原題:“Coraline 3D” / 原作:ニール・ゲイマン(角川文庫・刊) / 監督・脚本・製作・プロダクションデザイン:ヘンリー・セリック / 製作:ビル・メカニック、クレア・ジェニングス、メアリー・サンデル / 撮影監督:ピート・コザチク / コンセプトアーティスト:上杉忠弘 / 主任アニメーター:トラヴィス・ナイト / 編集:クリストファー・ムリー、ロナルド・サンダース / 音楽:ブリュノ・クーレ / 声の出演:ダコタ・ファニング、キース・デヴィッド、テリ・ハッチャー、ジョン・ホッグマン、ロバート・ベイリーJr.、イアン・マクシェーン、ジェニファー・サウンダース、ドーン・フレンチ、キャロリン・クローフォード、ハンナ・カイザー、アーンカ・ニール、ジョージ・セリック / 声の出演(日本語吹替版):榮倉奈々、劇団ひとり、戸田恵子、山路和弘、浪川大輔、斉藤志郎、小宮和枝、宮寺智子、定岡小百合、三村ゆうな、宮本侑芽、田川颯眞 / ライカ製作 / 配給:GAGA
2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:稲田嵯裕里 / 日本語吹替版翻訳:小寺陽子 / 吹替版演出:木村絵理子
2010年2月19日日本公開
公式サイト : http://coraline.gaga.ne.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2010/02/20)
[粗筋]
丘の上に建つ、築150年の老朽化したピンクパレス・アパート――ここが11歳の少女コラライン(ダコタ・ファニング/榮倉奈々)の新しい住居だった。まわりに娯楽はなく、同世代の子供と言えば、大家の孫で陰気な少年ワイビー(ロバート・ベイリーJr./浪川大輔)ぐらい。園芸雑誌のライターである両親は、売り込み中のカタログの仕上げに忙しく、コララインのことをろくに構ってくれない。コララインの機嫌はおのずと悪くなっていた。
その晩、新しいけれど古びたベッドで眠りについたコララインは、奇妙な夢を見る。ダイニングの壁に切られた、意味がないはずの小さなドアが何故か開いていて、そこを通り抜けると、別の世界のピンクパレス・アパートがあった。
そこでは、料理嫌いのママ(テリ・ハッチャー/戸田恵子)が心づくしの料理を用意し、パパ(ジョン・ホッグマン/山路和弘)は自動式の奇妙なピアノと戯れ、陰鬱だったアパートはワクワクだらけの陽気な家に生まれ変わっていた。ただひとつ――パパもママも、他の住人たちも、目がボタンになった不気味な容貌をしていることを除けば。
きらびやかなベッドで眠りに就き、目醒めてみれば、ふたたび陰気なアパートに舞い戻っていたことに、コララインは失望さえ覚えた。ママにもうひとつの世界のママの話をしても関心を示さず、それどころか小さな扉の鍵をかけてしまう始末。
しかし次の夜も、コララインは鍵を捜し出して別の世界に向かい、その世界の虜になっていく。だが、そんな彼女に、ワイビーと仲のいい黒猫(劇団ひとり)は語りかけるのだった――この世界は、そんなに甘いものじゃない、と……。
[感想]
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』を手懸けた監督による、ストップモーション・アニメの最新作である。このジャンルのいわば旗手とも言える人物とスタッフの手によるだけあって、もしストップモーション・アニメである、と示唆されなければ、最近とみに多くなった3DCGによる作品と勘違いしてしまいそうなほどに動きは滑らかで、美麗な映像となっている。補助的にCGを用いている可能性はあるが、いずれにせよこの高い完成度には感服する。
ただ、ストーリーに牽引力を欠いていることが惜しまれる。様々な魅惑的なモチーフ、エピソードがちりばめられているが、それがその場その場で強い印象を与えるだけで、多くは物語のうえで、あまり効果を上げていないのだ。特に、コララインと同じアパートに暮らす住人たちはそれぞれ実にユニークな個性を示しているが、せいぜい別世界の奇妙さを表現する程度に用いられているだけで、必要性も必然性もさほど感じられない。老いたふたりの女優が、別世界で脱皮して華麗なショーを繰り広げる、というモチーフは、単独ならばそれだけで短篇映画になるが、こういう長篇作品ではどうしても継ぎ接ぎの印象を与えてしまう。
そしてもっと問題なのが、最終的にコララインが別の世界と訣別するうえでの動機付けが少々乏しいように思えることだ。上記粗筋のあとで、別世界のママはコララインをそちらで暮らすようにそそのかし、その条件としてあることを要求する。確かに、それ自体グロテスクで嫌悪感を催すのは間違いないのだが、彼女に“逃げる”という以上の行動を起こさせるには少々不充分ではないか。無理矢理感動させるようなモチーフを盛り込む必要は無いものの、提示した要素をうまく操ってコララインの動機付けを明確なものにしていれば、終盤の冒険にもう少し説得力が加わり、カタルシスも増したはずだ。
個々の要素が途切れがちで、追求すると結構の緩さが気に懸かるものの、しかし様々なシチュエーションの魅力は確かにある。全体にこだわることなく、その場その場で描かれる風変わりなモチーフの数々は、直感的に作品世界を楽しむことの出来る人――とりわけ小さな子供を強く惹きつけるはずだ。怖がりながら、熱中してしまうかも知れない。
また、美術の独創性、グロテスクな美しさも特筆すべきものがある。現実世界はくすんだ色合いであるのに対し、別世界はカラフルできらびやか、しかしいずれにも毒をちりばめてあり、その世界をまた特徴的なデザインのキャラクターたちが闊歩し、その都度背景もキャラクターもころころと表情を変えていくさまは、それだけで十分に魅力的だ。
もっと物語に練り込みが欲しかった、と嫌味を口にしつつも、劇場で観ても損のない、優れた作品だと思う。
なお本篇は、字幕上映にはあまり向かない3D映画という性質もあってか、多くの劇場で吹替版が採用されている。こうした作品ではしばしば、向き不向きを考慮に入れず、声優経験のない俳優や著名人を起用して違和感をもたらす出来にしてしまうことが往々にしてあるが、本篇は主立った脇役に声優経験の豊富な俳優を迎えているうえ、ヒロインのコララインを演じた榮倉奈々、黒猫の声を当てた劇団ひとり、いずれも好演しているために、少なくとも声の面で不満を覚えることはない。もしそこで躊躇を覚えている人がいるならば、心配無用である、と申し上げておきたい。
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