原題:“黄飛鴻之二: 男兒當自強” / 監督&製作:ツイ・ハーク / 脚本:ツイ・ハーク、チャン・タン、チャン・ティンスン / 製作総指揮:レイモンド・チョウ / 撮影:アーサー・ウォン / 音楽:リチャード・ユエン、ジョニー・ニョー / 出演:ジェット・リー(リー・リンチェイ)、ロザムンド・クワン、ション・シンシン、マク・シウチン、ジャン・ティエリン、イェン・チータン、ジョン・チャン、ドニー・イェン / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan
1992年香港作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:?
1993年9月11日日本公開
2011年7月8日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
DVD Videoにて初見(2011/04/27)
[粗筋]
清朝末期の中国、広州。西欧文化が少しずつ流入し、それと同時に清朝の基盤が危うくなったことで生じた不安が、外国人排斥を訴える過激な宗派・白蓮教をこの地に台頭させた。教祖のクン大師(ション・シンシン)は刃物はおろか銃弾でさえも受け付けない肉体を誇示して仏の加護を叫び、信者を率いて強硬な行動に臨む。
そこへ現れたのは、医師として民衆の救済に努める一方、武術家としても名の高いウォン・フェイフォン(ジェット・リー)である。広州で開催される医学会の集まりに招かれた彼は、自身の叔母にあたり、イギリスへの遊行経験のあるイー(ロザムンド・クワン)と弟子のフー(マク・シウチン)を伴ってきたのである。
到着早々、洋装で未だ民衆には縁のないカメラを持ち歩いていたイーが民衆から敵視され、更には医学会を白蓮教に襲撃されて、フェイホンは早々に現地を離れることを考えた。だが、宿の近くにある語学学校までが襲われ、大人達が懸命に守った子供たちを発見すると、まず彼らの安全を保つべく、警察のラン提督(ドニー・イェン)を頼った。
ラン提督は著名なフェイホンに敬意を表したものの、政情不安の折、無闇に白蓮教を刺激することはできない、と子供たちの受入を拒む。だが、子供たちの面倒を見ていたイーたちは機転を利かせ、フェイホンが留守のあいだに、イギリス領事館に身を寄せていた。
これで一安心、かと思いきや、イギリス領事館には、革命を志す医師の孫文(ジャン・ティエリン)とその後援者トン(ジョン・チャン)もまた身を潜めており、白蓮教のみならず、体制側にあるラン提督からも狙われていたのだ。そして、ラン提督の企てにより、深夜、領事館内は惨劇に見舞われる――
[感想]
ジェット・リー作品のなかでも人気の高い“ワン・チャイ”シリーズ第2作であり、日本では唯一、きちんと劇場公開された作品である――あのジェット・リーの出演作、しかも本国でも評価の高いシリーズがそれほど日本で冷遇されていた、というのがちょっと訝しく思えるが、その時々によって様々な事情があるので、致し方のないところだろう。
だが、どんな事情があったにせよ、本篇だけでも劇場公開に踏み切ったのは正しい判断だと思う。この感想を書き上げる前に、第3作も鑑賞してしまったのだが、ジェット・リー主演の初期3作のなかでは間違いなく、本篇がもっとも完成されている。
基本的にこのシリーズ、3作まではほぼ同じ精神で組み立てられている、と言っていい。複数の勢力が絡みあって事件を複雑にし、その中でフェイホンが叔母のイー、弟子のフーらとユーモラスなやり取りをしつつ、随所で華麗な武術を披露してトラブルを収める。そしてクライマックスでは、奇想に満ちたアクションで盛り上げる、という具合である。
マンネリとも言えるが、細部は様々に工夫を凝らしており、見応えに優れている。第1作で評価された魅力を3作目まで維持し、観客の要求に応え安定したクオリティを提供したその精神は、天晴と言っていいだろう。
それでも、いささか過剰すぎたり不自然なところが出て来るのは、同種の香港産アクション映画が持つ宿痾のようなものと思えるが、本篇はその中でも破綻が少なく、見せ場で上げる効果が大きいので、そうした香港アクションならではの欠点がうまく抑えられ、魅力として活かされている。
特に、ドラマ部分とアクション部分の匙加減、調和の保ち方が本篇は絶妙なのだ。作中、悪役として最初から最後まで気を吐くのは、外国人排斥を声高に訴える白蓮教という新興宗教であるが、その首領であるクン大師は冒頭でいきなり“銃で撃たれてもびくともしない”という姿を披露する。前作での最大の敵が「いくら体を鍛えても銃には勝てない」と漏らしたことを踏まえた敵役であるのは続けて鑑賞すると明白で、なかなかに心憎い。そして、信者たちの肉体を用いたアクロバティックな儀式の様子は、そのままクライマックスにおける、このシリーズらしさの横溢した格闘シーンに結びつく。他方で、微妙な関係にあった広州提督と終盤に生じる確執とその挙句の決戦も、そこまでの描写が鍵となって緊迫感を生んでいる。ここで提督を演じるドニー・イェンは2011年現在も香港・中国に密着したアクション・スターとして活躍している人物だが、彼とジェット・リーとの戦いは激しくも華麗で、クン大師との戦闘の派手さとは違った見応えがある。
そして、過程に盛り込まれたドラマの完成度も高い。シリーズのなかではフェイホン含めレギュラーの言動はどこかしら愚かで、しばしば目にあまるほどなのだが、このシリーズ第2作は愛嬌のレベルに留まっているうえ、その滑稽なやり取りがラストシーンの、前作、第3作とは違う、そしてアクション映画としても一風変わった余韻に繋がっている。
前作の良さを巧みに汲み取り、それを更に洗練させて前作のファンを納得させながら、決して新参の観客も排除しない。香港アクションらしい過剰さが合わない、という人も世の中にはいるだろうが、そういう理由がない限り、誰しも愉しめるはずの優秀なエンタテインメントである。
……ただ、犬好きの人は注意すべきかも知れない。冒頭は白蓮教が外国人排斥の象徴として焼き殺す場面があり、実際にその場面を見せていないとは言い条憤りを掻き立てるが、そのあとでフェイホンたちが普通に犬の肉を食べているのである――これは、中国に昔から犬の肉を食べる習慣があり、ジェット・リーのデビュー作『少林寺』でも象徴的に用いていることから、彼らは自分たちの特殊な文化であると自覚しながら採り入れているのは間違いないと思われるが、それでも予備知識がない状態だと、相当なショックを受ける可能性はある。
関連作品:
『HERO 英雄』
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