原作:福本伸行 / 監督:佐藤東弥 / 脚本:福本伸行、山崎淳也、大口幸子 / 撮影監督:藤石修 / 美術:内田哲也 / 照明:鈴木康介 / 装飾:山田好男 / 編集:日下部元孝 / VFXスーパーヴァイザー:西村了 / 録音:横野一氏工 / 音楽:菅野祐悟 / 出演:藤原竜也、伊勢谷友介、吉高由里子、生瀬勝久、香川照之、松尾スズキ、柿澤勇人、光石研、嶋田久作、山本太郎、宇梶剛士、森下能幸、山本浩司、菜葉菜、菊田大輔、白石隼也、高橋努、水橋研二、福本伸行、スズキジュンペイ、やべけんじ、外川貴博、伊藤ふみお、中野裕斗、天田麿、伊藤俊輔、南好洋、兒玉宣勝、安井順平、梅舟惟永、伊藤幸純、林和義、篠川優莉香、依田栄助 / 制作プロダクション:日テレ アックスオン / 配給:東宝
2011年日本作品 / 上映時間:2時間13分
2011年11月5日日本公開
公式サイト : http://www.kaiji-movie.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/12/15)
[粗筋]
あの死闘から2年、伊藤開司(藤原竜也)はふたたび地下の強制労働所に落ちていた。またしても出来た借金返済のために放り込まれた開司だが、しかし彼はE班の班長・大槻(松尾スズキ)に賭けの上限を取り払わせたうえで仲間たちと共に大金を投じ、イカサマを看破することで、労働所独自の通貨を大量に掻き集めると、外出の権限を購入する。自らに賭けてくれた仲間たちのぶんも含め、およそ2億に及ぶ借金を完済するために、どうにか開司が手にしたのは、僅か2週間の外出権と、およそ100万の現金。
どうすれば短期間で手持ちを200倍にまで拡大できるか、思案しながら生活支援施設を訪れた開司は、そこで思わぬ人物と再会した。かつては帝愛グループの幹部であったが、開司とのEカードによる勝負に敗北し、地位も金も剥奪されて地下に落とされていたはずの、利根川(香川照之)である。
利根川は開司に、自分に勝てば100万を2億に出来るかも知れない場所を教えてやる、と提案してきた。開司はその提案に乗るが、利根川は策を弄し、賭け金として開司が置いた5万円をくすねて消えてしまう。だがその代償のように、利根川は帝愛グループが経営する裏カジノの招待状を残していった。
そのカジノは、朽ちかけたビルのなかに潜んでいた。開司は様子見に訪れ、高いレートで賭博が行われている様に、ここでなら辛うじて目標を達成できるかも知れない、と意気込む。
そんな彼に、チョビ髭の如何にも怪しい風体の男が声をかけてきた。男は開司を、カジノの奥へと導いていく。そこには、驚くほどに巨大なパチンコの筐体――通称“人喰い沼”が設置されていた。通常、1個あたり4円の玉が、この“沼”では4千円支払わないと得られない。だがその代わり、大当たりの穴に通せば、これまでの参加者が落としていった玉すべてを獲得出来る。その額は10億円を下らなかった。
だが、しばらく様子を見ていた開司は、簡単に攻略できないことを悟り、いったん店をあとにする。そんな彼に、先ほど“沼”に案内した男が声をかけてきた。自分は“沼”を攻略するために、長い時間を費やしてきた。是非とも開司に、手伝いをして欲しい、と言うのである……
[感想]
漫画や小説が映画化される場合、ファンにとって望ましいのは、原作に忠実であることだろう。配役がイメージと異なっている、ストーリーが違う、主題がすり替えられている……たとえそれである程度成功した仕上がりになっていたとしても、やはりあまり快いものではない。
本篇の前作は、そういう意味では完璧とは言い難かったが、ある程度成功を収めたのは、藤原竜也に香川照之という2世代の傑出した俳優が凄まじいばかりの演技合戦を披露したことと、原作と構成は異なり、衝撃度の多いシーンを削りつつも、ギャンブルの無情さ、その中で繰り広げられる駆け引きの面白さ、という原作のもつ魅力を充分に再現したが故だろう。それでも原作ファンのあいだでは若干微妙な評価を受けたものの、こうして続篇が製作されたのだから、映画化としては成功の部類と言える。
生憎と、私はこの作品で引用されているエピソード部分あたりから原作を読んでいないので、どの程度原作をなぞっているかは判断しがたい。しかし、今回は脚本に原作者が加わっているからなのか、前作以上に“福本伸行”っぽさが強まった印象を受けた。
原作未読とはいえ、間違いなく原作と異なるだろう、というポイントが幾つかあることは解る。最たるものは、利根川の再登場だ。原作では“Eカード”篇の最後、壮絶な場面を残して、それっきり行方をくらましている。映画版ではこのシーンが省かれているので、復活はまだしも受け入れやすいが、原作のファンからするといささか微妙な点だろう。
だがそのお陰で、映画独自のドラマ性はいや増したように感じられる。開司との再会やその後の展開は、第1作の壮絶な直接対決の延長上にあるようで、見応えがある。
この映画版におけるもうひとつのポイントは、石田裕美(吉高由里子)である。前作のラストでほんの少しだけ登場したキャラクターの再登場だが、しかし彼女はその背景ゆえに、本篇の非常に重要な肝となっている。前作をご覧になっていない方のためにあまり細かくは触れないが、彼女の存在のお陰で、前作にもあった“勝ち組”“負け組”という思考、金によって追いつめられる人々の心情を巧みに掘り下げている。利根川にしても彼女にしても、調べる限り原作にはないモチーフだが、それを原作のもつテイストを映画なりに再現するように活用しているのは見事だ。
原作者が加わったことで独自のカラーが再現された、それを最も強く感じられるのは、台詞の印象だ。箴言集、などと銘打ち、名台詞だけを抜き出して書籍化するほどにインパクトの強い原作者・福本伸行のテイストは、前作でも可能な限り保持されているが、本篇ではいっそうその独自のアクが匂い立っている。映画独自である、という“姫と奴隷”ゲームでの開司の独白や利根川の台詞、そして“人食い沼”ラストの演説と、役者の表現力とも相俟って、そのパワーは前作以上と言っていい。
ただ、原作を知らず、前作における駆け引きの緊張感、面白さに惹かれたような人は、本篇にはやや期待外れの感を抱くかも知れない。本篇の面白さは駆け引きというより、『オーシャンズ13』や『大脱走』のような、難攻不落の金庫を狙ったり、監獄からの脱出を描く面白さに近い。それゆえに、相手の裏の裏を掻く、という興趣は大幅に減ってしまった。オリジナルで導入された“姫と奴隷”にしても、前作の登場人物を更にひとり引っ張り出して掻き回したわりには、仕掛けが単純すぎるので、少々驚きには乏しかった。
だがそれでも、“人食い沼”攻略のプロセスには興奮を覚える。一部の手法は非常にシンプルなのだが、最大の着眼点については、まるで大掛かりな推理小説を読んでいるような興奮がある。ヴィジュアル的にきちんと表現している点についても評価出来よう。
そしてこのクライマックスで、序盤からの描写や、巧みに配置された人物が非常に活きてくる。福本作品としては些か人情に偏りすぎている感があるのが好みの分かれるところだろうが、普通の感性であれば、この終盤の流れに燃えずにはいられないはずだ。人物像とドラマが絶妙に噛み合っており、前作とは異なるタイプのカタルシスが堪能できる。
エピローグ部分については違和感を覚える向きもあるだろうが、前作と比較して考えると間違っていない。たとえ立場は変わっても本質は変わらない、という意味では、非常にこのシリーズらしい後味を残す幕引きだ。
原作を愛読する人にとってどうなのか、は私には判断しがたいが、他の作品を通じて多少なりとも福本伸行作品の個性を理解していて、前作に該当する部分だけ原作を知っている、本篇の原作部分は未読――というめんどくさい立場から鑑賞する限り、充分に満足のいく仕上がりである。原作や前作に拘ることなく、日本では珍しい“金庫破り”ものに通ずる面白さが味わえる、秀逸なエンタテインメント作品と言っていい。とはいえ、原作はいいにしても、せめて前作ぐらいはいちど観ておいたほうが、より愉しめるのは確かだが。
関連作品:
『十三人の刺客』
『コクリコ坂から』
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