『エスター』

エスター [Blu-ray]

原題:“Orphan” / 監督:ジャウム・コレット=セラ / 原案:アレックス・メイス / 脚本:デヴィッド・レスリー・ジョンソン / 製作:ジョエル・シルヴァー、スーザン・ダウニー、ジェニファー・デイヴィソン・キローラ、レオナルド・ディカプリオ / 製作総指揮:スティーヴ・リチャーズ、ドン・カーモディ、マイケル・アイルランド / 撮影監督:ジェフ・カッター / プロダクション・デザイナー:トム・マイヤー / 編集:ティム・アルヴァーソン / 衣装:アントワネット・メッサン / 音楽:ジョン・オットマン / 出演:ヴェラ・ファーミガピーター・サースガード、イザベル・ファーマン、CCH・パウンダー、ジミー・ベネット、アリアーナ・エンジニア、マーゴ・マーティンデイル、カレル・ローデン、ローズマリー・ダンスモア / アピアン・ウェイ製作 / 配給:Warner Bros.

2009年アメリカ作品 / 上映時間:2時間3分 / 日本語字幕:小寺陽子 / R-15+

2009年10月10日日本公開

2010年3月10日DVD日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.esther-movie.jp/

Blu-ray Discにて初見(2010/04/02)



[粗筋]

 ジョン・コールマン(ピーター・サースガード)は、子供を流産したことへの罪悪感から抜け出せずにいる妻ケイト(ヴェラ・ファーミガ)のために、養子を取ることを決意した。

 孤児院へ赴いたふたりは、多くの孤児たちのなかから、エスター(イザベル・ファーマン)という少女を選ぶ。エストニアで家族を失いアメリカの孤児院に引き取られたが、里親一家が焼死するという悲劇に遭遇し、ふたたび孤児院に戻ってきた、という不幸な成り行きにも拘わらず、折り目正しく聡明な物言いをする彼女に、ふたりとも惹かれるものを感じたからだった。

 かくしてエスターはコールマン家の養女となる。だが、いざ一緒に暮らしてみると、彼女の挙動には随所にズレた部分がちらついていた。ダニエル(ジミー・ベネット)らと同じ学校に編入させたはいいが、カジュアルな格好をさせようとしても頑なに拒み、普段から大事に抱えている聖書を同級生に奪われそうになっただけで絶叫する。

 ジョンは情緒不安定なだけだろう、とさほど気に留めようともしなかったが、ケイトは少しずつ強い違和感を覚えるようになっていった。あの娘はどこか、おかしい。そう感じていることを相手も察しているのか、エスターはケイトに対して心を開いていなかった。

 エスターがどこかおかしいのか、それともケイトが過敏になりすぎているのか。家庭とその周囲に奇妙な緊迫感が漲る中、やがて事件が起きる……

[感想]

 映像ソフトに特典として収録されているメイキングでも語られているが、映画の世界において“不気味な子供”というモチーフは比較的定番だ。ホラー映画の傑作『オーメン』に『光る眼』、分類としては乱暴だが、『シックス・センス』もこの系譜に含めることが出来るかも知れない。何を見ているか、どんな観点から世界を眺めているのか、まだ社会と折り合いをつけていない子供たちと大人達とのあいだにはしばし意思の疎通が困難な場合があり、それ故に生まれる緊張や得体の知れない不気味さは、フィクションの中で活かしやすいからだろう。

 本篇もパッケージや宣伝文句だけ眺めると、その系譜に属する、悪く言ってしまえばありきたりの印象をもたらす恐れがあるが、しかし実際に観れば、そんな風に単純に割り切ることの出来ないしたたかさや精緻さを感じられるはずだ。

 はっきり言えば本篇はあるひとつのアイディアを起点に、それを膨らませることで成立したスリラーである。しかもこのアイディア自体は決して突飛なものではなく、別の形での作例はいくつか思い浮かぶ。だが、それをうまい形で序盤のサスペンスとして膨らませ、計算し尽くしたタイミングで少しずつ解きほぐし、クライマックスで戦慄するような駆け引きに繋げた作品は、恐らく本篇ぐらいのものだろう。何処がどう巧いか、少しでも具体的に説明しようとすると、厭でも真相の一部を仄めかさねばならなくなるのが辛いところだ。

 アイディアを物語の中で活かすためのプロットの練り込みも秀逸なら、本篇は舞台の選択も演出も、俳優陣たちの演技も優れている。冷たい景色はそのまま薄ら寒い雰囲気に繋がっているし、随所で意味深な描写を組み込み、じわじわと薄気味の悪い印象を植え付ける手管は秀逸だ。終始不安を顕わにする妻を演じ、観客を怯えさせ恐怖を膨らませる役割を果たしたヴェラ・ファミーガもさることながら、すべての恐怖の中心に存在する難しいキャラクターを演じたイザベル・ファーマンは賞賛に値する。

 隅々まで漲る緊張感と不気味なムード、血が流れはじめてからの容赦のない展開と、クライマックスでの様々な趣向を凝らした攻防。あるアイディアの備える魅力を引き出すことに全力を注ぎ、見事に成功した、傑出したスリラーである。劇場公開時に鑑賞できなかったことが惜しまれてならない。

 ちなみに映像ソフト版には、別エンディングなるものが収録されている。結末の別解釈、というよりは、あの顛末のあとにもうひと幕ありました、という類のものだが、率直に言えばこれはカットして当然だったと思う。さすがにこれは足しすぎ、という感が否めない。

 ただ、ある人物の熱演が刻みこまれている、という意味では名シーンに違いないので、製作者としても何としてでも陽の目を見させてやりたかったのだろう。その気持ちは理解できるし、本篇を観てその魅力に打たれた者なら、観た価値はある、と感じられる。こういう、収録する意義のある特典というのはちょっと珍しいと思うので、劇場で鑑賞しただけで満足されている方も、レンタルするなりしていちど確認してみることをお薦めしたい。

関連作品:

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