原題:“One Life” / 監督:マイケル・ガントン、マーサ・ホームズ / 製作:マーティン・ポープ、マイケル・ローズ / 製作総指揮:アマンダ・ヒル、ニール・ナイチンゲール、ジョー・オッペンハイマー、マーティン・フリーマン、マーカス・アーサー / 編集:デヴィッド・フリーマン / 音楽:ジョージ・フェントン / 日本版テーマソング:Mr.Children『蘇生』(TOY’S FACTORY) / ナレーション:ダニエル・クレイグ / ナレーション(日本語版):松本幸四郎、松たか子 / 出演:ウェッテルアザラシ、ニホンザル、イチゴヤドクガエル、ニシローランドゴリラ、アフリカゾウ、ハキリアリ、ヒゲワシ、フサオマキザル、他 / BBCアース製作 / 配給:avex entertainment
2011年イギリス作品 / 上映時間:1時間25分
2011年9月1日日本公開
公式サイト : http://onelifemovie.jp/
TOHOシネマズ日劇にて初見(2011/09/01)
[粗筋]
南極に棲息するウェッテルアザラシは、凍りついた海の上で出産する。まだ動けないうちは、自らの身体を壁にして吹きつける強風を遮り、やがて大きくなると、母親は自ら氷を割って、潜っての狩りを子供に教える。彼らが過酷な環境を選択するのは、そこに天敵が存在しないからだ。
それに対して、日本の地獄谷に棲息するニホンザルたちは、やはり凍てつく吹雪の中で生活しながらも、オアシスを確保している。水温38度の温泉である。だが、浸かることが出来るのは選ばれた一族だけ。それ以外の者たち――権力闘争に敗れた者たちは、ただ傍観しているほかない。
コスタリカのジャングルに棲息する、小指の先ほどの大きさしかない小さな生物、イチゴヤドクガエルは更に過酷な子育ての環境を選択した。地面で孵化したオタマジャクシを自らの背中に貼り付け、木に登り、葉の窄まりに出来た水溜まりに入れる。これも天敵から子供たちを守るための方策だ。与える餌は、母親が産みつける無精卵である。母ガエルは子供たちが成長するまでの約2週間、地面と樹上の往復を幾度となく繰り返す。そして子ガエルたちは、母親の献身など知るよしもなく、独り立ちしていくのだ……
[感想]
いわゆるネイチャー・ドキュメンタリーというジャンルは、すっかり定着した感がある。最近は年に1、2本は何処かしらから発表される、というペースになっており、率直に言えばいささか見慣れてきたし、出来映えの差違も目につくようになってきた。
だが、その中でもBBCの製作するドキュメンタリー作品はおしなべて出来がいい。海洋生物全般を扱った『ディープ・ブルー』、全地球規模での取材を敢行した『アース』と、いずれも同種のドキュメンタリー作品のなかでは強い印象を残している。
こうしたドキュメンタリーは、特定のモチーフやテーマを意図的に追っているわけでもないために、ストーリーを構築しにくく、長篇映画としては映像的なインパクト以外で起伏を生み出しにくいこともあって、どれほど貴重で優れた映像である、と解っていても、飽きてしまう傾向がある。実際、前述の2作品でもいささか退屈の感は免れないのが玉に瑕だった。のちに製作された『皇帝ペンギン』や『ミーアキャット』は扱う動物をひとつに絞ることで物語を形成し、この欠点を抑えることに成功していたが、未だにネイチャー・ドキュメンタリーというジャンルにとって、長篇の尺で如何にして観客の興味を惹き続けるか、というのはずっと大きな課題として残るのではないか。
だが本篇は、被写体を1種類に絞っていないにも拘わらず、観客をほとんど退屈させることがない。作品全体のテーマが“生命の営み”に絞ったうえ、それを更に子育てや捕食の手段、或いは生き残るための知恵を、そのユニークさや特異性に着目して巧くまとめているのが効いている。映像のクオリティを過信せず、ナレーションで丁寧に情報を補い、更に音楽で全体としての統一感、物語性を付与しているのも奏功していると言えよう。
故に、こうしたドキュメンタリーの価値を理解しながらも、あまり積極的に観る気がしない、という方でも、本篇は例外的に愉しめるのではないか、と思う。
――と、作り方についての評価はこのくらいにして、このあとは本篇の真価たる、貴重な映像について触れておきたい。
この作品に限らず、ネイチャー・ドキュメンタリーで扱われる映像の貴重さは、それぞれの生き物についての知識を持っているか、テレビなどで同種の映像に頻繁に触れていないと解りづらいことが多い。実際、この作品の中でも、チーターが3兄弟で獲物を狩る様子が捉えられているが、本来チーターが単独で襲撃する生き物であることを知らないと、この映像の価値を見誤りそうだ。そのあたり、ナレーションでもフォローしているが、その場ですべての情報を提供されるよりは、予め経験や知識で理解しているほうが実感しやすい。
ただ、そうした予備知識なしでも感動を覚えられる映像が幾つかある。例えば、フサオマキザルの食事の様子だ。サルには道具を使う種類がいる、というのは比較的有名な話だが、ここで描かれる彼らの生態は、シンプルな驚きを齎す。ヤシの実を食べるために、長年にわたって受け継いできた技術、それを学ぶために試行錯誤を繰り返す子供たち。ナレーションがなくとも、この映像が驚くべき収穫であるのは伝わってくる。
そして、ごくごく小さな生き物たちを、彼らに近い目線で撮影していることも驚きだ。鼻をくねらせて気配を窺い、襲われると記憶した道を優れた機動力で疾走するハネジネズミ、小石のふりをして崖を転がり落ち天敵から逃げるオリオフリネラ、驚くべき方法で子育てをするイチゴヤドクガエル。まるでそれぞれの生き物自体にカメラを取り付けたかのような映像は、漫然と観ていれば「へー」で終わってしまうが、生き物の目線を疑似体験するかのようで、印象深い。
何にせよ、本篇は長篇映画としての完成度が高く、そのうえで映像の価値に優れている。映画好き、ネイチャー・ドキュメンタリーの愛好家に限らず、劇場で鑑賞して損のない作品であると思う。
関連作品:
『ディープ・ブルー』
『アース』
『ミーアキャット』
『皇帝ペンギン』
『グレート・ビギン』
『オーシャンズ』
コメント
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