原題:“快餐車” / 英題:“Wheels on Meals” / 監督:サモ・ハン・キンポー / 脚本:エドワード・タン / 製作:レナード・K・C・ホー / 製作総指揮:レイモンド・チョウ / 撮影監督:ウォン・ニョク・タイ、チェウン・イウ・ジョー / 音楽:キース・モリソン / 出演:ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポー、ローラ・フォルネル、リチャード・ン、ポール・チャン、ペペ・サンチョ、ベニー・ユキーデ、キース・ヴィタリ / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan
1984年香港作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:進藤光太
1984年12月15日日本公開
2011年4月8日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
大成龍祭2011上映作品
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/08/07)
[粗筋]
中国人のデヴィッド(ユン・ピョウ)と従兄弟のトーマス(ジャッキー・チェン)はスペイン、バルセロナで暮らし、改造したワゴン“スパルタン号”で屋台を開いている。大儲けはしていないが、それなりに優雅な日々を送っていた。
ある日、精神病院に入院しているデヴィッドの父(ポール・チャン)を見舞うと、父は同じ患者であるグロリアと恋仲になり、そのお陰かいくぶん復調していた。そして、やはり見舞いに現れたグロリアの娘・シルヴィア(ローラ・フォルネル)に、デヴィッドもトーマスも一目惚れする。
しかし、その日のうちにふたりは、衝撃的なひと幕に遭遇する。夜、街娼たちが群れる一画で商売をしていると、扇情的ないでたちをしたシルヴィアが客を取っていたのだ。挙句、客の財布をくすね、勘づかれたために“スパルタン号”に逃げこんでくる。やむなく自宅のアパートに彼女を匿ったが、翌る朝、彼女はデヴィッドたちの貯金と、隣人の車をくすねて逃げていた――
一方その頃、勤め先の探偵事務所の所長が借金取りから逃げるために姿をくらまし、急遽にわか探偵に扮することになったモビー(サモ・ハン・キンポー)のもとに、いきなり大きな依頼が飛び込んできた。ある夫人の娘を捜し出して欲しい、というのである。破格の依頼料にやや不審を抱いたものの、火の車の財政状況ゆえ、モビーは喜んで引き受ける。
まだデヴィッド、トーマスと、モビーたちは気づいていなかったが、実は彼らはこのとき、まったく同じトラブルの中に巻き込まれていたのである……
[感想]
同じサモ・ハン・キンポー監督による先行作『五福星』と同じメインキャスト、と言い条、あちらはサモ・ハンを中心とする5人の面々を中心とした、アクション抜きでも成立するコメディを指向しており、ジャッキー・チェンは脇でアクション部分を補強する役割、ユン・ピョウに至ってはカメオめいた扱いだった。
その軽い扱いをフォローするような意味合いがあったのかどうか、本篇はサモ・ハンがやや出番を減らし、そのぶんジャッキーとユン・ピョウにスポットを当てた内容になっている。
アクションのインパクトは『五福星』も決して悪くなかったが、本篇はアクション・シーン自体の本数が増えているのが、彼らの身体能力にこそ惚れているファンにとっては嬉しい。冒頭、広場に現れバイクで暴れ回る連中を素手で叩きのめすくだりから、細かく小競り合いが描かれ、飽きる暇がない。
アクション・パートとコメディ部分の噛み合いは、『五福星』よりも優れている――まあ、サモ・ハン演じる主人公の直接の仲間たちがみなカンフーの達人というわけではなく、サモ・ハンとジャッキーがアクションの肝を一手に担っていたあちらでコメディ風味のアクションをこなす、という趣向自体が難しいのは確かで、或いはそうした不満を補うために本篇は企画されたのかも知れない。軽快で外連味のある動きは、『プロジェクトA』同様に活き活きしていて見応え充分だ。
ただ、ストーリー自体は如何にも香港映画というべきか、かなり強引というきらいは否めない。シルヴィアの言動に一貫性が欠けて意味不明になっているし、モビーのようなにわか探偵に人捜しを頼んだ理由も説得力に欠ける。デヴィッドの父親とシルヴィアの母親を、心を病んだ人ということにして、終盤の強引な流れを納得させようとしているきらいがあるが、さすがに乱暴すぎるだろう――この親たちの設定が理由で、この数年、本篇はテレビ放映が難しくなっている、という噂があるほどだ。邦題のもとになっている“スパルタン号”にしても、やたら意味深な機材を積んでオートメーション化しているから、あとあと何か活躍するのかと思えば、その後は移動に使うぐらいでほぼ目立たないまま、というのはあまりいただけない。自動的に準備を整えるくだりをギャグにしたかったのかも知れないが、うっかりすると周りに怪我人を出しそうで、正直なところ笑えない。
何よりも奇妙なのは、わざわざバルセロナを舞台にしている点である。別にジャッキーたちがスペイン語を話すわけでもなく、概ね香港で撮っている作品と同じような話の流れなので、どうしてわざわざバルセロナでロケを行ったのか、と訝りたくなる。いちおう途中でサグラダファミリアに入ったり、バルセロナならではの風景をきっちりとフレームに収めて雰囲気を醸してはいるし、最後の展開は現代の香港では不可能なので、ギリギリで必然性は感じられるのだが、せめて言葉はスペイン語にするとか(この頃の香港映画は基本的に声は吹替なのだから、別に大した違和感は齎さないだろう)、もう一歩踏み込んで欲しかった。
しかし、細かいことを抜きにすれば、ほぼストレスなく鑑賞出来る、滅法面白い娯楽映画であることは間違いない。この作品と前後して何度も組んでいるジャッキー、サモ・ハン、ユン・ピョウという3人のコンビネーションが、他の作品よりも光っているのも侮れないところだ。
そして、ファンのあいだではジャッキー最高の1戦、とまで言われている、クライマックスにおけるベニー・ユキーデとのひと幕は、確かに逸品だ。決してアクロバティックではない、むしろ本気で殴り合っているだけにも映る格闘だが、それだけに他の、計算され尽くしたアクションシーンとは異質な熱気が充満している。最近のジャッキー・チェン作品しか知らない人は、このシーンだけのためにでも、本篇を観ておく価値はあると思う。最盛期の彼の凄味がひしひしと実感できるはずだ。
関連作品:
『プロジェクトA』
『五福星』
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