原題:“Legend of the Guardians : The Owls of Ga’hoole” / 原作&製作総指揮:キャスリン・ラスキー / 監督:ザック・スナイダー / 脚本:ジョン・オーロフ、エミール・スターン / 製作:ザレー・ナルバンディアン / 製作総指揮:ドナルド・デ・ライン、デボラ・スナイダー、ライオネル・ウィグラム、クリストファー・テファリア、ブルース・バーマン / CG監修:エイダン・サースフィールド / 共同CG監修:ベン・ガンズバーガー / キャラクター監修:ダミアン・グレイ / 環境部監修 グレッグ・ジョウル/ 美術:サイモン・ホワイトリー、グラント・フレッケルトン / プレヴィズ&レンジリング監修:デイヴィッド・スコット / アニメーション監修:アレックス・ウェイト / 編集:デイヴィッド・バロウズ / 音楽:デイヴィッド・ハーシュフェルダー / 声の出演:ジム・スタージェス、エミリー・バークレイ、アビー・コーニッシュ、アドリエンヌ・テファリア、ジョエル・エドガートン、デボラ=リー・ファーネス、ライアン・クワンテン、アンソニー・ラパリア、ミリアム・マーゴリース、ヘレン・ミレン、サム・ニール、リチャード・ロクスバーグ、ジェフリー・ラッシュ、ヒューゴ・ウィーヴィング、デイヴィッド・ウェンハム / 日本語吹替版声の出演:市原隼人、川島海荷、佐古真弓、諸星すみれ、石塚運昇、小林優子、浪川大輔、茶風林、峰あつ子、榊原良子、金尾哲夫、大川透、永井一郎、斎藤志郎、宮田幸季 / ヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズ&アニマル・ロジック製作 / 配給:Warner Bros.
2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:今泉恒子 / 吹替版翻訳:徐賀世子 / 吹替版演出:羽田野千賀子
2010年10月1日日本公開
公式サイト : http://www.gahoole.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2010/10/02)
[粗筋]
これは、この世から人間が姿を消し、フクロウたちが知恵を備えた、遥か未来の物語。
ノクタス(ヒューゴ・ウィーヴィング/大川透)とマレラというメンフクロウ夫婦の子供であるソーレン(ジム・スタージェス/市原隼人)は、父が聞かせてくれるフクロウたちの勇者“ガフール”の物語に魅せられていた。日々、妹のエグランタイン(アドリエンヌ・テファリア/諸星すみれ)に対して同じ物語を繰り返すソーレンに、兄のクラッド(ライアン・クワンテン/浪川大輔)は冷たい眼差しを向ける。現実主義者を気取ってはいるが、実のところクラッドは、自分よりも早く空を飛ぶことへの才能を示しているソーレンに嫉妬を抱いていた。
ある日、親が狩りに出かけているあいだに、ソーレンはクラッドを挑発する格好で、枝渡りの練習に誘い出した。だが、一瞬の油断が災いして、2羽揃って地面に転落してしまう。地上の生き物の脅威におののいていたそのとき、上空から現れた2羽のフクロウが、ソーレンたちを捕まえて飛び立った――巣とはまるで違う方向へと。気づけば周りには、ソーレンたち同様にまだ飛ぶ技術のない子フクロウを足に掴んだ大人達が無数に舞っていた。
ソーレンたちが連れ去られたのは、“純血団”を名乗る集団の拠点であった。“純血団”は、メンフクロウこそフクロウの中で最も高貴な血筋と主張し、かつてフクロウの世界に危機を齎した組織である。彼らは各地から多くの、まだ飛び立つ力のない子フクロウを大量に攫い、メンフクロウたちを中心とした才能のある者は戦士に育て上げ、他の種は“拾い屋”としてペリット=フクロウが食後に吐き出す未消化の物質から金属片を回収する仕事に就かせるため、“月光麻痺”という状態に陥らせて労働力に用いていた。
伝説の中と同様に卑劣な行いを働く“純血団”に、ソーレンはメンフクロウとして見込まれながらも強く反発したために、“拾い屋”として地下に送りこまれる。だが兄のクラッドは、保身とソーレンへの嫉妬心から、戦士候補の一団へと加わってしまった。
兄の行動を不審に思いながらも、ソーレンはまだ諦めていなかった。月光麻痺にかかった振りをして“純血団”の目を欺き、密かに空を飛ぶための練習を、連れ去られる途中で知り合ったサボテンフクロウの少女ジルフィー(エミリー・バークレイ/川島海荷)とともに繰り返す――いずれここを逃げ出して、“純血団”同様に伝説の存在であった、“ガフール”の勇者たちにこの危機を知らせるために……
[感想]
『ドーン・オブ・ザ・デッド』で長篇映画の世界に進出して以来、R指定のつくハードなヴィジュアル、内容の作品ばかりを手懸けてきたザック・スナイダー監督が、4作目にして初めて携わったフルCGのアニメにして、全年齢対象の作品である。
だが、決して意外な成り行きでも、彼らしからぬ作品でもない。高い評価を得た『300<スリー・ハンドレッド>』はいちおう実写ではあるが基本ブルー・スクリーンで撮影し、ほとんどCG映画と言ってもいいくらい加工が施されているし、本篇のアクション・シーンは血飛沫こそ舞わないものの、マスクや鉤爪といったモチーフや描写のスタイルは『300』を彷彿とさせる。悪役の立ち位置や存在感も、クセルクセス王とペルシャ軍に近しい雰囲気で、『300』のジュヴナイル的なアレンジ、という見方も出来そうな内容だ。
だが、賞賛すべきはCGを制作したスタッフたちの技倆であろう。近年の3DCGの発達は目覚ましいものがあるが、その中でも特に難しかったと言われる羽毛の表現が繊細で、その柔らかな手触りが想像できるレベルに達している。そうして生き生きと形作られたフクロウたちが、風を翼に受けて空を舞う姿は、CGならではのいささか過剰な雰囲気を留めながらもリアルで、まさに未知の映像という趣だ。このクオリティにザック・スナイダー監督のヴィジュアル・センスがいい具合に嵌って、映像の完成度は極めて高い。
ただ、少々残念なのが、折角の3D、しかもメインが鳥類なのに、あまり飛行の躍動感を描こうとしていないところだ。なまじほとんど同時期に『ヒックとドラゴン』という躍動感の寵児のような逸品が公開されていただけに、この点を惜しむ人は多いだろう。3Dならではの質感の表現、奥行きの深みなどは決して劣っておらず、こちらの見方からも完成度は高いのだが、やや時機に恵まれなかったと言えるかも知れない。
物語としての不満もある。不運な出来事に冒険の始まり、仲間や師との出逢いに宿命の対決、とヒロイック・ファンタジーの要素を巧みに詰めこんだストーリーはテンポもよくじわじわと昂揚感を演出するが、キャラクターの多さのわりには、有効な活躍をしていないキャラクターがほとんどで、どうも消化不良の印象を残す。これは原作が10巻を越えるもので、そこに登場するキャラクターをなるべく拾い上げつつ、子供が観ても苦痛とならないような尺に抑えようと試みたが故の弊害であろうが、もう少し役割を凝縮するなりの工夫が欲しかったところでもある。
しかし、そうして否定的なポイントをあげつらっても、年齢を問わず心に訴えかけることの出来る冒険ものに仕立て上げていることを認めないわけにはいかないだろう。こうした英雄譚の性質の強い作品では、しばしば大した理由もなく主人公や特定のキャラクターが英雄に祭りあげられ、観客に理解できないうちに賞賛を浴びてしまうことがままあるが、本篇はきちんと訓練や努力、そして周囲の真っ当な気遣いや大人としての判断を描いており、大人が観ても空々しさを感じない。伝説の描き方や勇者の扱いにも渋い配慮が施されており、細部を観察するほどに唸らされる。
特に秀逸なのが、主人公ソーレンと対比して描かれる、兄クラッドの変遷だ。弟への妬心と無力感につけこまれ、“純血団”の過激な思想に染まっていき、最後にはソーレンと直接対決するに至る彼の存在が、物語に奥行きを齎している。
“純血団”の理念自体に人種差別の影を窺わせたり、伝説の勇者たちの中にも複雑な駆け引きを窺わせるなど、現実の社会問題と重なり合うようなモチーフの組み立ても巧い。
問題もあるが、しかし3DCGアニメーションとしては異例の成熟した構築美と、冒険ものならではの昂揚感とカタルシスに苦みも添えた、良質の映画である。残酷な表現や過激な主題によらずとも、その作家性を活かすことが出来ることを証明した、という意味では、ザック・スナイダー監督の作品を追ってきた方にとっても重要な1本と言えるだろう。
関連作品:
『ウォッチメン』
『ヒックとドラゴン』
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