『がんばれ!ベアーズ』

がんばれ!ベアーズ [DVD]

原題:“The Bad News Bears” / 監督:マイケル・リッチー / 脚本:ビル・ランカスター / 製作:スタンリー・R・ジャッフェ / 撮影監督:ジョン・A・アロンゾ / プロダクション・デザイナー:ポリー・プラット / 編集:リチャード・A・ハリス / キャスティング:ジェーン・ファインバーグ、マイク・フェントン / 音楽:ジェリー・フィールディング / 出演:ウォルター・マッソーテイタム・オニール、ヴィク・モロー、ジャッキー・アール・ヘイリージョイス・ヴァン・パタン、ベン・ピアッツァ、クリス・バーンズ、エリン・ブラント、ゲイリー・リー・キャヴァナロ / 配給:パラマウント×CIC / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1976年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:岡田壯平 / PG12

1976年12月4日日本公開

2007年6月22日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/11/14)



[粗筋]

 アメリカ西海岸の長閑な土地で毎年開催されるリトルリーグに、市会議員ホワイトウッド(ベン・ピアッツァ)の呼びかけで新たなチームが加わることになった。

 ベアーズと名付けられたチームの監督として雇われたのは、酒飲みのプール清掃員バターメイカー(ウォルター・マッソー)。元メジャー・リーガーという触れ込みだが、しかし現実はマイナーリーグ止まりだった三流選手である。あからさまなにわか仕込みだが、子供たちのほうは更に寄せ集めであることが歴然としていた。人種も野球経験もお構いなし、中にはメキシコ出身のため英語が通用しない兄弟まで混ざっている。

 やる気など微塵もないバターメイカーは、ユニフォームの調達までやらされる一方で、子供たちに清掃の手伝いをさせたり、と適当に扱い、さほど練習もしないまま、リーグの開幕、そして初試合を迎えた。

 相手は熱血漢のロイ・ターナー(ヴィク・モロー)率いるヤンキース。優勝候補にも掲げられるチームを相手に、急造チームが太刀打ちできるはずもなく、初回表の攻撃で滅多打ちに遭い、攻守交代に持ち込むことも出来ず、バターメイカーは試合放棄を審判に告げる。

 子供たちにとって屈辱的すぎる展開だった。ホワイトウッド議員が解散を提案し、子供たちも多数決で解散を選択する――が、バターメイカーだけは違った。試合のあと、ロイから「リーグの恥」呼ばわりされたことで、彼の闘志に火が点いたのである。諦めは、一度やったらクセになる。決勝戦でもういちどヤンキースと戦い、あいつらを見返してやれ。

 バターメイカーの説得により、ふたたびチームに参加した子供たちは、俄然熱意の籠もった指導によって、どうにか野球が出来るようになってきた――とはいえ、すぐに勝てるようになるはずもなく、2回戦も敗退。最終回までどうにか漕ぎつけたことを賞賛しながらも、このままでは勝利は遠い、と感じたバターメイカーは、ひとりの少女に接触する。彼女、アマンダ(テイタム・オニール)はかつてバターメイカーが深い仲になった女性の娘であり、バターメイカーが密かにピッチングを教え込んでいた逸材だった――

[感想]

 経験のない子供たちに、欠陥のある人物が指導をし、最後には何らかの収穫を手にする、というシチュエーションはフィクションの世界においてはすっかり定番になっている。本篇をリメイクしたリチャード・リンクレイター監督がその直前に発表した『スクール・オブ・ロック』もそうだし、やや流れは異なるが、本邦の『スウィングガールズ』もこの系統と言えるだろう。

 1976年に製作された本篇は、このスタイルを見事に完成させていることも秀逸だが、本当に優れているのは、安易な台詞回しや構成で、強引に感動を生み出そうとしていないことだろう。

 こう言っては何だが、本篇の登場人物は全員、憎たらしいキャラクターばかりである。バターメイカーは自堕落な生き方を自ら望んで享受しているところがあって、追い込まれてもさほど同情できないし、子供たちのリーダー格であるタナー(クリス・バーンズ)はひたすらに口が悪く喧嘩っ早い、キャッチーのエンゲルバーグ(ゲイリー・リー・キャヴァナロ)は練習中でもチョコレートを頬張る奔放ぶりで、序盤はイライラもさせられる。だが、そんな彼らの姿も慣れていくうちに、そして試合が進むうちに、妙に親しみが湧いてくる。バターメイカーは娘になるかも知れなかった少女を前に、翻弄されるダメ親父っぷりを気持ちよく示すし、子供たちは相変わらず憎たらしいままでも、それぞれに可愛い部分が見えてくる。各々の尺は決して多く取っていないが、キャラクター描写のツボは押さえている。

 クライマックスの試合は特に見事だ。実に繊細な表現を積み重ね、ひと試合のあいだに多くの波乱を組み込んでいるのだが、そこに説明的なやり取り、意識して感動を盛り上げようとする演説の類がほとんどない。にもかかわらず、その場その場の中心となる人々の心情がきっちりと伝わるし、最後にバターメイカーや子供たちが選ぶ行動に、決して押しつけがましくない感動が滲んでいる。一部を除いて、それぞれの人柄や才能が大きく変わったわけではないのに、そこにささやかな変化、成長の兆しが覗くことが、爽やかな感慨を観るものに齎す。

 車を運転しながらビールを呷ったり(最後には子供たちにまで提供するひと幕さえある)、やたらと汚い台詞が飛び交ったり、と確かにあまり教育上よろしくない描写が多いせいか、現在のレーティングではPG12、保護者の監督が必要という設定になっているが、しかし本篇はそういう“俗悪”な部分に勝る、本質的な良心、優しさがあり、正直それほど悪影響を及ぼす性質のものではないと思う――むしろ、このくらいの“悪さ”を受け入れるくらいの度量がなければ、世の中窮屈で仕方ない。

 スポーツものにありがちな根性論、精神論がいまひとつ受け入れられない、それでいて絵空事じみた話も好きではない、でも観終わったあとの爽快感は欲しい――ってずいぶん我が儘な要求だが、むしろそのくらいストライク・ゾーンが狭くても、きっちり構えたところにボールが入ってくる、そんな心地好さのある好篇である。

関連作品:

がんばれ!ベアーズ <ニュー・シーズン>

マネーボール

フィールド・オブ・ドリームス

ロンゲスト・ヤード

スクール・オブ・ロック

シャレード

ウォッチメン

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