この忠臣蔵はひと味違う。

 今月はとにかくカロリーの大きい映画がやたら封切られる。時間や時期を考慮しないとなかなかの負担になるので、いつもより想定スケジュールを細かに組んである。今月いちばんの重要作『瞳をとじて』を無事に押さえたことで今日は観に行く映画だけはほぼ確定していた、問題は観に行くところでした。
 バイクの修理を済ませたのでバイクで出たい、けどそうするとスケジュールがだいぶキツキツになる。昨晩、就寝するちょっと前くらいまで悩んだ末、時間的には早いけれど移動がいちばん楽なTOHOシネマズ上野で鑑賞することに決めました。帰りも楽だし。
 鑑賞したのは、『超高速!参勤交代』以来、娯楽時代劇を手懸け続ける土橋章宏原作&脚本、実は死んでいた吉良上野介の身代わりとなった不肖の弟が、事態を収めるため期せずして奮闘する身代わり忠臣蔵』(東映配給)。予告篇の時点でむちゃくちゃ興味を惹かれていた1本です。最優先ではないにしても、劇場では観ておきたかった。
 期待どおり、いや期待以上の面白さでした。冒頭からムロツヨシの魅力が大爆発してます。
 時代劇コメディとしても楽しいのですが、出色なのは、一般的に知られる『忠臣蔵』のイメージや史実に、“吉良上野介の死を誤魔化すために入れ替わっていた”という着想のもと、大胆かつ絶妙にフィクションを織り交ぜている。浅野内匠頭と上野介の肉付けは当時の巷間語られる人物像を敷衍しつつ、実際の上野介は名君であった、という記録、討ち入りまでの期間に大石内蔵助は遊び歩き、討ち入りを決断できない臆病者、と囁かれていたことなどを人物像に組み込み、慣れ親しまれた物語のイメージをほぼ一新して、コメディ的に、エンタテインメント的に作り変えている。ムロツヨシの躍動的な演技が軸となっているのは間違いないですが、新しい内蔵助に挑んだ永山瑛太、お家の存続に必死な吉良川の家臣・斎藤宮内を演じた林遣都、幕府の面子のために領家の運命を弄ぶ柳沢吉保に扮する柄本明と、それぞれが実にいい味を出して物語を彩っている。
 しかも笑えるだけでなく、終盤の展開は当時の風潮を反映しながらも現代的な価値観に寄り添い、なおかつドラマとして実に熱い。金のことしか頭になかった吉良孝証が、上野介の入れ替わりとして振る舞ううちに浅野吉良両家、それぞれの家臣の事情を知り、やがて一世一代の大芝居に臨むくだりは感動的です。底までで育まれた関係性が見事に昇華されているのもいい。
 ……で、この感動的なくだりのあとで、開き直ったかのように意外なクライマックスが用意されているのも素敵。ユーモアの中にも必死さがきちんと見えて、この娯楽劇の大トリに相応しい。締め括りもまた粋です。
 個人的には本当に大好きなタイプの作品。こういう時代劇がもっと欲しいのよ私は。

 鑑賞後は、久々につけ麺が食べたい気分だったので、御徒町らーめん横町のつけめんTETSUに立ち寄って昼食。一時期、食がだいぶ細くなって、つけ麺を食べるのがだいぶしんどくなっていたのですが、今日は無事に平らげました……まあ、そもそもここのつけ麺は食べやすいほうだと思うけど。

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