『サウンド・オブ・ミュージック』

『サウンド・オブ・ミュージック』 サウンド・オブ・ミュージック 製作45周年記念HDニューマスター版:ブルーレイ&DVDセット (初回生産限定) [Blu-ray]

原題:“The Sound of Music” / 監督:ロバート・ワイズ / 脚本:アーネスト・レーマン / 製作:ロバート・ワイズ、ソウル・チャップリン / 原作:ハワード・リンゼイラッセル・クローズ / 撮影監督:テッド・マッコード / 特殊効果:L・B・アボット / プロダクション・デザイナー:ボリス・レヴェン / 舞台装置:ルビー・レヴィット、ウォルター・M・スコット / 衣裳デザイン:ドロシー・ジーキンス / 編集:ウィリアム・レイノルズ / 音楽:リチャード・ロジャース、オスカー・ハマースタイン2世、アーウィン・コスタル / 出演:ジュリー・アンドリュースクリストファー・プラマーエリノア・パーカーリチャード・ヘイドンペギー・ウッドアンナ・リーチャーミアン・カー、ニコラス・ハモンドヘザー・メンジース、デュエン・チェイス、アンジェラ・カートライト、デビー・ターナー、キム・カラス、ポーティア・ネルソン、ベン・ライト、ダニエル・トゥルーヒット、ノーマ・ヴァーデン / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス

1964年アメリカ作品 / 上映時間:2時間54分 / 日本語字幕:森みさ

1965年6月19日日本公開

2010年12月3日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray & DVDセット:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/02/08)



[粗筋]

 1938年、ドイツの脅威に晒されつつあるオーストリア

 見習いの修道女マリア(ジュリー・アンドリュース)は粗忽で陽気な人柄で同輩から愛されているが、その性格故に修道院には合わない、という点で衆目が一致している。修道院長(ペギー・ウッド)は思案の結果、彼女を外の世界に送り出し、自分と見つめ合う機会を与えようと、家庭教師の口を紹介した。

 マリアが派遣されたのは、トラップ大佐(クリストファー・プラマー)の邸宅。妻を喪って以来、トラップ大佐は7人の子供たちに厳格な教育を施そうとしているが、家庭教師が居つかなくなっている。原因は、その緊張した空気と、子供たちの悪戯にあった。子供たちは父親の関心を惹きたいあまり、家庭教師たちを翻弄していたのである。

 だがマリアは、そんな子供たちに天真爛漫な態度で接し、瞬く間に彼らの心を開いていった。トラップ大佐がウィーンに出かけているあいだに、すっかり子供たちと打ち解けたマリアは、戻った大佐を驚かせるべく、歌で彼とお客を出迎えることを提案する。

 交際相手の男爵夫人(エリノア・パーカー)、友人のマックス(リチャード・ヘイドン)を伴って帰宅した大佐は、厳格に育ててきたはずの子供たちが木登りに興じ、邸宅の裏にある湖でボート遊びをしてずぶ濡れになった姿に愕然とする。

 即刻、荷物をまとめて出て行くようマリアに通告した大佐だったが、そのとき、邸内から歌声が聴こえてきた。それは、マリアと練習を重ねてきた子供たちが、男爵夫人たちに歌を披露しているところだった。子供たちの活き活きとした表情、妻の生前は屋敷に満ちていた歌声の響きに、大佐は自分が如何に酷い父親になっていたかを自覚し、マリアの存在の大きさを理解する……

[感想]

 いままで1度も、きちんと通して観たことがない、と言うのが恥ずかしいくらいに大定番の作品だが、驚くべきことに、そんな私でも大半の曲を知っていた。むしろ、この傑作のなかの1曲だという認識がないままによく知っている曲ばかりだ。たとえば『My Favorite Things』は日本人にとってJR東海のCM曲としてお馴染みで、聴けばすぐに京都の光景を思い浮かべてしまう、という人も少なくないだろう。プロローグ部分の『The Sound of Music』はのちのミュージカル映画ムーランルージュ!』のなかで印象的に用いられている。『ドレミの歌』『エーデルワイス』などは、日本語訳された歌が浸透しており、音楽の教科書で知った人も多いのではないか。

 映画と切り離しても通用するほどに完成された楽曲がふんだんに盛り込まれている。もともと舞台で演じられるミュージカルだったとのことで、その時点で随分と研ぎ澄まされていたのも確かだろうが、映画での見せ方は、驚異的なくらいに洗練されている。

 芝居の中で歌を組み込む、というミュージカル独特の様式には反発を抱く人もいるようだが、そういう人でも本篇の使い方の巧みさは認めるはずだ。物語に入って、最初にマリアの人柄を観客に伝えるべく挿入される修道女たちによる歌の導入からしてなかなかに憎い。何せ、「修道院の中では歌うことは禁じられている」と言ったその直後に歌い始めるのだから。この、歌に入るタイミングの洒脱さは終始変わらず、観る側の気を逸らさない。

 そして、同じ曲を反復する場合も、アレンジを変えるばかりではなく、常にどこかしら異なったシチュエーションを用意しており、旋律は同じでも大幅に趣を違えている。先に用いられた場面と対比させることで、より印象づけてもいるのだ。長女リーズル(チャーミアン・カー)の恋を唄う『Sixteen going on Seventeen』がふたたび唄われる終盤の切なさや、トラップ大佐が初めて子供たちの前で唄う『エーデルワイス』と、クライマックスの音楽会で披露する同じ曲が齎すまるで異なる感動は、それぞれの曲の印象をいっそう際立たせている。

 逆に、リーズルと同じ四阿で行われるプロポーズは、用いる曲も仕草も一変しており、場面としての差違が鮮明だ。巧みに構成されたダンス、それを切り取る絶妙な構図、カメラという視点を備える映画ならではの見せ方を配慮し、随所に緻密な計算を施しているのが解る。ただ華やかさや感動的なストーリーで観客を惹きつけているのではなく、映画としての完成度が非常に高いのだ。

 この時代を舞台にした物語の必然として、最後には戦争の暗い影がトラップ一家の上に差していく。だが、窮地にあっても不思議なほど暗さはなく、必ずしも前途洋々というわけでもないラストシーンでさえ不思議と清々しいのは、そのヴィジュアルの美しさもさることながら、マリアが終始語っていた人生観と、それをしっかりと浸透させたトラップ一家の姿が、決して不運を感じさせないからだろう。

 そろそろ半世紀近く前の作品になりつつあるが、いま観ても決して古めかしさは感じさせない。むしろ年輪を得ていっそう輝きを増すかのような、珠玉のミュージカル映画である。上に掲げた楽曲のどれかひとつにでも愛着があるような人なら、きっとどっぷりとハマってしまうはずだ。

関連作品:

たたり

終着駅 トルストイ最後の旅

ムーランルージュ!

地球が静止する日

白いリボン

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