『アルティメット』

アルティメット [DVD]

原題:“Banlieue 13” / 監督:ピエール・モレル / 脚本:リュック・ベッソン、ビビ・ナセリ / 製作:リュック・ベッソン / 製作総指揮:ベルナール・グルネ / 撮影監督:マヌエル・テラン / プロダクション・デザイナー:ユーグ・ティサンディエ / 編集:フレデリック・ソラヴァル / 音楽:ダ・オクトプゥース / 出演:シリル・ラファエリ、ダヴィッド・ベル、トニー・ダマリオ、ラルビ・ナセリ、ダニー・ヴェリッシモ / 配給:XANADEUX

2004年フランス作品 / 上映時間:1時間25分 / 日本語字幕:?

2006年7月15日日本公開

2009年6月19日DVD日本最新盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://www.xanadeux.co.jp/ultimate/ ※閉鎖済

DVDにて初見(2009/09/14)



[粗筋]

 2010年、パリ郊外にあるバンリュー13街区。多発する暴力犯罪のためにこの地区の周辺には壁が設けられ、都市から隔離されていた。公共施設も次々に閉鎖され、一般市民は常に脅威に晒されている。

 この無法地帯で、金にものを言わせ傍若無人に振る舞い、一帯に薬物を蔓延させる一派のボス・タハ(ラルビ・ナセリ)に、ここで生まれ育った青年レイト(ダヴィッド・ベル)が反旗を翻した。取引直前の薬物を盗み、大半を廃棄、一部を証拠としてタハを逮捕させようとしたのだ。

 タハの部下のK2(トニー・ダマリオ)たちの追跡を巧みに逃れるレイトだったが、妹ローラ(ダニー・ヴェリッシモ)を人質に取られたため、タハのねぐらを直接襲撃、ローラを保護すると同時にタハを拉致して警察に引き渡そうとした。しかし、公共施設の撤退は遂に警察にまで及んでおり、引き上げ直前であった署員たちは何とレイトを捕縛、タハを解放してしまう――タハの要求に応じ、ローラを手土産に渡して。

 ……それから6ヶ月後。

 横暴なカジノ経営者を摘発したばかりの潜入捜査官・ダミアン(シリル・ラファエリ)に、極めて緊急を要する任務が与えられた。環境汚染の危険がない、しかし半径8kmに及ぶ破壊力を誇る爆弾が移送中にタハたちによって強奪され、バンリュー13街区に持ち込まれたというのだ。起爆装置は作動しており、爆発までに24時間しかない。そのあいだにコードを入力しなければ、200万の市民が犠牲になる。

 潜入捜査のためには綿密な準備が必要であり、1日では潜入することすら難しい、と訴えるダミアンに、上官たちは協力者を提供する、と言う。13街区で生まれ育ち、タハのアジトに潜入した経験があり、タハに怨みを持ちながら現在刑務所に収監されている人物。彼を説得して、相棒として利用しろ、というのだ。

 その人物の名は、レイト――

[感想]

 リュック・ベッソンは注目した人材やスタイルを、繰り返し導入する傾向にある。のちに『インクレディブル・ハルク』で独立したルイ・レテリエは『トランスポーター』シリーズと『ダニー・ザ・ドッグ』で立て続けに起用され、『EXIT』という作品で彼がプロデュースしたオリヴィエ・メガトンは『ヒットマン』で第二班監督、そして『トランスポーター3 アンリミテッド』で人気シリーズの監督に抜擢された。

 本篇のピエール・モレル監督はこれまで、前述の『トランスポーター』シリーズをはじめ、フランス産アクション映画でたびたび撮影監督を務めてきた人物である。その仕事ぶりが評価されたのだろう、本篇によって監督として起用されたようだ。これが2008年に発表した第2作『96時間』のアメリカでの大ヒットに繋がっていったことを思うと、或いは新たなアクション映画のヒットメーカー誕生の転機が本篇であった、と言えるかも知れない。

 最初に記した通り、リュック・ベッソンはお気に召したスタイルも繰り返し活用するクリエイターだ。本篇では、『YAMAKASI』で採用した、街の建物や壁などを自在に飛び回るパフォーマンス色の強いスポーツ“パルクール”をふたたび導入している。

 但し、安易に2匹目のドジョウを狙ったものではない。『YAMAKASI』では題名と同じグループを主演に起用し、内容的にも彼らのパフォーマンスの延長上にあるものとして作られた印象が強かったが、本篇は主演ふたりに、このスポーツの手法を体得してスタントマンとしても活動している俳優を抜擢、かたやギャグに立ち向かう一般人、かたや警察の人間として、それぞれに戦う技術として“パルクール”を身につけた人物として描き、オーソドックスなアクション映画の文法のなかに取り込んでいる。

 それだけならば、スタイルが若干異なるだけで、印象的には有り体のアクション映画になってしまいそうだが、本篇は異様にスピーディで実の詰まった展開を繰り広げることで、観客の気をまったく逸らさせない工夫を凝らしている。ビルの上や壁面を自在に飛び回り、意表をついたところから襲撃して敵方の虚を突く、といった“パルクール”ならではの見せ場に唖然としているうちに、最初のパートは思わぬ成り行きで決着、すぐさま6ヶ月後に話が移ると新たなアクションが繰り広げられる、といった具合で、観る者はほとんど有無を言えぬまま引っ張り回される。全体としても僅か85分しか尺がないので、飽きる暇など皆無だ。

 主人公2人が縦横無尽に跳躍するアクションの見応えもさることながら、本篇は終始意外な展開を続け、予想外のアクションが繰り広げられるのが魅力だ。特にクライマックスでの組み合わせはかなり思いがけないもので、また単純に勝ち負け以外の部分で興味を惹くために、ごく一般のアクション映画とは異なる牽引力を備えている。そのうえで訪れる結末もかなり爽快だ。

 リュック・ベッソンが脚本・製作を手懸けた作品はちょっとタチの悪いユーモアが仕掛けられていることが多く、本篇でもそれは健在なのだが、作品の主題と噛み合ってなかなか痛快にまとまっている。

 近未来、と打ち出しているわりには、「パリのなかにある犯罪多発地域が壁で隔絶されてしまった」、かつ「環境に影響を与えない、純然たる殺戮兵器が開発されている」という部分にしか活かされていないのが物足りないが、もとを正せば本篇の主役はアクションであり、それを活かすための設定であることを思えば、とやかく言うほうが間違いだろう。

 何にせよ、やっぱり生身を感じられるアクションはいい、と感じさせてくれる、リアルなスピードと重量感を備えた快作である。

 なお、2009年9月19日にはバンリュー13街区にふたたび襲いかかる災厄を描いた続篇『アルティメット2 マッスル・ネバー・ダイ』が日本で公開となる。監督は新たにパトリック・アレサンドランが起用されたが、製作・脚本は相変わらずリュック・ベッソンが担当、そしていちばん肝心な主演ふたりが再登板している。無論、実物を観るまで断定は出来ないが、恐らく今度も生身の迫力に溢れるアクションを披露してくれるだろう。期待したい。

関連作品:

YAMAKASI

96時間

ダイ・ハード4.0』 ※シリル・ラファエリ出演作

バビロン A.D.』 ※ダヴィッド・ベル出演作

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