『スポットライト 世紀のスクープ』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口に掲示された『スポットライト 世紀のスクープ』ポスター。
TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口に掲示された『スポットライト 世紀のスクープ』ポスター。

原題:“Spotlight” / 監督:トム・マッカーシー / 脚本:ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー / 製作:マイケル・シュガー、スティーヴ・ゴリン、ニコール・ロックリン、ブライ・パゴン・ファウスト / 製作総指揮:ジェフ・スコール、ジョナサン・キング、ピエール・オミダイア、マイケル・ベダーマン、バード・ドロス、ジョシュ・シンガー、トム・オーテンバーグ、ピーター・ローソン、ザヴィエル・マーチャント / 撮影監督:マサノブ・タカヤナギ / プロダクション・デザイナー:スティーヴン・カーター / 編集:トム・マカードル / 衣装:ウェンディ・チャック / キャスティング:ケリー・バーデン、ポール・シュニー / 音楽:ハワード・ショア / 出演:マイケル・キートン、マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムス、ジョン・スラッテリー、リーヴ・シュレイバー、スタンリー・トゥッチ、ブライアン・ダーシー・ジェームズ、ジェイミー・シェリダン、ビリー・クラダップ、ニール・ハフ、ポール・ギルフォイル / 声の出演:リチャード・ジェンキンス / アノニマス・コンテント、ロックリン/ファウスト製作 / 配給:LONGRIDE / 映像ソフト発売元:Vap
2015年アメリカ作品 / 上映時間:2時間8分 / 日本語字幕:齋藤敦子
2016年4月16日日本公開
2016年9月7日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://www.spotlight-scoop.com/ ※閉鎖済
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2016/4/18)


[粗筋]
 ボストン・グローブ誌には“スポットライト”という特集欄が存在する。現在はベン・ブラッドリー・ジュニア(ジョン・スラッテリー)をリーダーに、4名の記者が在籍、嗅ぎつけた特ダネを精査し、選定と2ヶ月に及ぶ調査ののち、1年近い連載で特集するスタイルで、地元の内在する問題を掘り下げ評価を得ていた。
 2001年7月、グローブ誌じたいが大手のタイムズ傘下に加わったことにより、人員の移動が発生した。局長はタイムズに移り、新たにマーティ・バロン(リーヴ・シュレイバー)が新局長として赴任した。
 新しいボスがどんな改革をもたらすつもりなのか、社員達が戦々恐々とするなか催された編集会議で、バロンが指摘したのは、あるニュースの掘り下げが乏しい、という事実だった。ボストンのある神父が教区の児童に対して虐待を行い、転属になった事件がある。当時の枢機卿が揉み消しを働いていた、と推測されるが、なぜ枢機卿が隠蔽を図ったのか、その背景について調査が及んでいない、とバロンは指摘した。
 編集会議のあと、バロンはベンと“スポットライト”チームの選手兼監督を自認するウォルター・“ロビー”・ロビンソン(マイケル・キートン)を呼び出し、この1件を“スポットライト”で取り扱えないか、と打診してくる。この欄は記者達が自らの意志で内容を決定するのが暗黙の了解だが、ロビー達もバロンの着眼に関心を抱き、下調べに着手した。
 ロビー達はまず、教区で問題を起こした神父を巡り、弁護士として携わったエリック・マクリーシュ(ビリー・クラダップ)と、枢機卿を訴えているミッチェル・ガラベディアン(スタンリー・トゥッチ)への接触を試みる。だが、いずれも守秘義務を楯にほとんど情報を提供しない。
 しかし、ざっと探った範囲でも、露見しているよりこうした神父による児童虐待は発生している、と考えられた。ロビー達がようやく接触した、聖職者虐待被害者の会の代表フィル・サヴィアノ(ニール・ハフ)はしかし、そんな彼らが提示した可能性よりももっと多くの小児性愛者である神父が存在し、教会は彼らを短いスパンで転属させ、その都度隠蔽を図っている、と主張する。そしてそれは、ボストンに限った話ではない、とも断言した。
 ロビー達は次第に悟り始めていた。ことは決して少数の小児性愛者が特定の地域で起こした問題などではなく、もっと深く、暗い闇が横たわっていることを――



『スポットライト 世紀のスクープ』Blu-ray版(Amazonの製品ページにリンク)。


[感想]
 観終わって、まず出てくる言葉は“面白い”だった。
 あれこれ理屈を捏ねるより以前に、練られたシナリオ、実在感のある俳優とセット、逸りすぎずしかし安定したテンポを保って観る者を牽引する演出。観ているあいだ、作り方に文句をつける気分に一切させず、物語のなかに巻き込んでしまう。これだけでも本篇は賞賛に値する。
 ひとによっては、被害者たちを苦しめた醜悪な出来事を具体的に表現してしまいそうだが、本篇はデータや証言を提示するのみで、加害者も被害者も敢えてその直接的な姿を描くことをしない。そうすることで、必要以上の生々しさを観客が味わわずに済むよう配慮している――嫌悪感を過剰に催す煽情的な表現を用いなかったのは、恐らく作り手の節度でもあるのだろうが、それが語り口のテンポを保つことにも貢献しているのだ。
 世界中に被害者がいることを思えば、こんな言い方をするのはいささか気が引けるのだが、この事件はそもそも極めて興味深いものだ。聖職者が、その地位を利用して、いとけない子供達を食い物にしていた、という事実もさりながら、どうしてそれが長年、問題として扱われなかったのか。じわじわと炙り出されていくその背景は、恐らく誰もが想像しているよりも根が深い。
 相手は、世界中で信仰されている宗教組織である。その中の“個人”の悪徳を暴き立てる、ということのデメリットを説かれれば、そこに精神的基盤を置いているひとには抵抗できない。作中、にわかには信じがたい隠蔽工作が行われたことも仄めかされるが、確かにあっても不思議ではないのだ。
 そう信じられるほどの権力が相手であるから、一筋縄ではいかない。プロセスのスリリングさが際立つ。新聞記者の目線からのみ綴られているのに、この題材ゆえに極めて歯応えのあるサスペンスとして成立しているのだ。
 そこまでリアルで、訴えかける力に優れているから、本篇はその展開の勢いに心奪われながらも、様々な感情、思考を喚起せずにおかない。その広がりの豊かさこそ、しかし本篇の真骨頂と呼ぶべきものだろう。
 それにしても、これほどの事態が長年隠蔽され続けていたのも驚きだが――その一方で、あまりにも影響力が大きくなりすぎた組織が陥りやすい事態でもある、とも感じたが――本篇に登場する記者達の体験、そして取材の過程で味わった感情は、極めてドラマティックだ。ボストン・グローブ誌、そして“スポットライト”班はいずれもボストン出身者で構成されている。自分たちの縄張りで許されざる行いが繰り返されていた事実もさりながら、その疑いのある人物を、自分から決して離れていない場所で発見する感覚は、想像するだに慄然とする。背景は2001年、物語が進むなかで、あのアメリカ同時多発テロが起き、渦中の人物である枢機卿がカメラの前で祈りを捧げるのを、モニターで見つめる記者達の姿も描かれるが、どれほど複雑な想いを抱いたことか――そうした、背景や心情を想起させる描写の取捨選択も本篇は優れている。
 起きていた悲劇、そしてもう少し聡ければ防ぎ得たかも知れない、という後悔を滲ませつつも、本篇は《声を上げることの意義》を力強く問いかける。そしてそれが確実な勝利へと歩み出したことを見事に描き出した結末はいつまでも胸を打つ――そのあと、エンドロールの前で提示される“リスト”にふたたび愕然とさせられるが、それでも本篇は確かな希望と勇気を灯す物語だ。
 静かで理性的だがサスペンスを巧みに演出し、牽引力にも富んでいる。そして、“発信すること”の意義を訴えながらも、そこに慎重さも求めており、メッセージ性も豊かだ。本篇は『レヴェナント 蘇えりし者』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』といった本命視された作品を押さえ第88回アカデミー賞作品部門およびオリジナル脚本部門に輝いているが、それも納得の、極めて力強い傑作である。


関連作品:
扉をたたく人』/『ファースト・マン
バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』/『アントマン』/『ジゴロ・イン・ニューヨーク』/『ワイルドカード』/『パブリック・エネミーズ』/『グランド・ブダペスト・ホテル』/『ウォール街
大統領の陰謀』/『タブロイド』/『ニュースの天才』/『ダウト ~あるカトリック学校で~』/『消されたヘッドライン』/『闇の子供たち』/『汚れなき祈り

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