『ファースト・ミッション』

ファースト・ミッション プレミアム・エディション(2枚組) [DVD]

原題:“龍的心 Heart of Dragon” / 監督:サモ・ハン・キンポー / 脚本:バリー・ウォン / 製作:ジミー・ウォング / 製作総指揮:ウー・マ / 撮影監督:アーサー・ウォン / スタント・コーディネーター:ユン・ピョウ / 音楽:椎名和夫 / 出演:ジャッキー・チェンサモ・ハン・キンポー、ウォン・カム・サン、エミリー・チュウ、ディック・ウェイ、マン・ホイ、タイ・ポー、ラム・チェンイン、ジェームズ・ティエン、コーリー・ユン / 配給:松竹富士 / 映像ソフト発売元:松竹

1985年香港作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:宍戸正

1985年9月14日日本公開

2011年5月25日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

DVD Videoにて初見(2011/12/27)



[粗筋]

 特別機動隊から刑事となったフォン・シャンヤン(ジャッキー・チェン)には、知的障害を持つ兄のシャンタク(サモ・ハン・キンポー)がいる。子供たちと仲がいいが、しばしば利用されて、シャンヤンは患わされることがしばしばだった。

 もともと船乗りが夢だったシャンヤンは密かに求人に申し込んでいたが、とうとう採用の通知が届く。更にずっと交際していた恋人のジェニー(エミリー・チュウ)に求婚をして、長年の夢を一挙に叶えようとするが、友人たちの「兄の面倒を見させたいだけじゃないのか」という指摘でジェニーは怒り、拒絶されてしまう。

 兄を心配するシャンヤンは、長い船旅のあいだ、付き合いのある一家に兄を託そうとするが、シャンタクは子供たちに「捨てられるんだ」とはやされてふて腐れる。しかし、シャンヤンの悲嘆を前にして、「独り立ちしなければ」という想いに駆られるシャンタクだったが、愚鈍な彼を雇おうという物好きはいない。けっきょくシャンヤンは、まだ警察に留まるしかなかった。

 警察ではその頃、ある犯罪組織を追っていた。盗んだ宝石類の取引が行われる、という情報を得て踏み込むが、肝心の証拠品を持った部下が隙をついて脱出してしまう。

 しかし、運命の悪戯か、たまたまシャンタクが子供たちと共にヒーローごっこをしているところに遭遇、いい歳をした男が拳銃を構えている場に遭遇したことに慌て、部下は宝石の入った鞄を放り出して逃走した。鞄の扱いに苦慮したシャンタクたちは、それを埋めて隠してしまう……

[感想]

香港発活劇エクスプレス 大福星』や『七福星』、そして『ポリス・ストーリー/香港国際警察』と同じ1985年に撮影された作品である。

 この時期のサモ・ハン、ユン・ピョウとのコラボレーション作品の例に漏れず基本的にはコメディ・タッチなのだが、他の作品に比べて少々トーンが重いのは、知的障害を持つ、というサモ・ハン演じる兄の設定ゆえだ。サモ・ハン自らが主演も兼任する“福星”シリーズとの差別化を図ったように思われるが、その意味では成功している。

 子供たちとのやり取りで笑いを誘う一方で、しかし本篇の勘所はむしろ、兄弟の関係性が生み出すドラマだろう。夢のためには兄の存在が邪魔なのだが、ないがしろには出来ない弟。純真で悩みなどないように見えても、自分が弟のお荷物になっていることを薄々察していて、自分なりに何とかしようと努力する兄。そのふたりの想いが生み出す中盤のドラマは、コメディ的な安易さはあるものの、なかなか感動的だ。

 ただ、サモ・ハン監督独特の空気作りが、必ずしもこうしたテーマを扱うのには向いていない、という印象も受けた。この頃の香港映画では知的障害、心の病を安易に取り込む傾向にあり、それを躊躇なくコメディとして用いる分にはむしろ受け入れやすいのだが、こういう若干なりともシリアスな雰囲気を加味した作品にすると、引っかかりを覚えてしまう。何とか仕事を得ようとしたシャンタクが、訪れた先でさんざん馬鹿にされるくだりは、コメディとして振り切れていればまだしも、あとの展開があるだけに痛々しさが強すぎる。

 しかもそのあと、トラブルに発展するくだりでは、警察の動きがあまりにも非現実的なのが気になる。サモ・ハン作品に限らず、この頃の香港映画ではしばしばこうした横紙破りめいた振る舞いが見られるが、本篇ではそれがコメディではなく終盤のアクションや、エピローグで描かれるドラマの導入に用いられているだけに、不自然さがよけい印象づけられてしまっているのだ。

 この時点ではまだ珍しい、ジャッキーの感動を誘う演技は見応えがあるし、終盤の容赦ないアクションもサモ・ハン監督作品としては異例で迫力がある。細かな描写には問題があるものの、ストーリーとしては“福星”シリーズなどよりもまとまっている。そして何より、他のジャッキー作品では見られない類のエピローグは秀逸だ。

 ある意味で香港映画らしさが足を引っ張った作品だが、しかしその香港映画が持つ独特の俗っぽさが、ほんのりと心暖まるドラマにも繋がっている。恐らく今の香港映画業界が作ればもっと洗練された作品になり、支持を集める仕上がりにもなっただろう主題とプロットだが、この当時の俗っぽさが魅力と味わいにもなっていて、評価するのが悩ましい作品である――日本公開版においてはアクションが増量され、更にいまなおファンのあいだで愛されている、日本語で歌われたテーマ曲まで挿入されていて、ファンとしては憎めないのだ。

関連作品:

五福星

香港発活劇エクスプレス 大福星

七福星

スパルタンX

サイクロンZ

ポリス・ストーリー/香港国際警察

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