『さらば愛しの大統領』

『さらば愛しの大統領』

監督:柴田大輔、世界のナベアツ / 脚本:山田慶太 / 脚本協力:遠藤敬 / 製作:大崎洋、豊島雅郎、服部洋、雨宮俊武 / プロデューサー:一瀬隆重、片岡秀介、劔持嘉一 / エグゼクティヴプロデューサー:岡本昭彦 / 撮影監督:明田川大介 / 美術:相馬直樹 / 編集:深沢佳文 / VFXスーパーヴァイザー:中村明博 / 録音:郡弘道 / 音楽:大島ミチル / 音楽プロデューサー:川越浩 / 主題歌:世界のナベアツ『誰よりも遠くへ』 / 主題歌プロデュース:須藤晃 / 出演:宮川大輔ケンドーコバヤシ世界のナベアツ吹石一恵大杉漣志賀廣太郎前田吟宮迫博之仲村トオル釈由美子水野透中川家剛中川家礼二高橋茂雄河本準一小杉竜一岩尾望レイザーラモンRG、中村靖日六平直政 / 製作プロダクション:オズ / 配給:Asmik Ace

2010年日本作品 / 上映時間:1時間27分

2010年11月6日日本公開

公式サイト : http://saraba-d.asmik-ace.co.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2010/11/30)



[粗筋]

 まさかの大阪府知事選挙当選を果たした世界のナベアツが掲げた公約は、何と大阪府の独立。世間の当惑を他所に、大阪経済を“笑い”で活性化していき、気づけば支持率もうなぎ登り、いつの間にか大阪国独立が真実味を帯びていく。

 だがその一方で、彼の周囲に暗殺者の影がちらついていた。繰り返し送りこまれる刺客を、黒幕も驚く強運で切り抜けるものの、独立宣言の日に向けて緊張は高まっていく。

 大阪府警が威信を賭けて警戒につくなか、黒幕捜しを命じられたのは捜査一課の早川刑事(宮川大輔)と番場刑事(ケンドーコバヤシ)。だが、手懸かりを追ってはアホな脱線を繰り返し、なかなか犯人に辿り着かない。

 そうこうしているうちに、ナベアツはアメリカ大統領との会談も良好な結果を収め、遂に大阪は独立宣言の時を迎えようとしていた……

[感想]

 3のつく数字と3の倍数でアホになる、のギャグで一世を風靡した芸人・世界のナベアツが、共同ながら初めてメガフォンを取った作品である。名を知られるきっかけは“アホ”を押しだしたギャグだったが、デビュー以降放送作家としても活動し、『めちゃ2イケてるッ!』『アメトーーク』の裏方として笑いを仕掛けてきた人物であり、実際には非常に練られた“笑い”を生み出す作り手なのだ。それ故に、映画を監督する、と聞いてもさほど意外に思わなかったし、個人的には期待もしていた。

 率直に言えば、こんなものかな、と首を傾げたことは否定できない。想像していたほど笑えなかったのだ。

 言ってみれば本篇は、命を狙われる大統領と犯人捜し、というシチュエーションを軸にしたショート・コント集のような組み立てになっている。盛り沢山ではあるのだが、全般に細切れなギャグを繰り出してきているだけなので、それぞれのギャグが嵌らないといまいち笑えない。映画で、物語の形式の中で笑わせるのなら、ストーリーに直結したギャグや、細かな描写があとで目覚ましくリンクするようなアイディアが幾つか欲しいところだが、本篇はそれがいまひとつ印象に残らない。

 あの“世界のナベアツ”が作るのであれば、もっと狙いすました笑いを提供できたのでは、と思うのだが、しかし一方でこの匙加減は狙ったものとも思える。本篇は配給会社のロゴよりも前に、「アホになって観てください」というテロップを流して予防線を張っている。これは一見“逃げ口上”のようにも思われるし、恐らくはそういう側面も多少なりともあるのだろうが、実はクライマックス、ナベアツ大統領が大観衆を前にぶつ独立宣言とも共鳴している。

 そもそも頭を使わせたくない、ひたすら楽に観て欲しい、というのが本篇の基本姿勢なのだ。だから変に込み入った仕掛けは施さず、その場その場の愉しさにのみ奉仕するアイディアを無数に盛り込んでいる。

 何人も投入される暗殺者がことごとく芸人ではなく俳優であり、それがお笑い芸人と絡んで笑いを取っていることや、訊問のシーンで突如NGシーン(無論作り物)を挿入するなど、ひたすらその場その場で観客を喜ばせることに執心した趣向が随所に凝らされていて、物語的には非常に単純、そのうえツッコミどころばかりだと呆れつつも、決して退屈はしない。

 そうしてひたすらゆったりとした刹那的な笑いに拘ったことが、前述したクライマックスの“独立宣言”に繋がることで、ほんのりとだが感動を呼ぶ。それは作品の作りと主張にブレがないためだ。

 如何せん、“笑い”ほど平均値の取りにくいものはなく、特にこういう細かなネタばかりだと、笑えるところよりも笑わなかったことのほうが印象に残り、どうしても総体では評価が落ちてしまう。だが、少なくとも狙ったものをきちんと描いている、という意味では、完成度の高い映画なのである。

 ……ただそれでも、もう少しラストで盛大な笑いを仕掛けて欲しかった、という気はするが。クライマックスのある趣向など、『ズーランダー』という映画で、より劇的なものをいちど目にしてしまっているので、ちょっと苦笑いしてしまった。

関連作品:

板尾創路の脱獄王

ヤッターマン

ズーランダー

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