『M★A★S★H マッシュ』

マッシュ [Blu-ray]

原題:“MASH” / 原作:リチャード・フッカー / 監督:ロバート・アルトマン / 脚本:リング・ラードナーJr. / 製作:インゴー・プレミンジャー、レオン・エリクセン / 撮影監督:ハロルド・E・スタイン / 美術:アーサー・ロネーガン、ジャック・マーティン・スミス / 特撮:L・B・アボット / 編集:ダンフォード・E・グリーン / 音楽:ジョー・マンデル / 出演:エリオット・グールドドナルド・サザーランドトム・スケリットロバート・デュヴァルサリー・ケラーマンジョー・アン・フラッグ、ゲイリー・バーコフ、ロジャー・ボーウェン、ルネ・オーベルジョノワ、ジョン・シャック、カール・ゴットリーブ、バッド・コート / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス

1970年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 日本語字幕:佐藤一公

1970年7月10日日本公開

2010年7月23日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

Blu-ray Discにて初見(2010/11/12)



[粗筋]

 朝鮮戦争、最前線から僅か5キロの位置に設けられた野戦病院“マッシュ4077”。ここはおよそ最前線とは思えないほど頽廃的な空気が漂っていた。毎日のように大勢の負傷兵が運び込まれ、腹を開き手足を切り落とすその合間に、軍医たちは盛大に酒色に耽り、遊蕩三昧の生活をしている。

 新たに派遣された看護婦のオハーリアン(サリー・ケラーマン)はその状況を見るに見かね、自分同様の苛立ちに駆られていたフランク・バーンズ少佐(ロバート・デュヴァル)と連名で告発状を司令部に送付することを決めた。

 そのことに気づいた軍医のホークアイ・ピアース大尉(ドナルド・サザーランド)は、友人のトラッパー・ジョン・マッキンタイア大尉(エリオット・グールド)らと共に、オハーリアンたちに壮絶なイタズラをしかける。不真面目な連中に囲まれた中で、たったひとりの理解者同士となったことが縁となって、急速に親密になったオハーリアンとフランクが熱い抱擁を交わすベッドの下にそっとマイクを忍ばせて、基地全体に放送してしまったのだ。

 オハーリアンは翌朝から、睦言の中で漏らした“ホットリップス”が仇名として野戦病院内に定着し、フランクはホークアイの露骨な揶揄に激昂して襲いかかり、故郷へ強制的に送り返される。そうして野戦病院は、ある意味で“平和”を取り戻すのだった……

[感想]

 2006年に亡くなるまで優れた映画を撮り続けたロバート・アルトマン監督がその名を知らしめることとなった、カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作にして、アカデミー賞脚色部門受賞の傑作である。

 冒頭、傷だらけの兵士を運ぶヘリの姿を描いているあたりははっきりと戦争映画なのだが、本番の舞台である野戦病院に進むと、観ているうちに戦争映画という側面を見失ってしまう。そのくらい、現場にいる人々の行動は不謹慎で滑稽なのだ。今にも死にそうな兵士たちの治療をしながら利く口は軽く、いざ現場を離れれば、酒を呑み煙草を銜え、忙しく立ち回る看護婦たちを口説いてベッドに連れこむ。当時は戦争を娯楽映画の舞台に用いることの多かったアメリカ映画のなかでも、こんな描写をしていたものはほとんどなかっただろう。今なら『戦争のはじめかた』のような、恐らく本篇の意志を引き継ぐような作品もあるのでさほど驚きはしないが、当時はかなり衝撃的だったのではなかろうか。

 全体を通して具体的な対立関係が描かれるわけでもなく、明確な芯があるわけでもないのに、引っ張られてしまうのは、エピソードの組み立てが非常に巧みだからだ。序盤は粗筋で記したイタズラに至るまでの展開で目を惹き、続いてはある理由から自殺を決意した歯医者のエピソードで牽引する。そのあとも2本ほどの大きなエピソードを立て、その隙間に中心人物であるホークアイやトラッパーたちの不真面目なやり取りを埋め込んでいく。信じがたいような出来事の連続で、ただただ呆気に取られたまま、約2時間を引きずり回されるこの感覚に、圧倒されるほどだ。毒まみれのユーモアを畳みかけられて、気づけば口許が終始緩みっぱなしになっている。

 だが、そうして迎えた終幕に、ここが戦場であることを思い出させる描写がそっと割り込んでくる。この一瞬がもたらす感覚、重みこそ本篇の真骨頂だろう。なまじユーモアや毒に手抜かりがなく、精妙な伏線によって成立するほど考え抜かれているだけに、この不意打ちのダメージは強烈だ。

 1970年と古い作品であるだけに、カメラワークはやや古めかしいし、日本人としては途中でホークアイたちが招聘される小倉基地の描写がどうしようもなく引っ掛かることも事実だ――基地内の病院の美術はあまりにも非現実的だし、途中で聞こえてくる日本語の拙さもやはり気になる――が、“反戦”という単語を用いることなく、一風変わった描写と毒の濃いユーモアで戦争の愚かさ、というより馬鹿馬鹿しさを剔出した表現力は、細部に狂いがあったとしても否定することは不可能だ。製作から40年、物語の背景となる朝鮮戦争から60年近い時を経た今も力強さを微塵も失っていないのは、描かれる事実以上に驚嘆すべきことであり、同時に恥ずべきことなのかも知れない。

関連作品:

ゴスフォード・パーク

戦争のはじめかた

告発のとき

コールドマウンテン

オーシャンズ13

クレイジー・ハート

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