『どうにかなる日々』

ユナイテッド・シネマ豊洲が入っているららぽーと豊洲の入口脇に掲示された『どうにかなる日々』ポスター……白すぎて細部が見づらかったため、ポスターだけ色調補正してます。
ユナイテッド・シネマ豊洲が入っているららぽーと豊洲の入口脇に掲示された『どうにかなる日々』ポスター……白すぎて細部が見づらかったため、ポスターだけ色調補正してます。

原作:志村貴子(太田出版・刊) / 監督&音響監督:佐藤卓哉 / 演出:有富興二 / 脚本:佐藤卓哉、井出安軌、富田頼子 / キャラクターデザイン:佐川遥 / 作画監督:芳我恵理子、佐川遥 / 色彩設計:仲村祐栄 / 美術コンセプト:伊藤豊 / 美術監督:齋藤幸洋  / 撮影監督:高津純平 / 編集:長谷川舞 / 音楽:クリープハイプ / 声の出演:花澤香菜、小松未可子、櫻井孝宏、山下誠一郎、木戸衣吹、石原夏織、ファイルーズあい、早見沙織、島崎信長、田村睦心、天﨑滉平、白石涼子 / アニメーション制作:ライデンフィルム京都スタジオ / 配給:Pony Canyon
2020年日本作品 / 上映時間:約1時間 / PG12
2020年10月23日日本公開
公式サイト : http://dounikanaruhibi.com/
ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2020/10/27)


[粗筋]
Happy えっちゃん(花澤香菜)のもとに、結婚式の招待状が届いた。新婦は、えっちゃんの高校時代の恋人だった、その名も“百合”。えっちゃんは快く参加に丸をつけたが、式でうっかり感極まって、トイレで泣いてしまう。そこに居合わせたのが、百合の短大時代の彼女だった、というあやさん(小松未可子)。昔の恋人に対する愚痴を言い合っているうちに意気投合したふたりは、その晩のうちにあやさんの部屋で結ばれるのだった――
Go 澤先生(櫻井孝宏)の勤める高校の卒業式は例年、味気ない。もっと潤いがないものか、と悩んでいたら、先ほど卒業したばかりの元生徒・矢ヶ崎くん(山下誠一郎)に「好きでした」と告白される。心が浮き立った澤先生だが、その後、何事もなくまた1年が過ぎていった。ふたたび味気ない卒業式のあと、同僚と共に訪れた居酒屋で、3年ほど音信不通だった姉のヨリコさんとばったり遭遇する――
Lucky 小学6年のしんちゃん(木戸衣吹)の家にはいま、従姉の小夜子(ファイルーズあい)が身を寄せている。小夜子がAVに出演したことに親が激怒し、勘当されてしまったからだった。小夜子はしんちゃんと、一緒に宿題をしているみかちゃん(石原夏織)との仲が気になっているらしいが、しんちゃんは取り合わない。ある日、みかちゃんが好奇心から小夜子の出演したAVを観てしまう――
Days 中学生になったみかちゃんは、うっかり友達に、しんちゃんの従姉の話をしてしまった。そこから噂を聞いた男子に、しんちゃんは腹を立てる。小夜子の存在のせいか、どこか屈折してしまったしんちゃんに距離を感じるみかちゃんだが、気持ちはあの頃から変わっていなかった――


[感想]
 原作は、性描写もかなり生々しく採り入れて、恋愛についての様々な情景を綴ったオムニバス形式の連作漫画である。登場人物の関係性が緩やかに繋がっている作品も幾つかあるが、全体を通してひとつの物語を形成していく、とかエピソードごとの人物や出来事が交錯していき意外な顔を見せる、といったような趣向はない。だがそのぶん、説明をしない会話や、そこから滲み出す心情にリアリティや親近感を覚える、繊細な表現が魅力の作品だった。
 本篇はそのなかから4篇を抜粋し、基本的にストーリーを歪めることなく忠実にアニメ映画にしているが、そのセレクトが絶妙だ。この連作は、下は小学生から上は30代くらいまでの幅広い年代が中心人物となり、それぞれの関係性も幼馴染みかであったりきょうだいであったり教師と生徒であったり、異性だけでなく同性との恋愛も扱っている。こうした、主人公を絞り込まないからこそ出来る広がりを、うまく象徴できるようなエピソードを巧みに抜き出した印象だ。
 しかも、レーティングが上がりすぎない程度に、性描写も織り込みつつ適度にマイルドに出来る内容を選んでいる。最初のエピソードでいきなり女性同士の濡れ場が、イメージ映像的な趣向を用いつつもかなり艶めかしく見せていることに度胆を抜かれるが、最初にこれがあるお陰で、続く3つのエピソードの生々しさがうまく和らげられている。かつての連れ込み宿を住居にしている澤先生の姉と恋人の暮らしぶりも、従姉が出演したAVというモチーフも、たとえばこれらのエピソードだけ取り出して単品で披露するとどぎつさ、えぐみが出てしまうが、冒頭のエピソードで生まれる空気、世界観のなかになら綺麗に収まっている。
 本篇はいずれも、何らかのかたちで“恋心”を採り上げているが、スムーズにうまく行く話はひとつもない。それこそ冒頭のえっちゃんとあやさんのエピソードはあっさりくっついているように見えるが、しかしその実、このふたりを結びつけるのは、共通する昔の恋人・百合という存在があってこそだ。どちらも、招かれた百合の結婚式で、百合に対して抱いていたわだかまりや未練があったからこそ、すぐさま意気投合している。結果として、お互いの存在に安らぎを得られる、と確信を持ったにせよ、端緒はネガティヴな感情に基づいている。予感だけで放り出される澤先生、小夜子によっていささか乱暴に性の目覚めへと導かれてしまうしんちゃん、そんな彼への思慕を抱えたまま成長するみかちゃん、誰ひとりとしてその恋心――ひとによっては“劣情”としてもいいだろう――がスムーズに成就はしないし、そもそもそれ以前に、自発的に行動を起こすような場面もない。
 しかし、観ている側としてはむしろ、その“受け身”な言動に共感を覚えてしまう。実際のところ、よほど切羽詰まった想いに駆り立てられでもしない限り、ひとは具体的な行動に及ぶことはない。たいていの人にとってなすがまま、なるようにしかならない人間関係のまどろっこしさ、もどかしさを、本篇は時として赤裸々に、しかし柔らかに描き出す。
 こうした語り口は原作漫画で既に完成されていたものだが、このアニメ版では基本、台詞などを大きく改変することなしに、うまくアニメーションへと変換している。シンプルで適度に肉感的だが押しつけがましさのないキャラクターの描線や、決して人物を邪魔しない背景の優しさもポイントだが、特に評価すべきは声優の演技も含めた音響だろう。雑踏を採り入れたオープニングからその姿勢は既に顕著だが、環境音の扱いが実に巧い。人物の位置関係の表現、という基本はもちろん、中心人物たちの状況や心情によって、環境音そのものを敢えて排除するようなメリハリも利かせていて、場面ごとの情感を増している。アニメではしばしば、驚いたときや恐怖を覚えたときなどに吐息を入れて間を繋ぐような演技を入れるが、本篇ではそれを意識的に外し、画面に登場する表情に委ねるようにしていたという。それもまた、アニメ的な不自然さを減らし、生々しさを感じさせる効果を上げている。
 この作品に登場するひとびとは、みんなわざとらしさがない。劇中、他人に対しては繕っていても、モノローグであったり、ひとりのときに見せる表情や振る舞いには現実味がある。彼らのような状況に置かれたことがなくとも、似たような状況で近しい感情を抱いた、というひとは多いだろうし、劇中で見せる振る舞いに共感させられることも少なくないはずだ。だから、思うようにことが運ばない姿が切なく映り、様々なところで不意にかたちを為す感情にほっこりしてしまう。
 さすがに、3つ目のエピソードに搭乗するしんちゃん・みかちゃんくらいの年代には安易に見せづらいが、それ以上の年齢の人ならみんな、何かしら感じるところがあって、少し優しい気分になれるはずの好篇だと思う。どうにかなりそうな気持ちも、最終的にはどうにかなるんだし。


関連作品:
フラグタイム
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