原題:“全職殺手” / 原作:エドモンド・パン / 監督:ジョニー・トー&ワイ・カーファイ / 脚本:ワイ・カーファイ、ジョーイ・オブライアン / 製作:ジョニー・トー、ワイ・カーファイ、アンディ・ラウ / 撮影監督:チェン・チュウキョン(HKSC) / 美術:シルヴァー・チュン、ジェローム・ファン / 編集:デヴィッド・リチャードソン / VFX:スティーヴン・マー / 音楽:ガイ・ゼラファ / 出演:アンディ・ラウ、反町隆史、ケリー・リン、サイモン・ヤム、チェリー・イン、ラム・シュー、テディ・リー / 銀河映像(香港)有限公司製作 / 配給:彩プロ
2001年香港作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:風間綾平
2004年2月21日日本公開
2005年7月6日DVD日本最新盤発売 [amazon]
DVDにて初見(2010/05/19)
[粗筋]
アジア圏を中心に暗躍する殺し屋“O”(反町隆史)。手口は派手だが着実な仕事ぶりで目下この世界のナンバーワンと呼ばれている。
だが、そんな彼に対抗心を燃やす、新たな殺し屋が現れた。東西を問わずアクション映画を愛好し、“O”よりも外連味に富んだ手口を使う血気盛んな男、トク(アンディ・ラウ)である。“O”を超えて業界のトップに君臨することを願う彼は、まず相手の弱みに付け入ることにした。
トクが接触したのは、“O”が組織や追っ手からの目くらましとして用いているアパートの部屋を週3回、掃除しているチン(ケリー・リン)という女性だった。彼女は“オノ”と名乗っている自分の雇い主にかねてから不審を抱いていたこともあり、トクの誘いに乗ってしまうが、このことがチンを、思いがけず裏の世界の争いへと引きずり込んでいく。
同じ頃、各国で連続する大胆不敵な暗殺事件の調査に動いていたインターポールが、急速に“O”の正体に肉迫しつつあった。タイで行われた暗殺の現場で、たまたま遊びに来ていた日本人が殺されており、そのことから担当刑事のアルバート・リー(サイモン・ヤム)は“O”が日本人であり、たまたま昔の知り合いに遭遇してしまったため殺した、と推理する。
リーの推測は的を射ていた。彼ら捜査陣は“O”に肉迫していったが、その背後で殺し屋同士の暗闘が繰り広げられていることなど、知るよしもなく……
[感想]
他の国のスタッフ、キャストが映画の中で描く日本像は、違和感や不自然さを覚えて、日本人としては純粋に楽しめない、というケースが珍しくない。最近は日本びいき、文化にも理解を示したうえで組み込んでくれることも増えたが、それでもいざ観るまではヒヤヒヤする、なんて人も多いはずだ。
しかしまさか、キャストに日本人を含んでいるだけ、主な舞台は香港やタイ、マカオなどだというのに、違和感を覚える、という作品に遭遇するとは思わなかった。
同情すべきは、日本語に親しんでいるのがキャストでは反町隆史と、前々から勉強していたらしいケリー・リンだけ、あとはスタッフにも最小限しかいなかったと見えることである。さすがにこれでは、実際に日本語圏で暮らす人々に聞き取りやすいか、というところまではチェックが行き届かないだろう。だからこそ、一部でナレーションを担当する反町隆史には、もっと慎重で丁寧な仕事をして欲しかった。彼のナレーションよりも、教科書的なケリー・リンの台詞のほうがよほど意味が掴みやすい、というのはちょっと酷い。恐らくほとんど日本語の素養がなかったはずのアンディ・ラウは、むしろ健闘しているほうだろう。
このように、日本人としては引っかかる描写があるために、いまひとつ冷静に受け止められない仕上がりだが、それでもアクション映画としては決して不出来ではない。
ジョニー・トー監督が得意とする裏社会の表現、派手で外連味の豊富なアクションに、意表をついたストーリー展開も加味されており、日本語絡みの違和感に拘泥しなければ、非常に引き込まれる作りだ。アジアの各地に舞台を広げ、意識的に規模の大きい作品に仕立てようと試みたことで、全般に大袈裟、やり過ぎ感が強く、これでは暗殺者は務まらないのでは、と思うくらい不自然な箇所も多いものの、そのサービス精神と、闇雲と言っていいくらいのパワーは賞賛に値する。終盤近く、暗殺者Oのアジトでの縦横無尽の戦闘や、クライマックスでの決闘などは、そのくだりだけを観ていても楽しめるだろう。
中心人物であるOを演じた反町に、いまひとつオーラがなく、カリスマ的暗殺者というイメージがどうしても感じられないのは難点だが、アンデイ・ラウ演じるライヴァルのほうは、反町の不足を補ってあまりあるほどのインパクトだ。いささか過剰気味の言動にあわせ、リアリティよりもハッタリを重視したような振り切れた演技は、見事に作品世界を支配している。あとは日本語がもうちょっと流暢であれば、と惜しまれるが、恐らくその点に拘泥するのは日本人だけだろうし、実際問題として、この作品が描こうとするものにとって、日本語や日本文化はちょっとしたスパイスに過ぎない。
かなり強引さが目立っているため、『エグザイル/絆』や『PTU』といった傑作と並べると見劣りするが、これもまたジョニー・トーの職人芸が光る、レベルの高いエンタテインメントである。日本絡みの描写の微妙さに引きずられることなく、そのこだわりと迫力とに浸っていただきたい。
関連作品:
『PTU』
『エグザイル/絆』
『スリ』
『墨攻』
『RAIN』
『エル・マリアッチ』
『デスペラード』
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