『行きずりの街』

行きずりの街 [DVD]

原作:志水辰夫(新潮文庫・刊) / 監督:阪本順治 / 脚本:丸山昇一 / 製作:黒澤満 / 撮影:仙元誠三 / 美術:小澤秀高(A.P.D.J) / 照明:渡辺三雄 / 録音:志満順一 / 編集:普嶋信一 / 音楽:安川午朗 / 主題歌:meg『再愛〜Love you again〜』 / 出演:仲村トオル小西真奈美南沢奈央菅田俊うじきつよし大林丈史、でんでん、宮下順子佐藤江梨子谷村美月杉本哲太ARATA窪塚洋介石橋蓮司江波杏子 / 配給:東映

2010年日本作品 / 上映時間:2時間3分

2010年11月20日日本公開

2011年5月21日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.yukizuri.jp/

DVD Videoにて初見(2011/06/23)



[粗筋]

 丹波篠山にある塾で国語を教えている波多野和郎(仲村トオル)は、もと教え子の広瀬ゆかり(南沢奈央)の行方を追って、東京を訪れた。彼にとって思い出したくない記憶の眠る土地であったが、その後悔ゆえに、波多野はゆかりを救わねばならない、という想いに駆られていた。

 放射線技師を目指して東京で学んでいたゆかりは、当初友人・藤本江理(谷村美月)とふたりで安いアパートを借りていたが、今は麻布の、高級マンションに居を構えていた。背後には年上の男の影があり、近ごろはクラブでも働いていたという。情報を求めて、ゆかりが勤めていたクラブを訪ねると、そこで波多野は因縁のある相手と遭遇する。その男、池辺(石橋蓮司)はかつて波多野が勤務していた敬愛女学園の理事であり、東亜グループの社長である。

 波多野には妻がいた。敬愛女学園に在籍していた当時の生徒であった手塚雅子(小西真奈美)である――しかし生徒との恋愛が問題とされ、波多野は職場を追われ、雅子の卒業後に籍を入れたものの、やがて破綻してしまう。池辺の部下に、雅子はいま飲み屋のママをしている、と仄めかされた波多野は、誘われるように彼女の母親・映子(江波杏子)が営んでいた店を訪ねる。

 そこには確かに、雅子がいた。未だに波多野が想いを引きずる相手が……

[感想]

 志水辰夫の小説の映画化は、決して簡単ではない。とりわけ、デビューである1980年代から90年代初頭あたりに発表した作品群は難しいだろう。

 内容的には、日本を舞台にした冒険小説であり、都市や海辺の村など、舞台も決して突飛ではないので、映像化することだけならどうにかなる。だが、志水辰夫という作家を特徴付けているのは、“シミタツ節”とも呼ばれた独特のリズム感と情緒を備えた文体だった。いくら映像が原作の描く情景を的確に再現したところで、文章の味わいまでも汲み上げることは容易ではない――というより不可能と言っていいだろう。事実、映画製作者でさえもそれを理解していたようで、志水辰夫作品はまったくと言っていいほど映像化の話を聞かなかった。

 それ故に、本篇についての報道が出たとき、初期作品を読んでいた者としては、正直不安を覚えたものだった。とはいえ観ずに語ることはしたくないので、劇場で観たいと考えていたのだがタイミングを逸してしまい、DVD化されてようやく鑑賞した次第である。

 やはり、案の定と言うべきか、率直に言えば物足りない。ムードはあるが、あの特徴的な文体が醸し出す空気そのまま、とはさすがに言い難いのだ。

 とはいえ、文章が醸しだす空気など、原作に対する思い入れを脇にどければ、決して不出来な作品ではない。辛い過去を背負った男が、かつての教え子を捜す過程で、思わぬ事件と、そして未だに心を残す女性と巡り逢う、その様子を情緒的に、しかし微かな緊迫感を備えて描いた、ハードボイルド・タッチのサスペンスとして見応えがある。

 如何せん、原作を読んだのがだいぶ昔なので、どの程度原作の要素を再現しているのかは断言できないのだが、時代設定を現代に置き換えつつも、基本的な設定や謎はきちんと汲み上げているのは間違いないと思う。しかし、それが却って、どこか2時間ドラマめいたチープさを醸しているのは残念なところだ。美男子ながら年輪を刻んで渋みを増した仲村トオルと、若いながらも陰のある美しさを備えた小西真奈美、飄々とした佇まいが印象的な窪塚洋介と、いずれもキャストとしてはきっちり嵌っているのだが、設定や振る舞いを拾っていくと、どうしても情緒よりはチープさが強まってしまう。決して映画のスタッフやキャストが悪いのではなく、志水辰夫作品にとってあの文体が如何に重要だったか、を示していると言えよう。

 だから、本篇を観るときは、いっそ“志水辰夫作品の映画化”ということを考慮しない方が愉しめるのではないかと思う。2時間サスペンス的な内容ではあるが、キャストもスタッフも一級であるだけに、観る者を逸らさない。もとが上質のミステリであるだけに、謎解きもしっかりしているし、終盤の展開への布石も確かだ。

 ただ、それでももし、原作を知らずに本篇を鑑賞してしまったひとには、是非とも原作のほうにも目を通していただきたい、と言わずにいられない――そうすればきっと、この複雑な気分が理解していただけるはずなので。

関連作品:

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座頭市 THE LAST

K−20 怪人二十面相・伝

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(さけび)

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