『明日の空の向こうに』

アキバシアター、。

原題:“Jutro Bedzie Lepiej” / 監督&脚本:ドロタ・ケンジェジャフスカ / 製作:キッド・フィルム、アルトゥル・ラインハルト / 共同出資:ポーランド映画芸術協会、アグニェシュカ・オドロヴィチ / 共同製作:丹羽高史、ズビグニェフ・クラ、チャレク・リソフスキ / 撮影&美術:アルトゥル・ラインハルト / 編集:ドロタ・ケンジェジャフスカ、アルトゥル・ラインハルト / 衣装:カタジナ・モラフスカ / メイク:レナタ・ナイベルク / 音楽:ミハル・パイディヤク、ホンザ・マルティネク / 主題歌:アルカディ・セヴェルヌィ『鶴は翔んでゆく』 / 出演:オレグ・ルィバ、エウゲヌィ・ルィバ、アフメド・サルダロフ、スタニスワフ・ソイカ、ズィグムント・ゴロドヴィエンコ、アレクサンドラ・ビッレヴィチ、キンガ・ヴァレンキェヴィチ、スタニスワフ・ザヴァツキ、アントニ・ワンチュコフスキ、アンゲリカ・コジェ / 配給:パイオニア映画シネマデスク

2010年ポーランド、日本合作 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:?

2013年1月26日日本公開

公式サイト : http://www.pioniwa.com/ashitanosora/

アキバシアターにて初見(2013/01/15) ※プロデューサー・丹羽高史のトーク付試写会



[粗筋]

 ロシアの駅舎で、駅員の目を盗むようにしてペチャ(オレグ・ルィバ)は暮らしている。身寄りは兄ヴァーシャ(エウゲヌィ・ルィバ)だけ。しかし、それでもペチャには不満のない毎日だった。

 しかしヴァーシャは、決して現状に満足していなかったらしい。ある日、駅舎で暮らす同年配の少年リャパ(アフメド・サルダロフ)とともに何やら密談を始めたかと思うと、2人して操車場に向かい、貨物列車に飛び込んだ。慌てて追っていったペチャも乗せて、列車は走り出す。

 ヴァーシャとリャパが目指したのは、国境だった。きっと、ここよりもマシな暮らしが待っているはずのポーランドへ……

[感想]

 だいぶ短めの粗筋となってしまったが、実際、このくらいしか物語というものはない。かいつまめば、ラストまで1行で済んでしまうほどにシンプルだ。

 しかも序盤は、子供たちの言動にどんな意図があるのか、彼らにどんな目的意識があるのか、というのがまったく見えてこないので、思索的なものや、明白な主張を求めて鑑賞していると、たぶん退屈してしまう。

 だがその代わりに、子供たちの表情とそれを追う映像がひたすらに印象的だ。本篇で描かれる子供たちの表情、台詞にはほとんど不自然さを感じない。完全に気持ちを伝える整った言葉ではなく、感情の赴くままを声にしたかのような台詞。果たしてあれで意味が通じるのか、と観ているほうは不思議に思うほどだが、子供たちは当たり前のように意思疎通をしており、そのさまは大人の眼には、異世界に迷い込んだかのように感じられる――というのはいささか大袈裟かも知れないが、そんな雰囲気もある。

 実はカメラマンを主体として映画産業の振興に力を入れている、というポーランドでも指折りの名カメラマンであるアルトゥル・ラインハルトによる、子供の眼の高さを保ち、景勝地などほとんど出て来ないのに繊細で美しい映像も鮮烈だ。線路をひとりで歩いていくペチャを、あとからヴァーシャとリャパが追っていくショットや、終盤、警察署のなかでの振る舞いを追う一連のカットなど、凝っているのに安定感があり、筋などなくとも映像だけで魅せられるほどに感じる。

 そうして、明るさ、美しさの際立つ子供たちの姿が、対照的に大人達の抱える屈託、暗さをより強く浮かび上がらせていることに注目していただきたい。本篇、序盤にはほとんど大人は出て来ず、関わるとしてもほんの僅かなのだが、その“ほんの僅か”が不思議なほど記憶に残る。リャパの旧知の人物で、ペチャに「勉強を教えてやるからここに残れ」と誘う老人や、子供たちに止められて一緒にはしゃぐ新郎たちをよそに車のなかにいる花嫁、子供たちに頼られ何度も上司に連絡をつけ手を打とうとする警察官。子供たちが込み入った話をしないので、彼らの真意をその言葉からは汲み取ることが出来ないが、その代わりに表情がやたらと多弁に映る。それは、表情、態度だけで自分の想いを理解してくれないだろう、という大人側の驕りから来る気の緩みも手伝っているのだろうが、間違いなく子供たちの存在、表情が彼らの本音をより明瞭にしている。なまじ、彼らがみな子供たちに優しく、気遣って接しているからこそ、そこに痛々しささえちらついてしまうのだろう。

 流れは終始明るいが、しかし結末は決して明るくはない。むしろ、それまでほとんど屈託がなかったからこそ、挫折の苦しみは深い。しかし、それでも不思議と救いがあるように感じられるのは、なにも考えず物事を楽天的に捉えていた子供たちが、道理を悟ったうえで前向きな表情をしようとしているからだ。とても単純で短絡的な話だが、それでも子供たちは成長を遂げている。

 物語の深み、というものを期待して映画を観る人にはほとんど報いはない。しかし、表現が齎す奥行きを求めるひとには見応えがあるはずだ。シンプルだが安易ではなく、そして苦いけれど暖かく優しい。

関連作品:

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