感じるのは、更にこのあと、2001年のアメリカ同時多発テロをまだ経ていない頃の話であるために、国家的陰謀を扱ったアクション映画ではむかし頻繁に用いられていた“冷戦”や“共産国家”というキーワードに縛られているせいだろう。911以降、悪役は中東や、アメリカ政府の内部に見出されることが多くなっているが、ちょうどその変化の直前に発表された作品だったことが、ある意味で不幸だったと言えるかも知れない。
アジアに対するいささか安易な理解の仕方、非現実的なほどに手が込んでいることなどが引っ掛かるものの、背景の古めかしさを除けば、かなり見応えのあるアクション映画となっている。
冒頭で主人公の身体能力の高さやその仕事内容を描き、使命のさなかに大きなトラブルが発生し追われる身となる。逃走を続けながら単身真相を究明する過程で、死と背中合わせの激しい格闘が繰り返し展開する。アクション映画のオーソドックスな流れに、一軒見え透いているようでいて、ひねりのある謎解きが加えられているので、惹きつけられるし観ていて飽きることもない。
物語としては観終わったあとに何も残らない――だからこそ娯楽映画としての潔さも感じられる――が、映像表現に幾つか出色のアイディアが盛り込まれているのにも注目したい。特に、現場の痕跡からそこで何が行われていたのか、犯人は誰なのかを、主人公ショーが頭の中で再構築していくイメージをフラッシュバックで織りこんでいく描き方や、銃弾を避けているかの如き迫力のあるクライマックスの格闘などは、かなり完成度が高い。後者は表現的に『マトリックス』の影響が疑われるものの、SF的な背景が無い作品にさほど違和感なく盛り込んでいる点は評価していいだろう。
一時期のアクション映画の教科書通りではあるが、その枠を存分に活かした佳作である。存外、20世紀終盤のアクション映画のサンプルケースとして名前が残るかも知れない。
なお本篇は、この第1作発表から8年を経て続篇『アート・オブ・ウォー2』が製作され、日本ではまさに本項をアップした2009年9月12日より劇場公開が始まっている。主演のウェズリー・スナイプス以外キャストもスタッフもまるで異なっているため、1作目の内容を知らなくてもさほど問題はなさそうだが、本作に好感を抱いている方はそちらもチェックしてみることをお薦めする――私はまだ観ていないので、出来映えは保証しないが。
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