原題:“La Dolce Vita” / 監督&原案:フェデリコ・フェリーニ / 脚本:フェデリコ・フェリーニ、エンニオ・フライアーノ、トゥリオ・ピネッリ / 製作:ジュゼッペ・アマト、アンジェロ・リッツォーリ / 撮影監督:オテッロ・マルテッリ / 美術:ピエロ・ゲラルディ / 編集:レオ・カトッツォ / 音楽:ニーノ・ロータ / 出演:マルチェロ・マストロヤンニ、アニタ・エクバーグ、アヌーク・エーメ、バーバラ・スティール、ナディア・グレイ、ラウラ・ベッティ、イヴォンヌ・フルノー、マガリ・ノエル、アラン・キュニー、ニコ / 配給:イタリフィルム / 映像ソフト発売元:IVC
1960年イタリア作品 / 上映時間:2時間54分 / 日本語字幕:吉岡芳子
1960年9月20日日本公開
2008年1月26日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/12/05)
[粗筋]
もともとは作家志望でありながら、ローマに出たあとはスキャンダル記事ばかりを書いて生計を立てるマルチェロ(マルチェロ・マストロヤンニ)は、ショウビズ界の享楽的な風潮にかぶれ、自堕落な日々を送っている。
だが、そのために同棲中の恋人エンマは心痛を重ね、遂に自殺を図った。幸いに発見が早期だったために事なきを得るが、このことは却ってマルチェロとエンマの関係を歪にする。
エンマの態度に手を焼く間も、マルチェロの身辺は騒々しかった。アメリカの女優シルヴィア(アニタ・エクバーグ)の訪伊に同行し、奇蹟を目撃したという子供たちの礼拝に参列し、そのあいだにも彼の周囲では、幻滅を誘うような出来事が繰り返される。
そうしてマルチェロは次第に、孤独と虚しさとにじわじわと蝕まれていった……。
[感想]
よくこのサイトをご覧になっている方は、いつになく淡泊な粗筋、と感じられるはずだ。しかし、これ以上詳細に記しようがない。もっと丁寧に記そうとすると、細かな表現の解釈を盛り込まねばならず、粗筋という枠を逸脱してしまうのだ。
基本的に、明快なストーリー、といったものは本篇には存在しない。鑑賞して、鏤められた表現のなかから導き出すことは可能だが、それは観客それぞれの解釈であり、恐らく誰の意見も聞かずに鑑賞すれば、観た人の分だけ捉え方は異なる。ストーリーと呼べるものがなく意味不明で退屈だった、という人もいれば、内在する主題の掘り下げ方に感銘を受ける人もいるだろう。
本篇は恐らく、そういう振れ幅が非常に大きくなるよう、意図して作られている。それ故に、ストレートに物語が見える、伝わってくるものがある、という面白さを求めている人にはまず向かない。積極的に表現を解釈し、掘り下げることに愉しさを見いだせる、という姿勢がある人でないと辛いだろう。
しかし、解釈し始めると、本当に奥行きがありすぎて、手に負えないほどの代物でもある。これは何らかの象徴だ、と考えられるモチーフは、実のところ過剰なくらい露骨に提示されている。冒頭、ヘリコプターによりわざわざ剥き出しのまま、宙吊りで輸送されるキリスト像からしてそうだ。そしてラストシーン、都会への嫌悪感を露わにしていた少女に呼びかけられても声が届かない、という描写から窺える、主人公たちの感覚の乖離は、ヘリコプターの乗員と屋上のプールにたむろした女たちのちぐはぐな会話と相俟って、強い印象を残す。
個人的にいちばん印象に残ったのは中盤あたり、“奇蹟”を目撃した、という子供たちを中心とした騒動である。教皇庁の取り調べを受けた直後の子供たちが、聖母を目撃したという樹に礼拝する様子を待ち受ける野次馬と無数のマスコミ。その節度を欠いたお祭り騒ぎぶり、挙げ句の果てに起きる悲劇。現代においてもしばしば目撃される狂乱を巧みに凝縮しており、全体に淡々とした象徴に彩られた本篇において、一種のサスペンス的な味わいさえ醸している。
メッセージ性に富むようでいて、しかし観ようによっては、耽美的で頽廃的な空気に彩られたピカレスクと取れなくもない。無自覚な滅びの美学のように映り、考えようによっては切ない美しさを宿してさえいる。
だが、それこそこの映画の恐ろしさだ。刹那を追い求め、享楽に酔いしれる生き方の、傍目の美しさを押さえながら、奥底に滲むグロテスクさを象徴でもって描き出す。おぞましさも美しさも、等しく捉えているのだ。
掘り下げるポイントが無数に存在し、簡単に語り尽くすことは難しい。観て絶対に面白い、と言えるものではないが、しかし少しでも感銘を受ける部分があれば、きっと必ずもういちど観てみたい、という気分にさせられる、滋味に富んだ作品である。――午前十時の映画祭にて、本篇の前に鑑賞した『道』に打たれた私としては、期待とだいぶ違っていたのだが、それでも確かに名作だと思う。鑑賞当日は私自身の事情で落ち着いて鑑賞出来なかったが、いずれもういちど臨んでみたい。
関連作品:
『道』
『ローマの休日』
『男と女』
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