『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』

『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』

原題:“The Hangover” / 監督&製作:トッド・フィリップス / 脚本:ジョン・ルーカス、スコット・ムーア / 製作:ダン・ゴールドバーグ / 製作総指揮:トーマス・タル、ジョン・ジャシュニ、ウィリアム・フェイ、スコット・バドニック、クリス・ベンダー、J.C.スピンク / 撮影監督:ローレンス・シャー / 美術:ビル・ブルゼスキー / 編集:デブラ・ニール=フィッシャー,A.C.E. / 衣装:ルイス・ミンゲンバック / キャスティング:ジュエル・ベストロップ、セス・ヤンクルウィッツ / 音楽:クリストフ・ベック / 出演:ブラッドリー・クーパーエド・ヘルムズ、ザック・ガリフィアナキスヘザー・グラハムジャスティン・バーサ、ジェフリー・タンバー、サーシャ・バレス、レイチェル・ハリス、ケン・ジョン、マイク・エプス、マイク・タイソン / グリーン・ハット・フィルムズ製作 / 配給:Warner Bros.

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:アンゼたかし / R-15+

2010年7月2日日本公開

公式サイト : http://www.hangover-movie.jp/

シネ・リーブル池袋にて初見(2010/07/14)



[粗筋]

 アメリカの花婿たちにとって最大のイベントは結婚式、ではない。その直前、親しい友人たちとともに繰り広げるバチェラー・パーティーだ。独身最後の時を惜しみ、精一杯羽目を外すのである。

 ダグ(ジャスティン・バーサ)もまた例外ではない。結婚式直前に昔からの親友であるフィル(ブラッドリー・クーパー)とステュ(エド・ヘルムズ)、それに婚約者の弟であるアラン(ザック・ガリフィアナキス)の4人でラスヴェガスに繰り出す計画を立てた。花嫁は気が気ではなかったが、花嫁の父は「ヴェガスの恥はヴェガスに」と、愛車までていきょして快く送り出してくれた。

 シーザーパレス・ホテルの上等な部屋を借りた一同は、立ち入り禁止の屋上に出ると、バカ騒ぎの皮切りに強めの酒で乾杯した。

 ――そこで、一同の記憶は途絶えた。

 最初に目覚めたのはステュだった。ホテルの部屋の床に横たわっていた彼の前歯は、何故か一本抜けている。ついで目覚めたのは、全裸で寝ていたアランだった。尿意を催しバスルームに赴くと、そこには何故か虎の姿がある。

 その次に目覚めたフィルの手首には、病院で患者を識別するためのバーコード入りバンドが巻かれていた。更には押し入れの中に、謎の赤ん坊の姿まである。

 いったい俺たちは何をしでかしたんだ? 居室の惨憺たる有様に呆然とし、後始末はどうするのか、と頭を抱えた三人だったが、事ここに至って、もっと深刻な問題に気づく。

 ……新郎は、どこにいる?

[感想]

 ゴールデングローブ賞コメディ・ミュージカル部門作品賞を獲得した本篇は、だが「アメリカのコメディ映画は日本では当たらない」という定評のために、一度はDVDに直行する手前まで追い込まれた。しかし、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』などと同様に、ネットで劇場公開を求める声が彭湃と拡がり、だいぶ遅れはしたものの、無事に全国のスクリーンでの上映が実現した。私も署名した(……はず)だけに、これを劇場で鑑賞しない手はない。

 実際に観ると、配給会社は何故、一度でもこれの公開を取りやめたのか、理解に苦しむほど良質のコメディ映画であった。

 確かに海外のコメディ映画は、日本ではヒットしにくい傾向にある。大きな原因のひとつに、コメディ映画はその製作国の言語や文化に関する基礎知識を要することが多い、というのが挙げられる。日本で言えば、例えば“髪”と“紙”のような、字面では別物だが音は一緒の言葉を用いて、認識の食い違いを起こさせるようなネタを使うが、これは日本語についての知識に乏しい人には説明しづらいだろう。

 だが逆に、こうした言葉遊びや文化の特異性に依存していない“笑い”は、洋の東西を問わず受け入れられやすい。サイレント時代のチャップリンが未だに高い評価を受けているのが典型であり、本邦でもが〜まるちょばのような動きの巧みさで世界的な人気を博している芸人もいる。

 本篇の場合は、こうした動きや表情のユーモアに加え、状況と伏線の蓄積で滑稽さを演出している。いちばん解りやすいのは、警察署でのくだりだろう。三人まとめて手錠にかけられているが故の珍妙な行動に、逮捕を逃れるための駆け引き。そしてこのパート最後のある展開は、警察署での最初の出来事があるからこそ笑いに繋がっている。

 この作品の齎す笑いは、ところどころ突飛なシチュエーションも絡めているが、ほとんどは緻密な伏線と丹念な積み重ねによって成り立っているのだ。観ているあいだは無心に笑っていられるが、あとで何故面白かったのか、冷静に検証していくと、膝を打つことも少なくない。

 あまりに緻密な作りになっているため、観ようによっては非常に上質のミステリとも解釈できるほどだ。事実、最大の“謎”である新郎失踪など、作中の描写から理詰めで解き明かすことが可能なのである。いちおうミステリ愛好家である私は、その謎が解き明かされたとき、感嘆するとともに、どうして気づかなかったのか、と悔しく思ったほどだ。

 そして何より、俳優たちがそれそれに個性的だが決して非現実的ではない人物像に、極めて正統派の演技でリアリティを付与していることが特に大きい。もしメインの誰か一人でも、目立とうとして過剰な振る舞いをしていたのなら、突飛なシチュエーションと巧みな伏線の面白ささえ減じていただろう。少々エキセントリックな新婦の弟アランでさえ匙加減が絶妙で、ほかのふたり、特に随所で暴発するステュといいバランスを保ちあっているのだ。

 あれだけの大騒動を起こしたわりにはちょっと当人たちも周りも大らかに事態を捉えすぎているきらいはある、が、それさえ実はちゃんと予防線が引かれている。あまりの巧妙さに、終いには脱帽してしまうだろう。終わってみてはその爽快さと同時に、人生を丹念に描き切ったドラマに感じるような苦みばしった後味さえ覚える。肝心の酩酊中の醜態を最後まで伏せて、しかしいい形で披露する気の利いた締めくくりまで含め、まったく完璧すぎるコメディ映画である。重ねて言うが、なぜ一度でもこれの公開をやめようと思ったのか、本当に不思議でしょうがない。

 ちなみに本篇は本国での大ヒットを受けて、既に続篇の製作が始まっているそうだ。監督も主要キャストも同じなので、どうしようもなくピントのずれた代物にはならないと思うが――是非とも本篇の良さを損なわない続篇にしていただきたいものである。

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