『華麗なる賭け』

華麗なる賭け [Blu-ray]

原題:“The Thomas Crown affair” / 監督&製作:ノーマン・ジュイソン / 脚本:アラン・R・トラストマン / 撮影監督:ハスケル・ウェクスラー / 美術監督:ロバート・ボイル / 編集:ハル・アシュビーバイロン・ブラント、ラルフ・E・ウィンターズ / キャスティング:リン・スタルマスター / 作詞:アラン・バーグマン、マリリン・バーグマン / 音楽:ミシェル・ルグラン / 出演:スティーヴ・マックイーンフェイ・ダナウェイ、ポール・バーク、ジャック・ウェストン、ビフ・マクガイア、アディソン・パウエル、アストリッド・ヒーリン、ゴードン・ピンセント、ヤフェット・コットー / 配給:日本ユナイテッド・アーティスツ / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

1968年アメリカ作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:大野隆一

1968年6月25日日本公開

2011年4月22日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/06/08)



[粗筋]

 銀行強盗が発生した。まったく同じ服装の5人の男達が、犯行のその数分間のみ顔を合わせ、指示通りに動き、見事に仕事を果たして別れていった。足跡を辿ろうにも、追いきれない、あまりに鮮やかな手口だった。

 マローン警部(ポール・バーク)と、銀行側が呼び寄せた保険調査員のヴィッキー・アンダーソン(フェイ・ダナウェイ)は、大量の小額紙幣を隠蔽する数少ない方法として、首謀者がスイスの銀行に匿名の口座を設けたと睨み、紙幣を手荷物で運び出した可能性のある人物を洗い出す。

 ヴィッキーはその中から、トーマス・クラウン(スティーヴ・マックイーン)に目をつけた。不動産や投資に関する事業で財産を為した男だが、そんな男に大金を強奪する動機などあるのだろうか? だが、直感的に彼が犯人だ、と確信したヴィッキーは、トーマスの様子を探りはじめるが、そのあからさまな振る舞いはすぐトーマスの知るところとなり、トーマスはヴィッキーに接触を図ってきた――

[感想]

 古典的な名作、という程度の予備知識で本篇を鑑賞すると、冒頭から繰り出される一連の映像に驚かされるはずだ。分割画面を多用したスピード感豊かな演出と、説明を廃した意味深な語り口は、非常にスタイリッシュで現代的だ。画面や時代背景には古さが滲むものの、その空気は決して古びていない。

 冒頭で描かれる銀行強盗計画も、あまり古めかしさを感じさせない。顔を伏せたまま複数の、互いに素性を知らない男達を雇い入れ、予定通りに行動させることで、極限まで痕跡を残さない、という手口は、今でも通用する発想だ。細かなトラブルにも対応できるよう準備していることを窺わせる台詞が盛り込まれていたり、と気の利いた描写も多い。

 だが、率直に言えば、冒頭で抱かされた期待と比較すると、それ以降の展開は少々印象が薄い。トーマスの犯行と睨んだヴィッキーが、彼の身辺を探りつつも少しずつ心惹かれ合う――というのは成り行きとして理解できるが、どうも犯行の鮮やかさに対して捜査の地道さばかりが目につき、肝心のロマンス部分は不鮮明だ。少しずつ惹かれ合う様子自体も、いまひとつ伝わりづらいきらいがある。

 その分、中盤で見応えがあるのは、相変わらず特徴的な画面構成と、フェイ・ダナウェイの華麗なファッションだ。むろん、今の目で見れば古いのは古いのだが、それでもそのとき輝いていた人というのはやはり格好いい。実のところ、アクションもしていなければ自身が犯行に手を下しているわけでもないスティーヴ・マックイーンの、そういう怠慢(あくまで役柄ではあるが)を微塵も感じさせないオーラに匹敵する存在感を充分に醸している。そこに魅力を感じるかどうかはさておき、両者の会話の洒脱さ、終盤にさしかかってのチェスのひと幕などは、この俳優だからこその説得力が漲っている。

 本篇の最も秀逸な点は、その締め括りだろう。勝者も敗者もどこか曖昧になる、洒脱だが苦み走った余韻は、そうそう味わえるものではない。少々緩い、と感じられる中盤も、この結末のためにきっちりと奉仕しているのだ。

 それでも、冒頭のあまりに怜悧な犯行のくだりを思うと、あれに匹敵する刺激的な駆け引きが中盤にもう少し盛り込まれていれば、と感じる。そこで点を引かねばならないが、しかし確かに、“午前十時の映画祭”に採り上げられるだけのことはある、秀作である。

関連作品:

月の輝く夜に

ローラーボール

黒蜥蜴

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