『フロム・ダスク・ティル・ドーン』

フロム・ダスク・ティル・ドーン [DVD]

原題:“From Dusk Till Dawn” / 監督&編集:ロバート・ロドリゲス / 原案:ロバート・カーツマン / 脚本:クエンティン・タランティーノ / 製作:ジャンニ・ヌナリ、マイアー・テパー / 製作総指揮:ローレンス・ベンダーロバート・ロドリゲスクエンティン・タランティーノ / 撮影監督:ギレルモ・ナヴァロ / プロダクション・デザイナー:セシリア・モンティエル / 衣装:グラシエラ・マゾン / 視覚効果スーパーヴァイザー:KNBエフェクツ・グループ / 音楽:グレーム・レヴェル / 出演:ハーヴェイ・カイテルジョージ・クルーニークエンティン・タランティーノジュリエット・ルイスサルマ・ハエック、フレッド・ウィリアムソン、トム・サヴィーニチーチ・マリン、アーネスト・リュー、ケリー・プレストンジョン・サクソンジョン・ホークスダニー・トレホ / ア・バンド・アパート製作 / 配給:松竹富士

1996年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:岡田壯平

1996年6月15日日本公開

2007年5月25日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

DVDにて初見(2010/11/01)



[粗筋]

 周囲を血の海に染めながら逃走する男ふたり。兄のセス・ゲッコー(ジョージ・クルーニー)は知的で大胆、冷酷な手口で強盗を繰り返し刑務所に収容されていたが、性犯罪の常習者である弟リッチー(クエンティン・タランティーノ)の手助けで脱獄し、追う警察やFBI、巻き込まれた一般市民を容赦なく血祭りに上げつつ、メキシコを目指していた。

 道中、立ち寄ったモーテルで、キャンピング・カーで旅行中の親子を発見すると、ゲッコー兄弟は新しい人質兼移動手段として車ごと強奪した。人質の娘・ケイト(ジュリエット・ルイス)
に欲情するリッチーに手を焼きつつも、一同は辛うじて目的地に辿りついた。

 メキシコでの隠れ場所を手配している男と落ち合うために赴いたのは、“ティティー・ツイスター”と名付けられたいかがわしいバー。人質一家の父親ジェイコブ(ハーヴェイ・カイテル)は未成年の我が子ふたりを入れるのに躊躇したが、セスに説き伏せられて入店する。明日になれば殺される、という恐怖を抱きながらも、従わないわけにはいかなかった。

 ――だが、この地の果ての狂った店にて、彼らは予想もしない形で、死の恐怖と対峙することになる……

[感想]

 のちに『グラインドハウス』にて、B級ホラーへの愛を炸裂させるロバート・ロドリゲスクエンティン・タランティーノのコンビが、それに先駆けること10年も前に作りあげた快作――というか怪作である。

 とにかく、中盤でのカラーの激変ぶりがあまりに鮮やかすぎるのだ。序盤は、ロバート・ロドリゲスらしいハードでえぐいアクションを少し絡めつつ、現在もクエンティン・タランティーノのトレードマークとなっている、やや冗舌気味だが印象に残る台詞回しと、一瞬の油断で命を奪われそうな緊張感のなかで繰り広げられるクライム・サスペンスの趣だが、これが中盤忽然と、本当に忽然とオカルト・ホラーに変容する。逃げ場のない状況で血飛沫や肉片が舞い散る光景は、それまでのヒリヒリとした緊張感を帳消しにしてしまうほどだ。

 一見、ひどく間違った取り合わせだし、実際観ながら「間違ってる」という想いを抱く。しかし、奇妙なことだが、ディテールは間違っていないどころか、犯罪ものやオカルト・ホラーの定石を完璧に押さえている。

 ジョージ・クルーニー演じる冷静で精神的にタフな男を、感情の赴くままに行動するクエンティン・タランティーノが小気味良く振り回し、序盤の予測不能なドラマを動かしていったあと、そこでの言動が巧妙に後半のオカルト的要素満載、かつぐちゃぐちゃなホラーに連携していく。

 ホラー部分も、感染の仕方や盛大な肉片のばらまきっぷりに、ゾンビなんだかヴァンパイアなんだか、という印象だが、実はヴァンパイアものの王道と言える要素は巧みに鏤めているのだ。十字架や心臓に杭、という基本的な弱点は押さえ、感染したあとの変化も過剰ながらオーソドックス。そこで結果的に生き残る人々の人物像も、いい具合にホラーのお約束を活かしている。とりわけ、葉巻を愛好し、マッチの火を駆使して魔物達を薙ぎ倒していった黒人男性の末路など、定番ながら見事なハマりっぷりだ。常識的でリアルな貫禄を示す、人質一家の父親ジェイコブを演じたハーヴェイ・カイテルの渋みも忘れがたい。

 ホラーと言い条、あまりのぐちゃぐちゃ、息を吐く暇もない破壊ぶりに恐怖を感じる余裕さえなくクライマックスへと突っ走っていくが、それでいてきちんとドラマとしての盛り上がりも描ききり、最後には奇妙なカタルシスまで味わわせる。ある意味、あまりに喜劇的な悲劇なのだが、そういう印象よりも、まさに狂乱の夜が明けた直後のような爽快感を留めるのが、当然のようでも不思議なようでもある。

 非常に技巧的にお約束やツボを押さえながらも、その組み合わせで意外性と破壊力を演出し、しまいには「考えるだけムダだ」という心境にさせてしまう――それでいて、少しでも「楽しい」と思ったが最後、不満など覚えることも出来ないという、怪作中の怪作である。タランティーノとロドリゲスという組み合わせなくして、絶対に存在し得なかった作品だろう。

関連作品:

エル・マリアッチ

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レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード

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コメント

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