原題:“放・逐 Exiled” / 監督&製作:ジョニー・トー / 脚本:セット・カムイェン、イップ・ティンシン / 製作総指揮:ジョン・チョン / 撮影監督:チェン・シウキョン / 編集:デヴィッド・リチャードソン / 衣装:スタンリー・チュン / 音楽:ガイ・ゼラファ、デイヴ・クロッツ / 出演:アンソニー・ウォン、フランシス・ン、ニック・チョン、ラム・シュー、ロイ・チョン、ジョシー・ホー、リッチー・レン、サイモン・ヤム、ラム・カートン、エレン・チャン、エディー・チョン、ホイ・シウホン、タム・ビンマン / 銀河映像(香港)有限公司製作 / 配給:Art Port
2006年香港作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:? / PG12
2008年12月6日日本公開
2009年5月27日DVD日本盤発売 [プレミアム・エディション:amazon|スタンダード・エディション:amazon]
公式サイト : http://www.exile-kizuna.com/
DVDにて初見(2010/04/27)
[粗筋]
中国返還を間近に控えたマカオのとある一軒家を、ふた組、都合4人の男たちが訪問した。
最初の2人は、タイ(フランシス・ン)とキャット(ロイ・チョン)。続く2人は、ブレイズ(アンソニー・ウォン)とファット(ラム・シュー)。いずれも訪ねたのは、ウー(ニック・チョン)という男の所在。応じた女(ジョシー・ホー)の答も同じ、「知らない」というものだった。
5人は昔馴染みである。だが、ウーはマカオを牛耳るマフィアの首領フェイ(サイモン・ヤム)を狙撃し、追われる身となっていた。それが突如、妻子を連れて居を構えた、という話が広まり、フェイは部下であるブレイズとファットに暗殺を命じたのである。一方のタイとキャットは、狙われているウーを守るべく、夫婦の住居を訪ねたのだ。
やがて、ウーは飄然と舞い戻った。彼を中心にブレイズ、タイの3人のあいだで銃撃戦が巻き起こるが、ウーと妻の乳飲み子が泣き出すと途端に一同は銃を収め、食卓を囲んで談笑するのだった。
フェイらに狙われ、生き長らえる可能性は低い、と覚悟を決めたウーは、最後に幾許かでも家族に金を残したい、と考えていた。ボスに命令された以上、ウーを殺さねばならない立場のブレイズも、長い付き合いの友人のためにひと肌脱ぐことに決め、仲介屋に頼んで裏の仕事を手配する。
彼らが引き受けたのは、マカオに台頭してきた新興勢力の新たなボス、キョン(ラム・カートン)の暗殺。ブレイズたちは至急に網を張り、キョンを狙うが、事態はそこから、思いがけない展開を見せていくのだった……
[感想]
先にアップした『スリ』の感想では、「“男泣き”というイメージに対する軽やかな反撃」と記したが、ジョニー・トー監督自身は恐らくそのイメージを厭ってはいない。寧ろ、時折裏切りつつも、きちんと期待に応えようとする意思が窺える。本稿執筆と同じ時期に日本で劇場公開された『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』などは、フランス映画界の要請に応えて作り上げた、まさにイメージそのままの作品になっているようだ。
本篇は公開時、“ジョニー・トー最高傑作”という惹句を掲げていたが、それも頷ける、強烈なオーラの迸る作品である。
プロローグからして、異様な魅力があるのだ。ひとつの部屋を立て続けに訪ねる2組の男たち。同じ人物を捜しているが、目的は違う。ひとつの部屋で彼等が交錯した途端に始まる、熾烈極まりない銃撃戦。だが、それが赤子の泣き声で止まり、一転して和やかな雰囲気に包まれる……。豊かな緩急と人を食った意外性、そしてエピソードの膨らみを感じさせる見事な幕開けだ。
以降の展開も、ある意味で観る者を裏切らない、心地良い裏切りが繰り返される。複数の勢力、思惑が絡み合って編み出されるアクションのインパクトもさることながら、素晴らしいのは事態が深刻な状況に陥ってからの一幕である。男のドラマであるのは確かだが、そこに絡む女を軽視していない――極言すれば、男たちの矜持、譲れぬ一線を描く上で女性がたまたま外せない場所にいただけなのだが、それでも重要な立ち位置にいるキャラクターを決して疎かにしない周到さ、したたかさが感じられる。
だが何と言っても、そうしたドラマ性に立脚した銃撃戦のアイディアの個性とヴィジュアルの美しさこそ本篇の傑出した点だろう。弾幕の中心で倒れた仲間を助けながらの反撃のシーンと、クライマックスでのあらゆる感情、思惑の入り乱れたわずか数分(もしかしたら十数秒)の一幕は、直前でさり気なく見せた優しさや瀬戸際のユーモアとあいまって、観たあとも長く鮮烈な印象を残す。
匙加減を心得た巧みな心理描写、過剰な外連味に説得力を与えるドラマの構築、そして映画だからこそ出来る緊迫と弛緩のメリハリのある、凄惨だが美学をたたえたアクション。世界的に見ても稀な完成度を誇る、極上のハードボイルド映画である。ジョニー・トー監督作品に“男泣き”というイメージを持って鑑賞するのなら、かなり確実に最高の満足が得られるだろう。
関連作品:
『スリ』
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