原題:“黒社會以和為貴” / 監督:ジョニー・トー / 脚本:ヤウ・ナイホイ、イップ・ティンシン / 製作:ジョニー・トー、デニス・ロー / 製作総指揮:キャサリン・チャン、ティファニー・チェン / 撮影監督:チェン・チュウキョン / プロダクション・スーパーヴァイザー:ディン・ユィンシャン / 美術監督:トニー・ユー / 編集:ロウ・ウィンチャン、ジェフ・チェン / 衣装:スタンリー・チュン / 音楽:ロバート・エリス=ガイガー / 出演:サイモン・ヤム、ルイス・クー、ウォン・ティンラム、ラム・カートン、ニック・チョン、ラム・シュー、アンディ・オン、マーク・チェン、チョン・シウファイ、タム・ビンマン、ユウ・ヨン / 銀河映像(香港)有限公司製作 / 映像ソフト発売元:FINE FILMS
2006年香港作品 / 上映時間:1時間32分 / 日本語字幕:?
2009年11月6日DVD日本盤レンタル開始
2010年5月7日DVD日本盤発売 [amazon]
DVDにて初見(2010/04/29)
[粗筋]
“和連勝会”の緊迫した会長選挙から早くも2年が経過し、そろそろ次期会長候補が名乗りを上げはじめる時期が近づいていた。
長老たちのあいだで次期会長候補として最も有望株と見込まれているのは、ジミー(ルイス・クー)である。彼は香港界隈で海賊版とAVの制作を行い資金を稼ぐと、すぐさま手を切って新たな商売に移り、事業の拡大を試みていた。その発展志向が見込まれてのことだが、当人にはボスになるつもりは毛頭ない。愛する妻と子供を設け、真っ当な仕事に就かせることを願っていたジミーは、むしろ早く堅気になることを望んでいた。
だが、そんな中、ジミーは思わぬ困難に遭遇する。中国本土での商売を委ねていたソーとの連絡が途絶えたことを不審に思い探りに向かったところ、現地の警察に捕縛されてしまった。間もなく釈放されるが、その際警察から思わぬ警告を受ける。今後、中国本土で商売をすることは許さない、というのだ。もし商売をしたいなら、会長の座に就いて出なおしてこい、と。
一方、現会長のロク(サイモン・ヤム)は、一族の掟に背く野心を抱き始めていた。再び会長職に就き、権力を貪ろうとしていたのである。有力候補であるトンクンに次期会長職を約束して退かせ、あとは長老を説き伏せるだけ、と意気込んでいたところへ、長老たちの覚えが確かなジミーが立候補した、という報を聞き、昏い闘志を燃やす。
“和連勝会”の会長選挙は、“和を以て貴しと為す”という家訓に反し、前回にも増して血腥い様相を見せ始めていた……
[感想]
この作品は、香港闇社会の組織で二年おきに行われる会長選挙の様子を描いた『エレクション〜黒社会〜』の二年後を描いたものである。単品でも決して意味不明に陥ることはないだろうが、その趣旨からすると、きちんと一作目を鑑賞した上で臨むべきだろう。
しかし、前作を単品で鑑賞した場合、そのユニークさであり美点のひとつであった、闇社会のできごとを描き暴力の苛烈さを収めながらほとんど人死にがない、という部分が、本篇でほ損なわれてしまったことが惜しまれる。前作の結末を思えば当然の成り行きではあるが、なまじそこに魅力を感じていただけに、少々安易に流れた印象を受けた。
だが、作品としての面白さ、計算の行き届いた作りにはやはり感嘆せざるを得ない。前作では巧みな立ち回りで会長に選ばれたロクが、掟では許されない二度目の当選を目指して策を巡らせる姿と、その有能さを嘱望されながら堅気で商売することを願い、しかし必要から会長選挙に名乗りを挙げることになるジミーの、苦悩と覚悟とが入り混じった表情。
両者が不退転の覚悟で会長就任の工作に携わるさまは、前作で重要な役割を演じた人々のその後とも重なり、陰惨さと悲愴感とを募らせる。誰よりも掟を尊んでいた幹部、優れた戦闘員として活躍しながらヒットマンとして陽の射さない道を歩まされた男の姿などは、なまじ誰よりも組織の掟に従順であるだけにどこか滑稽で、故に漂う哀愁は強烈だ。
しかしこの作品を、異様なインパクトのあるものにしているのは、何と言ってもジミーという男の振る舞いだ。前作において、その陰惨なやり取りを目の当たりにし、二年を経て堅気の仕事を続けていくことを望むようになった彼の言動は、明らかに善人のそれだ。しかし、組織に属する人々からの期待に加え、組織の力に恃むところの大きかった仕事を続けて事業を拡大するためには、組織の中でも地位を確保せねばならない、というジレンマを背負う。そこからジミーが見せる行動に、衝撃を覚えない者は少ないだろう。確かに、期待されるに足る器の持ち主であることを感じる一方、この男にここまでさせてしまう、闇社会のしがらみの強固さに慄然とする。
その上で描かれるクライマックスの衝撃は、静かながらも更に重い。平穏を取り戻したかのようなやり取りの背後に見え隠れする影が齎す余韻は苦く、いつまでも胸に残る。
ある男の末路や、幾つかの事件の経緯に、少々大袈裟なものを感じるが、作品としての面白さ、映画としての見応えを損ねる程ではない。日本では劇場未公開に終わったのが信じられない程の、重量と深みのある暗黒物語である。繰り返すが、単品でも十分味わえるものの、その奥行きを堪能したいのなら、是非とも『エレクション〜黒社会〜』と併せて御覧いただきたい。
関連作品:
『エグザイル/絆』
『スリ』
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