『抜け忍』

抜け忍 [DVD]

監督、脚本、編集&プロデューサー:千葉誠治 / 製作:酒匂暢彦 / アクション監督:下村勇二 / アシスタントプロデューサー、監督助手&出演:稲垣光二 / 撮影監督:植松亮 / メイク:坂本美由紀 / スタイリスト:渋谷清人 / 音楽:諸橋邦行 / 出演:肘井美佳、泉政行、虎牙光揮、島津健太郎辰巳奈都子、内ヶ崎ツトム、廣瀬裕一郎、樋浦勉 / 映像ソフト発売元:KLOCKWORX

2009年日本作品 / 上映時間:1時間10分

2009年8月28日映像ソフト発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.nukenin.net/

DVD Videoにて初見(2011/10/06)



[粗筋]

 時は戦国、本能寺の変が起きる少し前。

 上忍が下忍を支配し、その命を駒にする厳しい階級社会の成り立っていた伊賀で、手練れの下忍が次々に殺される、という事件が起きていた。任務で里を離れていた、女にして傑出した飛び道具使いの伺見(肘井美佳)は、兄である狐野(虎牙光揮)から、ふたたび犠牲者が出たことを知り、眉をひそめる。

 その一方で、ちかごろ下忍頭(島津健太郎)の行動がますます傲岸になりつつあった。もともと好き放題に振る舞い、女を攫って弄ぶ、という真似をしていたが、とうとう伊賀の里の女にも手をつけたという。女だてらに一目置かれる伺見は常々下忍頭の目の敵にされており、幼馴染みの鎌吏(泉政行)は心配していた。

 里に戻り、上忍への報告もこれから、というときに、下忍頭は伺見に新たな命を下した。北にある墓地で、使いからの密書を受け取る、という簡単なものだったが、伺見が墓地に向かうと、そこには複数の下忍たちが待ち受けており、彼女を囲み刀を抜いた――

[感想]

 鑑賞当日のブログにも記しているが、もともとは感想のリストの“ぬ”の項に1本も作品が入っていない、という状態を払拭するために、適当に見つくろって鑑賞した作品である。それだけに、出来映えにはまったく期待していなかったのだが――なかなかどうして、日本ではなかなかお目にかかれない、しっヵりしたアクション映画に仕上がっている。

 物語はごくごく単純だ。忍者の中での階級差と、動乱の世界という背景のうえで繰り広げられる陰謀劇――という描き方をするとちょっと深甚に聞こえそうだが、階級差についてはごくさらっとしか触れていないし、戦国における伊賀や甲賀、忍者たちの立ち位置についても虚構の部分が多く、また外の世界もほとんど描かれないので、話は忍者たちのあいだでのみ展開し、決着も至極安易だ。これは劇場公開もされていない、ごく低予算の作品だったが故の制約も絡んでいるのだろう。

 しかし、その代わりにアクション・シーンの充実度は並ではない。さすがに最盛期のジャッキー・チェンの映画や、華麗なワイヤー・アクションを多数組み込んだ香港やハリウッドの作品ほどのインパクトはないが、それでも躍動感と重量感に溢れた肉弾戦は、日本映画では珍しい見応えがある。

 これは、アクション・シーンをただ殴り合いに終始したり、飛び回っているだけのものと捉えず、きちんと構成していることが貢献している。襲いかかる複数の忍者たちに、最初は刀さえ持たずに立ち向かい、飛び道具を巧みに躱し、時には獲物を奪って反撃するなど、一連のアクションの中に驚きや意外性を細かくちりばめ、物語を感じさせているのだ。主人公である伺見の、手裏剣を指で挟んで止め、逆に投げ返す、という技は、止めているところだけ見せているので普通ならその不自然さに苦笑いするところだが、テンポよく組み込むことで違和感を小さくさせると共に、この得意技がクライマックスでの意外性に繋がるよう細工がしてあるので、むしろ感心させられる。

 一部の役者の滑舌が悪く表現力も乏しいので効果を損なっている感も否めないが、独特のセンスを窺わせる台詞回しもなかなかに魅力的だ。時代背景や、“忍者”というものの存在意義を考えると、あんな洒落た言い回しが必要なのか、という疑問も湧くが、このくらいはフィクションとしての許容範囲だろう。美術の豪勢さや人海戦術を駆使した迫力で魅せることは出来ないのだから、アクションと共にそういう言葉の応酬、世界観に魅力を加えようとしていると考えると、この点も評価に値する。

 たとえば劇場で観て“大満足”と言えるか、と問われると首を傾げざるを得ないが、アクションの迫力や切れ味、それを魅力的に描こうとする意欲も含めて、爽快感を味わえる作りは、観て後悔する、ということはまずあり得ない。日本できちんと“魅せる”アクションを愉しみたい、という人であれば、少し高めとも感じる金額を払って購入しても満足する出来映えだろう。私自身はレンタルで鑑賞したわけだが、値段以上の価値はあった、と断言できる。肉弾戦を軸とするアクション映画を好むような人ならば、いちど観てみて損のない、掘り出し物であると思う。

関連作品:

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あずみ2 Death or Love

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