『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉(3D・字幕版)』

『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』

原題:“Pirates of Caribbean : On Stranger Tides” / 監督:ロブ・マーシャル / 脚本:テッド・エリオット、テリー・ロッシオ / キャラクター創造:テッド・エリオット、テリー・ロッシオ、スチュアート・ビーティ、ジェイ・ウォルバート / 参考著作:ティム・パワーズ『生命の泉』(ハヤカワ文庫FT・刊) / 製作:ジェリー・ブラッカイマー / 製作総指揮:マイク・ステンソン、チャド・オーマン、ジョン・デルーカ、テッド・エリオット、テリー・ロッシオ、バリー・ウォルドマン / 撮影監督:ダリウス・ウォルスキー,ASC / プロダクション・デザイナー:ジョン・マイヤー / 編集:デヴィッド・ブレナー,A.C.E.、ワイアット・スミス / 衣装:ペニー・ローズ / 視覚効果監修:チャールズ・ギブソン / 視覚効果&アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック / 音楽:ハンス・ジマー / 音楽監修:ボブ・バダミ、メリッサ・ムイク / 出演:ジョニー・デップペネロペ・クルスジェフリー・ラッシュイアン・マクシェーン、サム・クラフリン、アストリッド・ベルジュ=フリスペ、ケヴィン・R・マクナリー、ジェマ・ウォード、オスカル・ハエナダ、松崎悠希、フアン・カルロス・ベイードスティーヴン・グレアムキース・リチャーズ / 配給:WALT DISNEY STUDIOS MOTION PICTURES. JAPAN

2011年アメリカ作品 / 上映時間:2時間21分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2011年5月20日日本公開

公式サイト : http://pirates-movie.com/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/05/20)



[粗筋]

 知る人ぞ知る海賊ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)が、イギリス・ロンドンに現れた。腹心ギブス(ケヴィン・R・マクナリー)が何故かジャックと間違われて囚われたためだが、様々な奇策も虚しく、ジャックは英軍によって囚われてしまう。

 だが直後、ジャックが引き合わされたのは意外な人物だった。まず現れたのは時の英国王。彼によれば、スペインの探検隊が、人間の寿命を延ばす神秘の力を備える“生命(いのち)の泉”の在処を探しているそうで、対抗心を燃やした国王は、イギリスからも探検隊を派遣することを企てた。ジャックが“生命の泉”への海路を把握しており、そのための乗組員を募っている、という噂を聞きつけた英国王が、彼に案内を要求したのだ。

 しかも驚くべきは、英国王が探検隊を乗せた船の艦長として紹介した人物である。それはかつて、ジャックの船ブラック・パール号を奪っていった因縁の敵、バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)だったのだ。

 協力を求められ、固辞したジャックはその場を遁走し、ある酒場へと逃げこむ。折しもそこではまさに、ジャックを名乗る何者かが乗組員を募っているところだった。ジャックがその人物のところへ乗り込んでいくと、偽者はまたしても彼の旧知の人物だった――女海賊アンジェリカ(ペネロペ・クルス)である。修道女見習いのはずが、ジャックに誘惑されて道を踏み外した彼女が何故、ジャックの振りをして船員を募っていたのか? 追求する前に、ジャックは何者かの攻撃により眠らされてしまう。

 ふたたび気がついたとき、ジャックは見知らぬ船に乗せられていた。ゾンビとなった船員が操るその船、アン王女の復讐号の主は、ジャックさえ恐れを為す大海賊、黒ひげ(イアン・マクシェーン)であった……

[感想]

 約4年振りとなるシリーズ第4作である。いちおう前作でストーリーは完結した印象を与えていたが、近年珍しい、幅広い年齢層に支持されるシリーズであったため、観客に求められ、製作者の側でもそれに応える形で復活となった。

 ストーリー的には、きっちりと仕切り直されている。ジャック・スパロウに腹心ギブス、宿敵バルボッサ、そしてシリーズのファン・サーヴィスのようにちょこっとだけジャックの父ティーグ(キース・リチャーズ)が顔を見せているが、あとはほとんどが新顔だ。大ヒット作品なので今更そんな人も珍しいだろうが、仮にシリーズ旧作に触れていなくとも理解するのに障害はない。ジャックが用いている謎のコンパスや、彼のアクション・シーンが意識的に旧作をトレースしていたり、お馴染みのあのキャラクターがとんでもないところでお目見えしたり、と旧作のファンに対するサーヴィスも欠かしていないので、予習復習を済ませて鑑賞したほうがいいのも確かだが、必須ではない。

 しかし、率直に言えば、少々物足りなさは禁じ得なかった。旧作はストーリーこそかなり複雑に入り乱れ、散漫としてしまった印象は強い一方で、破天荒なアクションがふんだんに詰めこまれ、大スクリーンでこそ堪能できるアトラクションめいた愉しさがあったが、本篇はそれが幾分薄れている。冒頭から馬車を使った追跡劇や酒蔵での斬り合い、囚われの身となった場面でのロープを用いた大掛かりな立ち回りなど、アクションの見せ場もきちんと用意はされているが、前2作で披露したような船の反転や大車輪の中と外での立ち回りのような派手さは薄れている。

 この点が残念に思われるのは、折角3D上映に対応しているのに、その醍醐味をいまひとつ堪能できないことだ。第3作の大車輪のような場面ならば、迫り来る車輪と、その中と外とで交錯する戦いを大迫力で愉しめただろうが、本篇にはそういう趣向が乏しいのである。予告篇で用いられていたような、突き立てられたサーベルが扉の向こうから飛びだしてくる場面であるとか、秘境の光景の壮大さ、美しさは目に鮮烈だが、もしかしたら提供できたかも知れない“それ以上”がなかったのが惜しまれる。

 しかし、その分、第1作が醸成していた、正統派の冒険映画という雰囲気は蘇っている。謎を解き明かすために必要なアイテムを求めて海を旅し、様々なピンチに遭遇しながら目的地へと向かう。前2作ほど複雑ではないが、人間関係や思惑が入り乱れ、敵味方が繰り返し変化する展開もなかなかの牽引力を備えている。

 何より、本篇の象徴たるジャック・スパロウの存在感が素晴らしい。前作では、話の展開の都合上、立ち位置が“囚われのお姫様”となってしまい、ジョニー・デップの演技のお陰でユーモラスな魅力は最後まで発揮していたが、どうもパワー不足になったことは否めなかった。だが本篇では、人を食った振る舞い、このシリーズの海賊らしい価値観を留めながらも、ダーティなヒーローとして遺憾なくその本領を示している。とりわけクライマックスでの機転と、最後に放つ台詞などは、シリーズ全体を通して最もジャック・スパロウらしさが際立つひと幕と言ってもいい。

 既にスタッフの意識は次へと向いているようで、「今後は1話完結形式で」「ファンが望む限りいつまでも続く」などといった発言がちらほらと聞こえてくる。本篇で既に窺えるいい意味でのマンネリズムが維持できるなら、ハリウッド版“寅さん”のような作品になってくれるかも知れない、そんな予感の漂う作品である。

関連作品:

パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち

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パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド

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チェ 39歳 別れの手紙

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