『トイ・ストーリー3(3D・吹替版)』

『トイ・ストーリー3(3D・吹替版)』

原題:“Toy Story 3” / 監督:リー・アンクリッチ / 原案:ジョン・ラセターアンドリュー・スタントン、リー・アンクリッチ / 脚本:マイケル・アーント / 製作:ダーラ・K・アンダーソン / 製作総指揮:ジョン・ラセター / 共同製作:ニコル・パラディス・グリンドル / ストーリースーパーヴァイザー:ジェイソン・カッツ / プロダクション・デザイナー:ボブ・ポーリー / スーパーヴァイジング・テクニカル・ディレクター:グイド・クアローニ / 美術監督:ダイスケ・“ダイス”・ツツミ / 音楽:ランディ・ニューマン / 声の出演:トム・ハンクスティム・アレンジョーン・キューザックネッド・ビーティドン・リックルズマイケル・キートン、ウォーレス・ショーン、ジョン・ラッツェンバーガー、エステル・ハリス、ジョン・モリス、ジョディ・ベンソン、ブレイク・クラーク、テディ・ニュートンティモシー・ダルトン、クリステン・シャール、ジェフ・ガーリン、ボニー・ハント、ジョン・サイガン、ジェフ・ピジョンウーピー・ゴールドバーグ、ジャック・エンジェル、R・リー・アーメイ、ジャン・ラプソン、リチャード・カインド、エリック・フォン・デットン、チャーリー・ブライト、アンバー・クローナー、ブリアンナ・メイワンド / 日本語吹替版声の出演:唐沢寿明所ジョージ日下由美辻萬長松金よね子大塚周夫永井一郎三ツ矢雄二勝部演之小野賢章東地宏樹高橋理恵子諸星すみれ / 配給:WALT DISNEY STUDIOS MOTION PICTURES. JAPAN

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:いずみつかさ

2010年7月10日日本公開

公式サイト : http://toy3.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2010/08/30)



[粗筋]

 アンディ(ジョン・モリス小野賢章)のもとで幸せに暮らしていたオモチャたちに、遂に運命の時が訪れた。アンディが、大学に進むのだ。

 大きくなってからは、昔のように遊んでくれることもなく、ずっとオモチャ箱の中に押し込められていたが、それでもアンディは彼らを手放すことはしなかった。だが、進学と共にひとり暮らしを始めることになったアンディは、部屋を空けるために荷物の整理を迫られ、オモチャも新居に持っていくか、屋根裏部屋に収めるか、寄付するか……捨てるか、のいずれを選ぶ羽目になった。

 ウッディ(トム・ハンクス唐沢寿明)やバズ・ライトイヤー(ティム・アレン所ジョージ)らオモチャたちはその様子を戦々恐々として眺めていたが、アンディは悩んだ挙句、ウッディだけを大学に持っていく箱に入れ、他のオモチャたちを黒いポリ袋に詰めた。焦り箱から飛び出したウッディが物陰から窺うと、アンディは袋を屋根裏に運ぼうとしている。ほっ、と安堵したウッディだったが、しかしハシゴを上がろうとしたところでアンディは袋を置いて離れ、それを見つけたアンディの母親は、捨てる分と誤解して外に運び出してしまった。

 どうにかゴミ収集車に乗せられる手前で脱出したバズたちだったが、愛するアンディに捨てられた、と思いこんだバズたちの絶望は深かった。アンディは捨てる気ではなかった、屋根裏に運ぼうとして間違いが起きたんだ、とウッディが説いても納得せず、まだそちらの方がましだ、と“寄付”と記されたダンボール箱の中に自ら入っていった。

 なおも説得を試みようとしたウッディも巻き込まれる形で、オモチャたちは寄付先のサニーサイド保育園へと運ばれてしまう。――だがそこに待ち受けていたのは、ほったらかしにされているほうがまだましだ、と嘆きたくなるほどの地獄だった……

[感想]

 続篇ものを賞賛する表現に、「前作を観ていなくても理解できる、楽しめる」というものがある。他の様々な宣伝文句と同様、概ね眉に唾をつけて聞いた方が無難な類だが、本篇についてはその表現が相応しい出来である、と自信を持って保証できる。何せ、私自身が旧作に触れないまま鑑賞しているのだから。

 ただ、観ていて楽しかったし、クオリティの高さは全面的に肯定はするものの、個人的にハマる要素はあまり感じ取れなかったことだけは付言する必要があるように思う。伏線の張り巡らせ方も丁寧、現実に則した見せ場の数々にも唸らされるが、万事そつなくまとまっているだけで、それ以上の魅力を感じられない。そつがない故の弊害もあるだろうが、この辺りには旧作をリアルタイムで鑑賞していないばかりか、そもそもまったく観ていないが故に、キャラクターや世界観に愛着がないせいかも知れない。キャラクターの特性が物語の展開に結びつくさまに、興奮よりは腑に落ちた感覚だけを抱き、それ以上の感動に繋がらないのだ。大人が本気でのめり込むには、やはり前作・前々作を観ている必要があるのかも知れない。

 だが、作品としての完成度の高さは疑いを容れる隙もない。それこそ先行2作で築きあげた世界観が堅牢だから、というのもあるだろうが、語り口の無駄のなさは見事だ。冒頭で、アンディが幼かった頃の幸せな光景をイタズラ心たっぷりに描き出し、それとは雲泥の差の現状を、ユーモアを交え決して暗くせず、しかし哀愁を湛えて表現する。様々な行き違いから思わぬ運命を辿り、本筋であるオモチャたちの大冒険までまっしぐらに突き進む。飽きるゆとりなどなく、終始心を掴まれたまま最後まで引っ張り回される格好である。

 話運びとしてはごくごくシンプルながら、ディテールを丁寧に描き、緊張と興奮とを巧みに演出している。オモチャが動く、というファンタジーを土台にしながら、彼らの行動原理はすべて現実に則していて、私たちにとって身近な空間が冒険の舞台となり、何処にでもあるようなものを罠や武器、そして思いがけない逆転のきっかけとして用いられるさまは、子供なら無論、大人も観ていて楽しくなる。個人的には、ポテトを模したオモチャを巡る一連のアイディアには目を惹かれた。

 そして、ストレートながら伏線の張り方と展開の組み合わせが絶妙で、すれっからしの観客であればところどころ見透かすことは出来るだろうが、随所で意表をつく技に長けていることも出色である。とりわけ、本篇の選択したラストは、解る人には解るものの、驚く人も相当に多いはずだ。

 この結末を、当初の主張と違っている、と安易に退けてしまう人は、あまりに物語を軽んじている。随所でこの結末を仄めかせる言動が鏤めてあるし、ここを想定していなければ、途中の描写も意味がない。そして、読み解けた者であっても、あの終盤のくだりには目頭が熱くなるのを禁じ得ないはずだ。隅々まで配慮が行き届いている。

 大人の目線からすると、万事あまりに綺麗に収まってしまったことに少々不満を覚えるのも事実だ。これで「形あるものすべて滅びる」というところまで表現することが出来れば、大人としても満足し、子供たちの心により強烈な印象を刻みつけ情操教育の一助になったのでは――と思うが、しかし本篇の中で描かれているだけでも充分に、子供たちに大切なことを伝えているのも疑いない。

 私自身はあまりハマらなかった、とは言うものの、しかし他人様に薦めるにあたって躊躇いを感じない作品であることも確かだ。吹替版でバズ・ライトイヤーの声をあてた所ジョージは広告の中で「これは名画として残ると思う」と自信ありげに語っているが、同感だ。

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コメント

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