『ナイト&デイ』

『ナイト&デイ』

原題:“Knight and Day” / 監督:ジェームズ・マンゴールド / 脚本:パトリック・オニール / 製作:トッド・ガーナー、キャシー・コンラッド、スティーヴ・ピンク、ジョー・ロス / 製作総指揮:アーノン・ミルチャン、E・ベネット・ウォルシュ / 撮影監督:フェドン・パパマイケル / プロダクション・デザイナー:アンドリュー・メンジース / 編集:クインシー・Z・ガンダーソン、マイケル・マッカスカー / 衣装:アリアンヌ・フィリップス / キャスティング:リサ・ビーチ、ドナ・ディセタ、サラ・カッツマン / 音楽:ジョン・パウエル / 出演:トム・クルーズキャメロン・ディアスピーター・サースガードオリヴィエ・マルティネスポール・ダノ、ジョルディ・モリャ、ヴィオラ・デイヴィス / 配給:20世紀フォックス

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:松浦美奈

2010年10月9日日本公開

公式サイト : http://www.knightandday.jp/

20世紀フォックス映画試写室にて初見(2010/07/24) ※試写会



[粗筋]

 ジューン(キャメロン・ディアス)は妹の結婚祝いとして、亡父が残したGTOをリストアして贈ることを思いついた。必要な部品を集め、ボストンに戻るべく乗り込んだ飛行機で、彼女は運命的な出逢いを果たす。

 その男性――ロイ・ミラー(トム・クルーズ)は、不思議な雰囲気を持っていた。気障なことを口にしても嫌味がなく、非常に紳士的。本気でロイにアプローチする意を固めたジューンは、トイレで身繕いを整えた。ふたたび客席に戻ると、ロイは穏やかな笑みを浮かべ、こう言った。

「いま、この飛行機はパイロットを失って迷走している。パイロットを撃ったのは、僕だ」

 笑っている暇もなかった。その後ロイは操縦席に座り、広大な畑に飛行機を不時着させる。飛行機を降り、現場を離れているさなか、ロイはジューンに薬を盛っていしきを奪った。朦朧とする彼女に向かって懸命に、「組織を名乗る男たちが訪ねてきても、自分については知らないと言い張れ」「彼らのクルマに決して乗るな」「安心・安全・保証」このフレーズを繰り返したら警戒しろ。君は殺されるか、永遠に自由を奪われる」と諭した。

 ――ふたたび目覚めたとき、ジューンは馴染み深い自分の部屋にいた。夢か、と安堵したのは本のつかの間、部屋のあちこちに、ロイの署名入りのメモが残されていた。テレビでは昨晩の不時着“事故”が物々しく報じられている一方で、朝食まで用意されている事実に、ジューンは困惑しながらドレスショップへと向かう。

 そんな彼女を、一台の車がゆっくりと追いかけていた……

[感想]

 いわゆるアクション・コメディ映画と言っていい、と思うのだが、そういう感覚で観ていると次第に困惑し、ラストでは肩透かしを食った気分になるはずだ。実際私も、試写会で鑑賞した直後はしばし判断に苦しんだ。

 だが、よくよく要素を解体し、再構築してみると納得する。これはあくまで本質的にはロマンティック・コメディなのである。

 主人公は、ドラマティックな出来事とは無縁、自分は独身で、結婚する妹のためにとびきりの贈り物を考えていた女性。それが謎めいた、洒落た態度で彼女に接する男と出逢ったことで、考える暇もなく立て続けのトラブルに遭遇する。冒険の中で男の素性を訝り、何度も助けられ、或いは裏切り、を繰り返していくうちに、次第に惹かれていく。なかなか真意を見せない男の行動に振り回され、誤解をしては独り相撲をしてしまい……

 ヒロインの視点から物語を大雑把に語ると、もはや古典的なラヴ・ロマンスだ。ただ相手が、さながら『ミッション・インポッシブル』シリーズのイーサン・ハントのような、サヴァイヴァルの能力に長け、行く先々でトラブルに遭遇する男であり、感情を揺さぶる出来事が必然的にアクション・シーンに変換されてしまう、というだけである。強い印象を与えるように組み込まれた出来事が、いちいち唐突で滑稽に映るから、過剰にコミカルに感じられ、それがアクション映画を期待した場合に味わいかねない、“肩透かし”というイメージに繋がっているようだ。

 だが翻って、基本がラヴ・コメディだと解って鑑賞すれば、その心の揺れの丁寧な描写、ツボを弁えつつ伏線を鏤めていく手管に、素直に感動出来るはずだ。解体してしまえば、ラヴコメとしても非常にベタなイヴェントに依存しているのにも気づくが、アクション主体のスパイ映画、というエッセンスを用いることで、有り体な“事件”に彩りを添えている。

 ロイ・ミラーという人物像も見事だ。映画ばりに臭い台詞を吐いても不自然ではない、時として優しく、時に冷徹な態度を取っているように見えても、あとから振り返れば深慮が窺える。そして、幾つかの行動に鏤められた過去の謎。こちらも抽出していけば典型的すぎるのだが、アクション映画の様式を借りているからこそ、それを意識させないくらい完璧な“白馬の王子様”像を現実のものにしている。クライマックス、成り行きで披露するキスシーンは、アクション映画として捉えるとわざとらしすぎるが、ロマンスとしてはロイ・ミラーという人物像に一致しており、こんな出逢いをした2人には相応しい。

 伏線を設けてあるとはいえ、あまりに呆気ない“事件”の終息のあとに添えられた話は、やはりアクション映画として鑑賞すると蛇足が過ぎるように見えるが、ラヴ・コメディと考えれば他に決着はない。途中の描写をきっちりと、敢えて無理矢理填め込んでいるからこそ、ドラマティックな演出が成立する。特にこのくだり、他人に強制されるのではなく、ヒロインであるジューンが自ら行動に出ている、というところに大きな意味がある。

 惜しむらくは、物語の流れの必要からとはいえ、頻繁にヒロインの意識が途絶え、気づいたときには大きく舞台も状況も変化している、ということが相次ぐので、普通の映画よりも話の流れが把握しづらくなっていることだ。だが、その辺をユーモアとわきまえて、あまり油断しすぎることなく鑑賞していればさほど問題ではない。

 アクション映画であることは間違いない、だがアクションというものをどういう形で利用しているか見誤ると、たぶん困惑や失望が先行する。アクション映画にそもそも色恋など無用、と考えているような人は避けておいたほうが無難だが、付け合わせでないロマンスを期待するのならば、きっと満足出来るはずだ。

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コメント

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